若い子の間ではなにが流行るか分からない
「さて、そろそろ調べに行くとしますか」
「うむ、まだ満足し足りないが、目的を忘れないようにしなくてはな」
ヴァイオレットさんと共に制服姿で過ごす学園という、ある意味夢であったシチュエーションを叶えてテンションが上がったが、一旦落ち着かせて目的を果たさなくては。
何故こうなったか、どういう理屈でこうなったか。両方とも分からないし、この状況を創り出したであろう声の言われたままに行動するというのも良くないとは思うのだが、目的を果たさないと、ヴァイオレットさんとの結婚生活という夢のような現実を失いそうでもある。それだけは許してはならない事なので、目的を果たしつつも現状を考えて状況把握に努める事をやめてはならない。
「しかし、この空間は奇妙な……クロ殿と一緒であるから落ち着けたが、独りであれば取り乱していただろうな……」
「…………」
ヴァイオレットさんの制服姿素晴らしいぜやっほう!
……現状を考えるのをやめてはいけない。いけないし、今もこの状況を考えているとも。決して素晴らしい姿に目を奪われて思考を中断させてはいないとも。やはりすごく良いな。
「クロ殿。まずは校舎内に入ってみるとするか。他の誰かが居るかもしれないからな」
「見せつけるんです?」
「見せつけはしたいが、そういう事ではないぞクロ殿」
「分かってます」
本当に分かっているとも。ちょっと本音が漏れただけだ。
それに見せつけられなくても独占できるし――だからそういう事ではない。落ち着いて建設的な意見を言い、行動しなくてはな。
「世界の危機の原因的に、生徒会室ですかね?」
「その可能性が高いな。よし、行くとするか」
「はい、俺が先導しますからヴァイオレットさんは――あ」
「どうした、クロ殿?」
「……生徒会室って、何処でしたっけ。ええと確か二階……?」
「……私が先導する。魔法の探知もしなくてはいけないからな」
「……お願いします」
……く、情けない。けどこれはこれで良いとも思うので、前向きに解決に向かうとしよう。さぁ、レッツ問題解決!
「む、クロさんにヴァイオレットさん。何故学園に……ほう?」
あ、アプリコットだ。校舎に入った瞬間に出会った。一緒にグレイも居て――あれ、アプリコットがなんだか妙な表情を……?
「む、父上に母上ですって!? 何処に――アプリコット様、何故私めの目を塞ぐのです?」
「気のせいだぞグレイ。クロさんにヴァイオレットさんはここには居ない。居るのはいつもと違う格好ではしゃぐカップルだけである。……グレイは、見るものではない」
「???」
おいコラアプリコット。もしかしてだけど、両親が年甲斐もなく学園制服を着て学園に来てデートをしている所を息子に見せないようにと気を使っていないか? 確かに俺は年齢的にコスプレ感がありありだが、ヴァイオレットさんは年齢的におかしくもなんともないんだからな!
それでも両親が学園制服を着て、学園でデートをするという事実は確かに厳しいものがあるだろうから気を使ってくれてありがとうな!!
「そこなカップル。我はなにも見ていないから、ゆっくりと楽しむが良い。ただ、あまり知り合いに会わぬようにな」
「気を使ってくれてありがとうアプリコット。だが、この空を見て分かる通り、そうも言ってられない状況で――」
「空? ……別に普通であろう?」
『え』
もしかしてだが、この妙な空間をアプリコット達は認識できていないのだろうか。だが、もしこの空間を認識できていれば俺達がこのような服装で来た事になにか意味を見出しそうだし……
「すまない、アプリコット。私達は色々と用がある。場合によっては手伝って貰うかもしれないから、その時はよろしくな」
「グレイを頼むぞ。今の内に学園制服デートを楽しむと良いぞ」
「む、むぅ?」
「やはりこの声は父上と母上では……?」
ここは説明するよりも、“義両親がなんか来て制服デートをしていた”という事実のまま押し通るとしよう。この状況があの声の通りに痴情のもつれによるものなら、下手に人数を増やさずにメアリーさん達を止めた方が良いかもしれないしな。数の暴力で色恋沙汰を鎮圧とか良くない。
……まぁ、痴情のもつれとやらが、何人規模か分からない以上は、いざという時は手伝ってもらった方が良いだろうが。
なにせメアリーさんだからな、痴情のもつれの対象。ぶっちゃけ王都に居る過半数の男女問わない国民が痴情のもつれを引き起こしていてもおかしくは無い。なんか怪電波を発しているのかというレベルだもんな、メアリーさんのカリスマ力。その場合は世界というか王国の危機だが。
「それじゃ、アプリコット。俺達はこれで――」
と、改めてメアリーさん達を探しに行こうとした所で。
「メアリー・スー……メアリー・スー……! 金髪も赤い目も白い肌も優しい声も全部が素晴らしい素晴らしき女性……!」
「ヴァーミリオン様……ヴァーミリオン様ぁ……! ああ、その冷たい視線で私を見て……見下して……!」
「シルバ君……シルバ君……! その昏きオーラを纏いながら私を見て、もっとぞくぞくさせて……!」
…………なんか、出た。
「アプリコット」
「なんだクロさん」
「最近の学園では、ああいうのが流行っているのか?」
「ああいうのとは?」
「なんか黒いオーラを纏って、目がピカーンと光って、欲望を口に出して」
「そして我達に“この素晴らしさをお前達にも教えてやる!”とでも言いたげに襲い掛かる寸前な感じの事であるか?」
「うん」
「な訳なかろう」
「ですよね」
ついでに言うと、RPGゲームの凡庸敵キャラとして使われそうな、使い回し見た目の生徒のようとも言える。問題はその生徒が目の前に居て、ゲームのように襲い掛かって来そうな事なのだが。ははは、困ったな。
「布教活動!」
「同担拒否!」
「ダニング=クルーガー!」
『逃げるぞ!!』
そして襲い掛かって来た。
モンスターが生徒の形を模して襲い掛かって来ているのか、本物の生徒が欲望を解放しているだけなのか。コイツらの正体が分からない以上は、下手に手出しも出来ないので逃げる。後者だった場合下手に倒せば問題しか残らないからな! この状態でも問題な気はするけどね!
「あ、やはり父上に母上でしたか。制服姿がお似合いですね。そして家族揃っての学園制服姿……是非、写真に残したいです!」
ええいこんな状況でもグレイは可愛くて最高だな!




