ピンポイント(:灰)
View.グレイ
「……あの、私をフラれるという代名詞にしないでくれるかな、グレイ君」
と、私が以前クリームヒルトちゃんに聞いた、NTRとBSSの意味を把握した際になんとなく頭に過っていたスカイ様が、何処か意見があるかのように私達に話しかけて来た。
誘いはしたモノの、少し遅れるとは言っていたのでもう少し遅くなると思ったのだが、思ったより早めの参加である。
「遅くなり申し訳ございません。スカイ、只今この場に参上いたしました。ティー殿下にフューシャ殿下の両名が居る中、私が遅れるなど……」
「堅苦しい事は抜きですよスカイ。ところでスカイはえぬてぃあーるとびーえすえすの意味を知っているのですか?」
「……はい。私が得たのはBSSだけでしたが……とても……とても、辛かったのです。スマルト君が癒してはくれましたが……ふっ」
「スカイ、思い出さなくて結構ですからね」
むぅ、これは今後スカイ様の事をBSSとして表現するのはやめた方が良さそうである。……まぁ私も意味はよく分かってはいないのではあるが。ただなんの略称かを聞いた時に、スカイ様が思い浮かんだだけなのである。
「スカイ様、こちらアプリコット様特製の【螺旋が支配し破壊】になります。コチラを飲んで落ち着いてください」
「落ち着いては居ますが、ありがとうございます。ところでグレイ君。何故急にそんな事を思い浮かべたんですか? ……まさかクロに似たあのネロ君を見て、私がそう思うと感じたとか……?」
「いえ、そうではなく、私めが感じたといいますか……」
「え、グレイ君が?」
そういえばそういった話題であったのだった。
私が今の楽しそうにされているアプリコット様達を見ると妙な感情が湧き、その感情を言語化しようとしたら先程の単語が思い浮かんだのであった。
しかし改めて考えると、NTRでもBSSでもないような気がして来た。私がアプリコット様を好きなのは今更な話ではあるが、そういった感情とは……おや、スカイ様が複雑な表情を?
「大丈夫ですよグレイ君。グレイ君がそのような感情を得る事はありません。もし得た場合は、アプリコットを奪った相手を私が個人的に問い詰めますんで」
「そこは騎士としてではなく個人的なんですね、スカイ」
「騎士が私情で私刑をするのはよくありませんし……」
「個人も駄目ですよ。――やるなら集団です。私も行きます」
「ティー殿下……!」
なんだろう、よく分からない状況だけど、あまり良くないという事だけは分かる。
私のために個人的に動いてくれると言うのは嬉しい事ではあるのだけど、そうなると個人的に動かさせてしまった事を私は後悔しそうなので、その時になったら自分の力でどうにか出来るようにするとしよう。……その時とはどんな時かは分からないが、頑張るとしよう。
「あの、詳細は分かりかねますが、私めが感じる相手はアプリコット様ではなく、ネロ様ですよ」
『え?』
アプリコット様に対しても感じると言えば感じるのだが、私に支配している言語化が難しい感情の向き先はどちらかといえばネロ様である。
彼を見ているとなにかをしないといけない衝動に駆られるというか、なにかを忘れているような……
「はっ、まさかこれは前世の記憶! 私めも思い出していなかっただけで、父上達と同じ転生者だったのです!?」
「その証明しようのない事は一旦置いておくとして、どういう事ですか?」
そうですね、安易な結論はよくありません。
ともかく私は彼を見ていると……さらに具体的に言うと、ネロ様にご奉仕しようとしているアプリコット様を見ていると、私は近くでよく見ていた光景に思えてくるのである。
「それは……彼がクロさんに似ているからですかね」
「それとは少々違いまして……ええと……そう、学園の制服を着ているネロ様を見ていると、感じるのです」
そうだ、学園の制服を着ているネロ様に、仕えるアプリコット様を見ているとそう感じる。
“仕えていたはずなのに、今は仕えていない”という、妙な感覚。
あるはずのない、その記憶を私は何処かで見た事がある。
何処で? 学園の制服を着ているのだから、学園のはずだ。
だが、父上が学園に通っていた頃に私は仕えていない。
あるはずのないその記憶は何処か、遠くて近く。そしてネロ様の昨日見たあの表情にも関わっている気がして――
「あ」
「?」
そしてふと、ある光景が私の中を駆け巡った。
あるはずのない記憶。存在しない世界。そして、あってはならない出来事。
ある意味悪夢で、ある意味では吉夢と言えるその記憶の正体は――
「ネロ様が深夜、部屋に裸の女性を連れ込んでベッドの上で組み伏せて情熱的だったとトウメイ様が仰っていたというこの記憶は、まさか私めの本当の記憶なのですか!」
『……はい?』
「おいピンポイントに妙な事覚えているんじゃないグレイ! というかトウメイさんもなに言ってんだあの人は!」




