分かりたくも無い
「コホン、失礼。大体俺はともかくヴァイオレットさんコスプレじゃ無かろう!」
「クロ殿、そこじゃない。今言う所はそこでは無い」
落ち着こう。確かに俺は肉体年齢は二十歳だし、若干「まだいけるかな……?」と思っても、周囲には厳しく思われる事もある。アプリコットも(多分)そうであったし、俺が制服を着ていたらコスプレだと思われて、そのコスプレに妻や家族を巻き込んでいると思われるのはおかしくないんだ。だからヴァイオレットさんはコスプレではない。よし、落ち着いた。……ヴァイオレットさんのコスプレか。よし、今度して貰おう。
「凄い邪念を感じるクロさん」
「なんです鋭いメアリーさん」
「何故貴方達が此処に居るかは分かりませんが、これは私達の問題です。……申し訳ないですが、引いてください」
水を大量に被っても、水も滴る良い女という言葉が似合うようなメアリーさんが大きな声でなくとも力強さを感じさせる言葉で俺達に言う。
一度は俺達の作戦のお陰で気勢は削がれたようだが、ボルテージ自体は下がっていないようだ。俺達の登場と雰囲気に中断しただけで、行っている事自体は譲る気はない、という感じだ。後なにか一つキッカケがあれば、再び殴り合いという名の痴話げんかを始める事であろう。
他の皆も似たような感じで――
「(俺は冷静に話し合いたいのだが……言ったら殴りかかって来られそうだ)」
あ、いや。ヴァーミリオン殿下だけは違うな。もし俺達の想像通りだったら、急に訳の分からない力で殴りにかかって来る幼馴染と同級生だ。怖いし意味が分からないだろうな。あと水も滴る良い男だな、ヴァーミリオン殿下。雑誌の表紙を飾れそうである。
後はシャトルーズも若干落ち着いている感じはあるだろうか。次の戦いは参加はしなさそうである。
「今みたいな喧嘩をしないなら俺達は介入しませんよ。仮にも母校で息子と娘の学び舎を余波で壊すとか言う喧嘩でなければね」
「そうですね、そこは気を付けます」
「うん、気を付けよう」
「……そうですね、そこは気を付けなければ」
おお、まさに形だけの返事。言われた通り気を使いはするが、止める気はないという感じだ。アッシュとシルバも似たような感じである。……これは本当の意味で止めるのは難しいな。説教をした所で意味が無いし、話を聞くとも思えない。……どうしようか。いっそスッキリさせるために思う存分殴らせた方が良いだろうか。今度は魔法禁止とかで……いや、でもそれだと思い切りスッキリは出来なさそうだし……
“君も参加するとかはどうかな。そして勝って彼女を奪い取るんだよ”
それ誰も得しないな。それにヴァイオレットさん争奪戦でもないのに、このやる気満々な彼女らに交じって勝てるとは思えないし。
“じゃあやる気を出させてあげよう。折角の機会なんだから、楽しまないとね”
は、なにを言って――
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
『!!?』
そして再び謎の声が聞こえたかと思い、流れている時間自体は一瞬なのに、まるで長い時間会話をしたかのような感覚に陥ったと思えば。
唐突に校舎から大量の生徒達が現れた。先程は数名程度が何回かに分けて出会った程度であったが、それらが一気に現れたかのように俺達に向かってくる。
「え、な、なんですかこれ!?」
「迎撃準備を!」
「シキの連中か!?」
「違う――生徒だ!」
「なんか僕みたいなオーラを纏っているよ!?」
「くっ、下手に手を出すな!」
そして生徒達について詳細を知らないのか、メアリーさん達は迎撃しようとした所、相手が生徒達のようなものであった事に驚いて――おい誰だシキの連中って言った奴。気持ちは分かるが口にするでない。
いや、それよりもまずは身の安全を確保しなくては。グレイとアプリコットを守りつつ、ヴァイオレットさんやネロ達と共にこの状況を乗り越えなくては。そしてメアリーさん達とも協力するためにも、情報の共有をしておかなくては。
「クロさん、彼らは一体なんですか!?」
「俺達もよく分かりませんただ分かる事は――」
「同担拒否!」「承認欲求!」「両片思い!」「ハーレム!」「男の子同士こそ真の愛!」「いあ!」「身体が闘争を!」「性別を気にしている時点で真の愛ではない!」「女の子同士が正義!」「ふんぐるい!」「求めているんだ!」
「――面倒なオタクみたいになっている感じです!」
「ようはあまり分からないという事ですね!」
「そうですね!」




