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幕間的なモノ:とある男と、ある人物


幕間的なモノ:とある男と、ある人物



 私はクロ・ハートフィールドを愛している。

 僕はオール・ランドルフを好いてはいる。

 俺は子供達を好こうとはしている。


 性格破綻者である事は自覚しているが、破綻者だかと言って人生を楽しんではいけないという訳ではない。拙は拙なりに、自分の中のために世を楽しもうとしつつ、愉しんでいる。だからとてもつまらない。


――今頃、メアリー・スーあたりが脱出の算段を見つけているあたりですか。


 アゼリア学園の校舎を、窓からクロ・ハートフィールド達が向かった壁の方向を見ながら、今頃彼らの所で起きているだろう事を予測しつつ、我は歩いていく。

 この世界からの脱出方法はそう難しい物でも無い。気づきの問題で、視方を変えれば魔法が苦手なクロ・ハートフィールドやネロ・ハートフィールドでも気付けるような、低ランクの結界空間魔法である。彼女らが脱出方法を未だに見つけられないのは、単に「このような大規模魔法なら、余程な高度な結界を使用しているに違いない」という思い込みが見つけられなくしているだけだ。初心者向けではないが、初級者向け、という感じなのである。


――そしてその後は、脱出先の選定をして……時間があるようなら、デートをすれば良いとメアリー・スー達が気を使うだろう。


 そのデートがハートフィールド家族四人でするのか、夫婦でするのかは五分五分だろうが、空間が壊れる事無く安定しているから脱出まで余裕あるのと、シキまでへの龍脈を辿る脱出路を見つけて入れば、すぐに脱出できる事を知れば、アイツらはこの状況を楽しもうとするはずだ。

 この空間に来るまでの状況が分からない――覚えていないとしても、深く考えても仕様が無いとし、この空間を楽しみつつも黒幕が存在しないかを調査し、どういう空間かを知ろうとし、黒幕もそれ以上知れる事も存在しないと分かれば、考えても仕様が無いという事で今ある状況を少しでも楽しもうとする。アレ達はそういう集まりである。


「やぁこんにちは。あるいはこんばんは。それともその日初めて会う相手にはおはようございますというのが良いのかもしれないから、おはようございますが良いのかな。どう思うだろうか、カーマイン君?」


 形は無い。姿はある。

 男の声だとは分かる。コチラに対して敵意は無い。

 やる気がないのが声で分かる。非常に熱心な声色だと分かる。

 なによりもハッキリと分かるのは、この存在がこの空間を創った存在であり、クロ・ハートフィールドとその妻を連れて来たという事だ。


「しかし君はおもしろいね。呼ばれても呼び込んでも居ないのに、この空間へと入った。入り込んだ。しかもこの空間が、君達が呼ぶ夢世界の残滓を利用した空間だと理解した上で、だ。どうしてそんな事をしたのかな」

「クロ・ハートフィールドに会えるからな。それ以上に理由は必要か?」

「はは、なるほど。愛というやつか、素晴しい」


 本気で称賛しているような、心の底から馬鹿にしているような。どっちとも取れる、あるいはどっちも真実であるかのようにこの存在は――


「セルフ=ルミノス」

「……なに?」

「名前だよ。この存在でも謎生命体でも、Xでもナニカでも構わないが、僕の名前はセルフ=ルミノスだ。ルミノスと気軽に呼んでくれ」


 ……ルミノスは、こちらに敬意を示すように名乗った。敢えて今名乗ったのは、こちらの考えなどお見通しとでもいう宣戦布告か。しかしそうだとすれば、わざわざ儂に質問をしなくとも答えを得る事が出来るのではないか……という質問は、無粋なものなのかもしれない。

 ……しかし、セルフ=ルミノス、か。随分と勇気のいる名前を名乗るものだ。


「それで、君は何故この空間を知る事が出来たのかな。そして何処まで知っているのかな」

「答えなかったら脅すのか、それとも殺すのか?」

「別になにもしないよ。僕を勝手に快楽殺害者にしないでくれ。これは知りたい事が出来たから、聞いただけなんだから」


 つまりこの状況自体ルミノスとしては、単に暇だったから来たというだけなんだろう。朕がなにをした所で問題ない。あるいは計画の邪魔をするような事を起こしたとしても、ルミノスはそれを是とする。……個人としては前者であった方が良いのだが、自分の直感は後者だと告げている。

 これ自体は想像出来た事ではあるが、ここまで予想通りだと、とても――とても、面倒としか言いようがない。


「聞いて、どうするんだ」

「楽しみたいのさ。君をね。聞いた情報から君の強さと弱さ、背景、想い、孤独さ、思慮、それらを楽しみたい。――今の所は楽しいから、もっと聞いて楽しみたいな」

「……この空間を知れた理由は、単純に出来ると分かっていたからだ」

「へぇ」


 この空間は夢世界の残滓であり、残滓が最後の力で元ある学園をコピーした空間だ。コピーした理由は簡単で、核が最もいた場所であるから、コピーをしやすかっただけである。本来ならそういった機能は有しないのだが、核も術者も鍵も生き残って脱出したというイレギュラーがエラーを起こしたのである。そしてコピーされた空間は、亜空間の学園の同じ位相に作られた。

 ……というのを、あの夢世界から脱出する際に知ってしまった。恐らく知る事が出来たのは、自分があの世界であの世界特有の力を身に宿していたからだろう。だから知る事が出来ていた俺は、コピーが完了した瞬間、軟禁されている部屋からこの空間へと潜り込んだというだけだ。もしかしたらローシェンナ・リバーズも、入り込めなかっただけで把握はしていたのかもしれない。

 メアリー・スー達がこの空間に入り込めたのは、出来たばかりというのと、夜という魔が集まりやすい時間で位相のズレが起きて、偶然入り込んでしまったのだろう。本来なら同じ位相に出来た所で入り込めず、時間と共に消滅するのだが……本当に偶然、そうなってしまった。そしてあろうことかそこで痴話げんかを始めた。……あのままいけば、この空間が壊れる際に巻き込まれてアイツらは死亡……だけならいいが、戦闘の余波が空間内部に溜まり込み、壊れる際に爆弾のように現実世界に波及する可能性もあった。……本当迷惑な奴だらな。


「しかし、入ってみて驚いた。誰かも分からぬ存在が、この空間を弄っていたのだからな」


 ……そう、それだけなら不本意にも僕が止めれば事は済んだ。メアリー・スー達に関しては本当に偶然なのかもしれないが、この空間には細工がしてあった。そしてその細工を誤魔化すために、クロ・ハートフィールド達を引き入れた。その細工とは――


「うん、素晴しい。飽きたから説明はそこまでで良いよ」


 と、そこまで言った所で、ルミノスは拍手をしながら、吾に興味を持ったまま、説明を打ち切った。それ以上言った所で意味が無いと言うように。


「いやはや、クロ・ハートフィールド狂いの男なだけと聞いていたけど、世間一般の評価と同じように知らない所まで予測で知る事が出来る天才なだけある。王族という立場が無ければ、知らなくて良い事を知りすぎた、と言われて消されそうな優秀さだ」

「と、すればお前は私を消すのか? 元の世界に戻るのを防ぎたいだろう?」

「別に消す気はないよ。言いたかったら言えば良い。僕はその意志を尊重するよ。頑張って」


 そのように言う男の声は、まるでそれが出来ないと確信しているような、あるいは出来たとしてもそれはそれで良いと言っているような、適当でやる気のない物であり。


「それも楽しんでいかないとね」


 心の底から言う、本音の言葉であった。


――クロ・ハートフィールド、そしてメアリー・スー。……頑張れよ。


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