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なにやってんだコイツら


「私達――私から逃げようとするヴァーミリオン君を私は許しませんからね! 絶対に――絶対に得たこの感情を離しはしません!」

「ああ羨ましい羨ましい、諦めきれないけれど諦めるのが良い事だと分かってしまう事が悔しくてたまらない! なのにお前はなにやってんだヴァーミリオォンンン!!」

「これってそういうことだよね羨ましい許さない妬ましい憎たらしい悔しい諦めない諦めない諦めない――諦めないためにも、僕はこの場で強さを証明してみせるぞ!!!」

「良い機会だ、俺はこの場に居る全員を我が武器と技術をもって強さを証明して見せよう。俺に負ける奴が、欲しい物を得られると思うなよ!」

「巫山戯るな! 俺は決して認めない――このまま流されて負ける事だけは、絶対に許されてはならないんだ!!」


 なにやってんだコイツら。

 それが俺……というか、グレイ以外の俺達が中庭を見て得たであろう感想である。

 正直言うならば痴話喧嘩、痴情のもつれという話を聞いた時、言葉だけの喧嘩や軽い小競り合いで済むモノとは思ってはいなかった。なにせ相手メンバーがメンバーだし、そんな規模の小さなもので世界の危機に繋がるとは思えなかった。いや、大きかろうと世界の危機に繋がるのは御免だが。

 ともかくある程度は覚悟しながら、校舎内に居る欲望溢れた生徒達に見つからないように中庭に来た俺達なのであるが……


「全能力、フルスロットル!」

「風精霊の子、此処に在り!」

「我が身に宿れ叡智の闇夜!」

「多重屈折次元現象一閃斬!」

「王族最大火力体内包魔法!」


 改めて言おう。なにやってんだコイツら。

 メアリーさんは持ち前の高スペックな能力を殴るために使ってなんか神々しく輝き。

 精霊を身に宿すという、ゲームの事を思い出しても「なにそれ、知らん」となるような怖い力の使い方をしているアッシュ。

 特殊な魔力を同じく身に宿して鎧のように纏い戦うシルバ。これはなんとなくクチナシ義姉さんに聞いてはいたが、実際に目にすると凄く格好良――コホン、運動能力が比較的低いシルバでも凄い動きをして居る。

 そしてシャトルーズ。お前はなに次元を斬って別次元に行こうとしている。空間を切り裂いていたのは前に見たが、なんかさらに凄くなって人間離れしてないか?


「ヴァイオレットさん、あの中に仲間入りできたりします?」

「確かに私はゲームで奴らと同じように登場したかもしれんが、仲間にしないで欲しい」

「ですよね」


 ……ともかく、なんかちょっと見ない間に成長したなぁ、と思うメンバーの戦いぶりである。成長は成長でも、ピカ〇ュウがブルー〇イズホワイ〇ドラゴンに進化したような「どうしてそうなった」みたいな成長だがな!


「ふっふっふ。これが世界の危機的状況でなければ我も参加したいと思う、まさに世紀末的聖戦(ラグナロク)である……!」

「アプリコット様なら皆様に引けを取らない戦いが出来ますものね! 私めは……」

「フゥーハハハ! グレイも弟子としていずれあの中にも参加できるであろうよ!」

「! ありがとうございます、精進いたします!」


 ……大丈夫かな。息子と娘が気が付けば手の届かない所に行きそうだ。なんというか戦力の強さ的に。喜ばしいのかもしれないけど、ちょっと複雑である。これが子離れできない親心というやつなのだろうか。多分違うが。


「で、ヴァーミリオン殿下をどう思いますか、ヴァイオレットさん」


 そんな子離れできない俺のセンチメンタルな感情はともかく、よく分からない戦いを繰り広げているメンバーの中で、唯一違和感がある人物……ヴァーミリオン殿下についてヴァイオレットさんに聞いてみる。

 全員が訳分からない動きをしているのだが、ヴァーミリオン殿下だけはなんと言って良いか分からないのだが……


「激しい戦闘で見にくいが、アレは以前の殿下だろうな。入学当初だろうか」


 そう、まるで一人だけ昔に戻ったかのような違和感があるのだ。

 その理由が魔力の動きなのか、他のメンバーの言葉のせいなのか、動きが何処洗練さに欠けている、とでも言うのだろうか。ともかく成長が消えたような違和感がある。あまり殿下と会っていない俺ですら感じるのだから相当と言えよう。


「父上、もしかしてですけど、ヴァーミリオン様は夢世界とやらから戻れていない……という事なのでしょうか」


 夢世界の事情を知っているグレイが、俺達の会話を聞いて尋ねて来る。

 グレイが聞きたいのは、ネロが夢世界からこちらに来たような事や、俺達が両方の世界の記憶を持っているような事が、ヴァーミリオン殿下にも起きているのではないかと聞いているのであろう。


「可能性としては十分あり得るな。基本的にあの世界の事は、あの世界で記憶を取り戻さない限りは覚えている事は無い。だが、なにか原因で記憶がこの世界に引き継がれた、という可能性がある」


 なにせ前代未聞の魔法だ。なにが起きてもおかしくはない。

 それが「夢世界から戻る際にリセットされる記憶が、リセットされなかった」なんて事は無いとは言う事は出来ない。それがもし、ヴァーミリオン殿下に起きているとしたら、ヴァーミリオン殿下に感じる違和感も――ん?


「なぁクロ」

「なんだネロ」

「多分俺と同じ答えが生まれたと思うんだけど」

「ああ、何故かネロの思考が読める気がする」

「そうだろうな。……もしかしてこれ、ヴァーミリオン殿下が記憶を失って」

「記憶を思い出させるためだけにこんな事やってるのかもしれないな」

『…………』


 俺とネロの言葉に、ヴァイオレットさんやアプリコットも黙り込む。恐らくその可能性が高いと同時に、正しかった場合にこの状況をどう判断すべきかという沈黙であろう。


「あ、もしや世界の危機や後始末というのは、ここが実は夢世界の名残空間であり、彼らが暴れるとこの空間に危機が訪れる。そして壊れたら魔力が散らばり後始末が面倒になる、という事なのでしょうか」


 そしてグレイの無垢な疑問に、その可能性も十分あるなー、ははは、というよく分からない笑いが俺の中に沸き上がる。

 うん、えっと、ようするに。なにがあってここがあるとかそういうのはまだ分からないが。とりあえず。


「アイツら止めよう」

「了解した」

「うむ」

「分かりました!」

「おう」


 とりあえず、まずはアイツらを止めるとしよう。


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