夢を見た。
夢を見た。
俺が一色・黒であり、クロ・ハートフィールドとして自覚した時、自分の年齢が主人公達より四歳上である事に安堵した。
ゲームのような愉快で楽しい学園生活というのには憧れるし、男女問わず美形の生徒を脇役とはいえ間近で見る事が出来るというのは楽しくはあろう。けど、それはあくまでも自分の身の安全が保障されているが故に楽しめるものであり、この世界においての主人公達を間近で見る演者なんてやりたくない。視聴者で第二の人生を楽しむためにも、主人公達と同時期に学園に居る事がない年齢差で学園生活を楽しめる事を、安堵と共に、心痛した。
夢を見た。
今は少しだけ思う事がある。もし俺が主人公……クリームヒルトらと同じ年齢であったらどうなっていたのか、と。
クリームヒルトとはもっと早く兄妹である事に気付けたであろうか。あるいは知らないまま気が合う同級生として過ごしていたであろうか。
メアリーさんに今より早い自覚を持たせて良い方向に向かえさせたであろうか。あるいは余計な事をして上手くいった事すら台無しにしていたであろうか。
そしてなによりも、ヴァイオレットさん。
彼女とは仲良く出来たであろうか。
あるいは彼女が俺を嫌ったであろうか。
あるいは俺が彼女を嫌ったであろうか。
あるいは、気が付けば犠牲になる彼女を、そのまま犠牲にしていたであろうか。
……仮定の話なのでどうにもならないし、どうなったかも分からないが、一つ思う事もある。今の状態のまま学園生活を送る事が出来たら、それはそれで楽しかったのだろうな、と。
“では可能だとしたら、その夢を叶えるのかな。あるいは妄想にしておく内が一番楽しいからと、今の自分が最高に幸福であるという安寧の椅子に座りながら悦に浸るのかな。君はどっちだい?”
随分と悪意のある二択であり、どちらを選んでも馬鹿にされそうだ。
“馬鹿にはしないさ。その選択肢は素晴らしいと讃えるだけだよ”
讃えるという名の侮蔑を受けそうだ。
“君、随分と捻くれてるね”
悲しいかな、これでも七年だけだが日本で社会人をやっていてね。しかも外部交渉を請け負ったり、審査員の言葉の白羽の矢に立つ事も多かったものでね。表向きはジョークを言っておきながら、意訳すると「日本人は規格品だけで創造品を作れる感性を持つ訳が無いだろう」みたいな事を言われる事が多かったんだよ。
“ようするに、スタートラインに立つ資格すらないと言われた感じか。大変だった様だ”
まぁな。……まぁ素行はともかく、才能だけ溢れた他の奴らが才能だけでぶん殴ってくれたから良いんだけどな。
“あ、知ってる。それわからせって言うんでしょ。確かめすがきとやらを、立場や才能や言葉で勝つ事が出来ないみじめな存在が、暴力という、大して強くないけど振るっておけば勝つと思っている故の性癖思考だ”
いや……それは違うんじゃないかな。というかその知識も偏っているし、説明に悪意があるぞ。
“悪意なんて失礼な。ありがとう!”
え、あ、うん。……ん?
“それで、さっきの質問はどうなのかな。どちらを選ぶのかな。安寧の現状を望むのか、夢を叶えるために安易な救いに手を伸ばすのか”
あれ、なにか質問の内容が違うような……?
“当たり前だろう? 広大な宇宙の中にある大海の一粒の砂のような質問なんて、時間という波に飲み込まれれば同じ物かどうかなんて判別不能であるし、質問という見た目を取り繕えば、結局は砂粒は傍から見たら同じなんだよ”
は、え、あ、うん。……そうだね?
うん、そうかもしれないから、答えるとする……よ?
“うん、答えはなにかな。ちなみに僕は結論を出すのが嫌なんだけど、君の真実を答えてくれ”
お、おう?
えっと、俺の答えは……今のままが良いかな。そもそも一度しかないはずの人生を、こうして二度目も味合わせてくれているんだ。今更現実を変えるほどの我が儘なんて言ってられない。
それに、さらなる違う環境を真に求めるほど、俺の今の人生は退屈でも不幸でもないよ。充分な幸福だ。
“へぇ”
へぇ、って興味無さそうだな、聞いておきながら。俺の回答は満足できなかったか?
“素晴しいと思うよ。そして興味が無いというのも正解だ。なにせ全ての答えは美しいからね”
興味を持つものが無い故に、全てが美しくなる感じか。まぁ全てが醜く見えるよりはマシ……なのか?
“機械的で昆虫的な感じだよ”
? ……そうか。
“その分からないけど、受け入れて納得しようとするのは美徳だとは思うけど、良くない事でもあるからね”
失礼な。俺はどちらかというと好き嫌いが激しい性格だぞ。
ただ納得をすぐに出来るほどの優れた頭脳と回転力を持ち合わせていないだけだ! 大抵考察とかも他の人の意見を見て“あ、アレそういう事か。なんかよく分からないまま雰囲気で読んでたぜ!”ってなるからな!
“ある意味そのくらい馬鹿の方が幸せなんだろうけどね”
失礼な。自分で馬鹿というのは構わんが、人に馬鹿と言われるのは納得いかん。
“なんか自分でオッサンとは言うけど人に言われるとグサッと刺さる、自分に保険をかけているみたいな事言うね”
……微妙に否定できない事言うなよ。辛くなる。
というかアンタは誰で、なんのためにこんな質問をしているんだ?
“ああ、そうそう。忘れる所だったよ。もし忘れたら僕の三千年くらいかけた計画が台無しになる所だった”
そんな壮大な計画を忘れるなよ……で、なんなんだ?
“うん、実はこのままだと世界が滅びるから、ちょっと世界を救って来てくれない?”
え、もしかしてお前、CV加藤英〇里さん的な邪妖精?
“君は自分の声を悠〇碧さんだと思っているならそれでも良いよ”
……。で、なんだ世界が滅びるって。
俺はそんな大きな問題を解決できる能力は持っていないし、大体――
“一人の人に救えてしまうような脆い世界は潔く滅ぶべし。だね”
…………。
“その意見と言葉には賛同だが、君なら出来るからこうしているんだ”
……なにをすれば良いんだ?
世界が滅ぶ、と言われて、俺に救う事が出来るというのなら、可能な限り力にはなりたいとは思う。
その世界の危機とやらは、なんだ?
“そうだね。簡単に言うと”
言うと?
“メアリー・スーとヴァーミリオン達による、痴情のもつれというやつさ”
なにやってんだアイツら。




