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存在しない経験と未知の体験(:朱)


View.ヴァーミリオン



 ぐちゃぐちゃになる。壊れ始める。崩壊する。


 それは初め、小さな違和感であった。

 デジャヴ現象のような、記憶にない記憶が脳を巡るような、本で読んだ内容を自分の体験のように思いをはせているような。

 誰にでもあるような、本来ないはずの物を自分の経験のように夢想する類の話だ。クリームヒルト曰くこういう事をする乙女をユメジョシというとか。


――俺とてそういう経験がない訳ではない。


 ユメジョシ……空想の世界を描いた物語の本や、クリア様の戦いを描いた伝記をなどを読み、“自分がこの世界の主人公であったのなら”というように妄想した事もあるし、アッシュやシャルを巻き込んだこともある。

 そういった半ば忘れかけている子供の頃の妄想を何処かで覚えており、似た現象を妄想と結び付けてデジャヴ現象と結び付けて疑問視して悩むような、答えが見つかれば何故悩んでいたのかと思うような程度の代物。

 ただ、今回の“それ”は、程度で済むようなモノでは無かったのである。


――吐き気がする。


 それは突然、あるいは徐々に。蝕む様に、俺の中に忍び込む。

 誰かが夢世界と呼んだという世界における感覚が俺に襲い掛かって来る。


 俺の中に知らない記憶が一年半分流れ込む。

 知らないはずの経験を自分の事であると理解出来てしまう。

 物語を読んでいるような感覚に陥る。

  違うこれは俺の記憶と感情だ。

 まるで未来を知ったような感覚に陥る。

 それはまるで俺が偉人となり、功績を羅列したようなものだ。

 こうなる、と言われても実感が湧かないのだ。

  違う、違う。俺が自ら選んで経験し、忘れたくない記憶だ。

 幼馴染以外のヒトを信じないお前は友人が多く増える。

 許せない母をお前は許す。

 好きな女のためにお前は必死に努力をする。

 ……ありえない事だ。俺がそんな事をするはずがない。

 ありえない。ありえない。ありえない。


――……だってそれはお前()が一番理解しているだろう。


 そして俺がメアリー・スーという女を好いているという事実が、ただの過去に対する感想になった。

 アッシュやシャル達と過ごした学園生活が経験から知識に変わった。

 エクルやシルバという学園からの友人が本の登場人物へとなった。

 家族の事が俺の知らない所で勝手に解決した事象になった。

 そういう事もあったような、というような、思い出にもなっていないような――それこそ、本で“こういうことがありました。めでたしめでたし”というような、物語を読んでいる感覚に陥ったのである。


――ぐちゃぐちゃになる。壊れ始める。崩壊する。


 ああ、とても気持ち悪い。

 本で物語を読んだ感覚であるが、どうやらこれは俺の記憶で事実のようだ。

 

「記憶喪失とはこんな感じなんだろうか」


 そんな事を呟きながら夜の学園内を歩きまわる。理由は学園を見て回れば記憶に実感が持てるのではないか、という淡い希望だ。

 もしかしたらこの希望も一年半の記憶から生まれた感情なのか。

 誰かに見つかれば王子とはいえ注意を受けるのだろうか。


――ああ、吐き気がする。


 そんな、まるで王族魔法を使っている時のような、魔力が地脈と同化している感覚を持つがために込み上げる吐き気と、何処か他人事のような感覚を持ちつつ中庭に差し掛かったところで。


「そんな事を言うヴァーミリオン君には身体で思い出させますよ歯を食いしばれやがれですオラァ!!」

「待て!?」


 俺が好きだという女は俺を殴りにかかって来た。


「待つんだメアリー・スー! 何故俺を殴る事が思い出す事に――うぉ!!!」

「ちっ、外してしまいましたか。巫山戯た事を言う相手にはこれが一番という研究結果と平成初期アニメが証明しているんですよ!!」

「なにを言っているんだメアうぉ危なっ!」

「逃げるな……私という責任から逃げるなこの卑怯者!!」

「少なくとも殴りにかかって来る奴には言われたくない台詞だな!!」


 おいヴァーミリオン・ランドルフ。お前はこの女の何処に惚れたんだ。

 アレか、実は俺は殴られる事に喜びを見出すような男だったというのか。だからこそ殴ればすべて解決するという事なのか。もしそうならこのままが良いぞこの野郎!


「アッシュ、シャル! お前達も見てないでメアリー・スーを止めてくれ――」

「我が身に宿れカーバンクル! かつてクチナシ様とシルバを止めた私になり、この戦いに身を投じるのです!」

「アッシュ!!?」


 何故かメアリー・スーと共に居た幼馴染に助けを求めるが、幼馴染はなんだか子供の頃に妄想したような力を手にして覚醒していた。なんだあれ。しかも止める所か戦いに参加しているけどなんだこれ。俺の知らない間になにがあった。


「ねぇ、シャル、どうする?」

「どうすると言われても、止めるべきだとは思うが……シルバはどう思う?」

「多分シャルが理性ではなく本能で思っている事と同意見」

「そうか。……あんな馬鹿な事を言う男には」

「殴って目覚めさせないとね! 行くよ、憑依モード!」

「次元を切り裂く!」


 お前達もか。

 なんだシルバ・セイフライド。お前はなんか黒い魔力を纏っているが、何処となく王族魔法を彷彿とさせるな。そんなものを上手く身体に宿らせればそれは強くなるよな。

 そしてシャル。お前は気軽に次元を割くな。空間に亀裂を入れるな。いつから俺の幼馴染は人間をやめたんだ。


「ええい、やってやる。俺は決して、お前達なんかには負けないからな!」


 だが俺とて矜持があるのだ。たかが人間をやめた輩が四人来た程度で、俺に勝てると思うなよ!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に考えたら人間やめたやつ4人来たら負けるよね?
[一言] 他のメンバーと逆のことが起きてる?夢魔法をヴァーミリオンは使えないけど使える素養があるせいか?
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