見たくない
学園制服姿で、親子二代が学園に集合という、言葉にすれば色々と不安になる状況の中、俺達は息を潜めて空き教室に居た。このような状況をあまり人に見られたくない……という事はあまり無いのだが、今見つかるのはとてもマズい。
「承認欲求……承認欲求……!」
「無限の可能性……無限の可能性……!」
「ふんぐるい……ふんぐるい……!」
なにせよく分からない事を言っている彼らに見つかると、社会的という問題ではなく精神的にやられそうだからである。なにせ見た目もおかしいが、言葉も呪詛を繰り返すかのようにヤバい内容だからな。なにがどうヤバいかは各々の判断に任せるが。
「……それでクロさん。貴方達がここに居る事と、なにやら妙な事を言う生徒達には関係はあるのであろうか」
そして俺達に襲い掛かって来た生徒三人が遠くへと行った後、念のため声量を抑えながらアプリコットは尋ねて来た。
状況が状況なので俺達がなにか知っていると考えるのは自然とは言えるが、
「すまない。彼らについては本当に分からん」
彼らについては本当になんだと問い質したい。なんだよあの生徒達は。シキの領民だってもっと攻撃性は薄いぞ。性癖への忠実さは似たようなものだけどな。……おかしいな、こう言うとシキの領民がとても大人しくて大人な感じがするな。
「……ヴァイオレットさんは?」
「生憎と私も分からない。私達が知っているのは、メアリー達が痴情のもつれで世界の危機に陥っている、という事くらいだ」
「むしろそちらがなにがあったと問いたいのだが……む、先程言っていた空がどうとか言っていたのも?」
「恐らく関連している。……先程のモノも、もしかしたら関係しているのやもしれんな」
「そうであるか……」
……まぁヴァイオレットさんの言うように、彼らが無関係とは思えないけどな。むしろ無関係だったら困る。無関係にあんな闇のオーラを振りまく生徒がいると思いたくないし。
「私めにはよく分かりませんが……メアリー様達の恋愛攻防戦が周囲に影響を及ぼし、あのようなうつろな状態になっているのですか?」
『…………』
……それはそれでも困るな。友人であるメアリーさんがそのような怪影響を及ぼしているとも思いたくないので、もしかしたら単独であのような状態になっている方が良いのかもしれない……いや、どっちだ。
「グレイの質問は答えられないが……その答えを得るためにも、メアリーに会いに行くとしよう」
本当にメアリーさん達はなにをやっているのだろうか。その問いの答えを得るためにも、件のメアリーさんを探し出さないとな。
「つまり我達は……」
「ああ、敵に見つからないようにしつつ、目的地まで行くぞ」
「ふむ、あの生徒達がどのような影響か分からない限り、戦闘は避けた方が良いであるからな」
「家族で学園を隠れながら進んでいく……壮大なかくれんぼのようですね!」
「ふふふ、違うぞグレイ。――スニーキングミッション、通称バーチャスミッションだ」
「な、クロさん。中々に格好良い作戦名を立ておる……! まさか隠れて進む事を貞淑と言うとは……ふ、その作戦名通り、綺麗なままでこの任務を成し遂げて見せよう!」
「はい、私めも作戦通りに行きます! 家族での共同作戦です!」
ふふふ……まぁこの作戦名的に、もしかしたら失敗するのではとも言った後に思ったが、そこは気にしないでおこう。響きが格好良いし、意味もそれっぽいしそれで良いんだ。アプリコットだけでなく、グレイも楽しんでるしな!
「……クロ殿達、随分と余裕だな」
……ヴァイオレットさんは微笑ましさ半分、困惑半分という感じだが、まぁ良いんだ。変に気負って精神的にまいるよりはずっと良い。
ともかくヴァイオレットさんだけでなくグレイとアプリコットのためにも、あの生徒達に見つからないようにしないとな!
「よし、それでは早速静かに生徒会室を目指して進軍――」
「物音!」
「ここから!」
「したぞ!」
『あ』
と、いう訳で。家族四人の作戦はスタート前にとん挫したのであった。
◆
「と、とりあえず生徒会室に着いたぞ……!」
ここに来るまで多くのトラブルがあった。
語られるヴァーミリオン殿下への愛。愛を語って同意を求める癖に、同意したら「お前如きが納得するな!」という訳の分からない女子生徒からの逃走。
シルバへの素晴らしさを語るだけでなく、シルバとクレール騎士団長とのコンビが良いと言い出す女子生徒。接点無いだろうと言うと、「同じ首都に居る!」という訳の分からない共通点を見出し、認めさせようと攻めって来られたりした。
あと邪神を召喚しそうな呪文を唱える男子生徒も居たが、なんか大人しくなったので助かった。……なんか覆う闇の部分が増えた気がしたが、多分大丈夫だろう。
「ここまで来てメアリー先輩が居ないという事が無ければ良いが……」
「その時は他にも探しましょうね!」
「そ、そうであるな!」
いやはや、しかしこういう時のグレイは本当に清涼剤になってありがたい。ヴァイオレットさんだけでも充分なやる気にはつながるが、グレイが居る事でさらにやる気がアップするからな。
「とりあえず中に入るか」
やる気もアップした所で、皆に「準備は良いか」と問いつつ扉に手をかける。
……さて、メアリーさんが居るのか、居ないのか。居た場合どのような状況になっているのかを把握し、解決していかないとな。
なにが起こっているかは未知数だが、頑張っていくとしよう。
「失礼します。あの、こちらに――」
と、俺が警戒をしつつ生徒会室の扉を開け。
「違う違う違う違う! やはり貴様はクロ・ハートフィールドとは全然違う! 俺を封じるならもっと容赦なく縛れネロ・ハートフィールドォ!!」
「やかましい散々暴れやがったクソ第二王子! 負けたんだから大人しくしてやがれ――ギャー! 何故舐めようとする!」
「知れた事――似ては居なくとも身体は同じなお前を感じる事で、少しでもクロ・ハートフィールドに嫌がらせをするためだ!」
「確かにそれを言うだけでクロは嫌がらせとして感じるだろうな!!」
俺は扉を閉めた。




