認識と感じ方(:淡黄)
View.クリームヒルト
メアリーちゃんの変化の理由について考えようとすると、何故か「その答えを見つけてしまっては心が乙女になるぞ! 乙女って柄じゃないだろ私は!」というよく分からないけど分かってしまう感情に支配されるために考えない事にした。ひゃっはー、私はモヒカン火炎放射器が似合うタイプの女だぜ! 乙女を名乗るとか恥ずかしんだぜ! ……まぁ身体は乙女ではあるのだけど。というか喪女に近かろう。
「ぜー……ぜー……あの、もう満足かな、クリームヒルト先輩」
「あはは、戦いに付き合ってくれてありがとねネロ君!」
しかしこのままだと余計な事を考えてしまうので、戦いをする事で余計な事を考えないようにした。メアリーちゃんは残念ながら用事があるというので帰ってしまったが、流石はネロ君と言えよう。私の余計な事を考えないようにするための無茶な戦いにもついて来てくれたお陰で、妙な答えに辿り着かずに済んだ。
「ふふふ、今でこれなら私が卒業するまで楽しめそうだよふふふ」
「うわー、悪い先輩に目をつけられたぞー。というか良いのか、俺とこんな風に戦うのは」
「? どういう意味?」
「いや、エクル……先輩になにか言われないのかな、ってな。男と二人きりで戦う事とかさ」
「エクル兄は気にしないと思うけどな。妹が強くなる事に喜ぶ事請け合いだよ!」
エクル兄は別に私に貴族のお嬢様的なお淑やかさを求めていないし、むしろ変に遠慮した方が心配するだろうからね。とはいえ、家族として迎え入れてくれた事はとても感謝しているので、お淑やかさを演じて振舞う機会があればエクル兄のために頑張ろうとは思うけど。
「ん? ……えっと、クリームヒルト先輩って……エクル先輩と付き合っているとかではないのか?」
「はい?」
む、どうしてそう思ったのだろう。エクル兄は確かにモテる男子だし、噂話ではそういった方面の話にいきがちではあるのだが、何故付き合っているという事に――あ、そうか。
「ネロ君、もしかしてだけど、私がカサスの主人公だから、エクル兄のルートに入ったとか思ってない?」
「え、違うのか?」
「違う違う。そもそも私前世持っている時点で主人公というのは外見だけだろうし、ルートとかそういうのは無いよ」
「まぁ、確かに……そうだな。前世持ちなのは知っていたけど、見た目があの乙女ゲームの主人公だからついそういう方面で考えてしまった。ごめん」
「あはは、気にしなくて良いよ」
先程、家名のあたりでネロ君が気になっていたのはそこなのか。確かに主人公が攻略対象の家名を名乗っていたらそういう方面を考えちゃうよね。
「大体攻略対象君達は皆メアリーちゃんに惚れているからね……ふ。私はよくある他の転生者にイケメンたちを取られる哀れな主人公役なのさ……」
「……俺の知っている限りでは、その役割って奪った転生者が泣きを見て、主人公が良い相手と巡り合う奴じゃないか?」
「あー、隣国の王子様とか、なんか良い役職についている幼馴染とか?」
「そうそう。なんか奪った輩より権力が高くて権力で捻じ伏せる奴」
「あるねー。もしくは実は主人公の聖女としての力が凄くて、いなくなった途端色々と破綻していくやつだね」
「うんうん。そういうのあったりする?」
「いや、ないよ。聖女として相応しいのはメアリーちゃんだろうからね……」
まぁ良い相手と巡り合った、という点だけで見ればヴァイオレットちゃんが当てはまるかもしれないけど、別に黒兄は権力で捻じ伏せるほどの権力は無いし、ヴァーミリオン殿下達との溝とかの大抵の事はラブラブな力で捻じ伏せていたからね……
「まぁ普通にメアリーさんと仲良い時点で、あった所でなんだって感じだしな」
「だね。ちなみに黒兄はそういった話のTL系が好きだよ」
「……十八禁じゃないけど、そういったシーンがあるやつ?」
「うん、局部が映ってないだけで、そういったシーンがあるやつ」
「くそ、なんでか分かってしまう……!」
「あはは、ネロ君も好きなんだね!」
というより、今の会話で一つ気になる事がある。聞かない方が良いかもしれないけど、変に気を使うよりは聞いてしまうとしよう。
「ねぇ、ネロ君にとって私ってどういう認識なの?」
「どういうって?」
「私の前世が、誰かは知っているんでしょ?」
「あー……」
彼は私達前世持ちについては理解している。
そして彼は夢世界で黒兄の記憶を植え付けられて、一色・黒の前世持ちのクロ・ハートフィールドという役割であった。
今も日本の本についての話を理解出来ているようだし、日本の記憶は有している事になる。そして私という前世の妹の事はどういう認識なのだろうか?
「うーん、一色・白という妹が居たという認識はあったんだけど、俺の生まれを理解したら色々と記憶がぼんやりとしている、という感じなんだよな」
「それこそ夢みたいに?」
「そういう事。だから俺にとって貴女は、前世の妹の生まれ変わり、というよりあの乙女ゲームの主人公の役割であったクリームヒルト、という認識の方が強いかな」
うーん、つまり日本の事とか今話したジャンルの事とかも、歴史の偉人本を読んだように知識があるだけで経験を伴っていない感覚で話している感覚なのかな。
その辺りはネロ君自身にしか分からないだろうし……うん、彼が私の事を「妹なのに妹として扱えない」ではなく、「クリームヒルト・フォーサイス」として扱うのならば、この話題は深くは追及しないでおこうかな。
「というか今攻略対象云々と言ってたけど、メアリーさんってそんなにモテてるのか?」
「うん、めっちゃモテてるよ。学園でも人気で男女問わずそりゃもう告白され三昧だよ。カサスの攻略対象は皆夢中だしね!」
「そうなのか……」
「夢世界ではそうじゃ無かったの?」
「夢世界の解除方法を探すために、目立つ行動は控えていたんだってさ」
「なるほどね。ちなみにネロ君はメアリーちゃんの事、私と違ってさん付けだけど、もしかしてネロ君も……」
「ない。……感謝も尊敬もしているけど、俺に“お母さんと呼んで良いのですよ、さぁ!”とか言う女性をそう簡単に好きにはならん」
「あはは、なんか苦労していそうだね」
そして可能性を示唆する事で、メアリーちゃんは女性として魅力的ですとフォローを入れているのもなんか黒兄と似ているなーと思う。
というより、ネロ君はメアリーちゃんの好きな相手の事を理解しているようにも思え――あ、そうだ。
「ねぇ、ネロ君。聞いてばかりで悪いんだけど、もう一つ質問良い?」
「答えられるものであれば、構わないが」
「ありがと。で、ヴァーミリオン殿下の事なんだけど、もしかして――」




