とりあえずは(:淡黄)
View.クリームヒルト
私がなんとなく黒兄とヴァイオレットちゃんがいつものようにイチャイチャしているなーと、妙な電波を受信する中。私はここ数日思っている疑問を生徒会室にて聞いてみた。
「ねぇ、メアリーちゃん。隠している事無い?」
初めは小さな違和感。けれど違和感が疑問になるのにそう時間はかからなかった。
ここ数日様子がおかしかったのは、シャル君、アッシュ君。そして特にメアリーちゃん。あとノワール学園長先生も様子がおかしかった気がする。ヴァーミリオン殿下はややおかしい様子ではあったけど、多分今あげた皆とは違う種類の様子のおかしさだったと思う。
ただおかしいと思ったのは、あくまでも違和感が疑問になった時に「思い返せばおかしかった」というようなものではあるのだけど。
けれど私は人の機微には疎い方だ。
こうなのかな? とは思っても実際は違うなんて事はよくあるし、合っていてもかけて良い言葉が分からない事なんてざらにある。これは別に私だけに限った話では無いだろうけど……前世でも今世でも踏み込みを間違えすぎて排斥されてきたのが私である。
そんな私なので、余程な事が無い限り聞かずにいて、笑顔で取り繕うという選択肢を取りがちではあるのだが……
「隠すなら聞かないでおこうかと思ったけど、流石にこれは聞いておかなくちゃと思うんだよね」
ともかく、人の機微には疎い私でも違和感を覚え、「聞くべきかどうか」から「聞くべきだ」という心境の変化を覚える程度には、今回の事はおかしいと思ったのである。
なにせメアリーちゃん達がおかしい……隠している事は、私自身にも無関係ではないのだから。
「……そうですね、聞かれるとは思っていました」
私の“なにを”隠しているか、という問いに対し、メアリーちゃんは予想していたかのように慌てる事無く言う。具体性のない問いに対しても意図を汲み取る辺り、質問の意図は一つしかないと分かっているのであろう。
「話は長くなります。今、時間は有りますか?」
「うん、大丈夫」
「では紅茶を用意しましょう。グレイ君が居ないので味は落ちますが、その差が気にならなくなる程度の話であると思って下さい」
ちなみにだがメアリーちゃんの淹れる紅茶は、紅茶の味の違いが分からない私でもとても美味しいと分かる程度には美味しい。確かにグレイ君よりは下なのかもしれないけど、この二人の淹れる紅茶に慣れた私の舌は将来紅茶で満足できなくなるのではと思うほどである。
「うん、それじゃ覚悟を持って聞くけど……私だけが聞いて良い話なのかな。他の人も呼ぶ?」
「聞かれたら話す、というように決めているので大丈夫ですよ。一気に多くの人に話して聞きたい事も聞けない、というような状況は困りますから」
「分かったよ」
……それはつまり、大人数で聞く事によって他の人の顔色を伺う状況を避けたいという事か。思ったよりも結構大きな内容なのかもしれない。
そう判断した私は、覚悟を持って生徒会室の自分の椅子に座って――
「……それよりも、ネロさんが苦しそうですから、拘束解いてあげてくれません?」
「あ、忘れてた」
「……だろうなぁ。途中で俺がなに言っても無視して運ぶし……というか俺結構重いのに、よく運べたなぁ、クリームヒルト……」
私が胸ぐらを掴んで引っ張って来たネロとやらは、とても苦しそうにしていた。
◆
初めは珍しい転入生が一年生に現れたと聞いたので、興味本位で放課後に見に行っただけだった。
スカイちゃんと一緒に行こうとしたのだが、スカイちゃんはなにやらスマルト君とのオネショタ関連(多分すぐにショタオネに逆転する関係性)で行けなくなり、私だけで行く事になった訳である。
そして火組に行くと教室にはおらず、闘技場に居ると言うので見に行くと、そこには何故か黒兄を少し若返らせたような、男性、ネロという男子が居た。
他人の空似かと思ったが、なんでもハートフィールドという名だそうだ。
しかもなんか戦い方が黒兄によく似ている。
『え、あ……クリームヒルト!?』
挙句には私を見るなりそんな事を言うし、さらには、
『い、いや、なんでもない。忘れてくれ……』
とかいう、なんか「俺はお前を知っているけど、お前は俺を知らないんだよな……」というようなタイムリープ系主人公的な発言をするので、軽く問い詰めた。
すると話を何処か濁そうとする上に、その仕草も黒兄に似ているので、これはメアリーちゃんが最近様子がおかしい事と関わりがあるのだと確信を得て無理矢理連れて来て今にいたるのである。なお、抵抗されそうだったのでちょっとだけ無理めに連れてきたりもした。
「……一応聞きますが、何故ネロさんが話を濁すと私と関わりがあると確信を得たんです?」
「学園のトンチキ関連はシキかメアリーちゃんかな、って。そして今は二択ならメアリーだよ」
「なるほど、道理ですね」
「納得するのかメアリーさん。……あ、紅茶美味しい。アールグレイ?」
「違うよ、ダージリンだよ」
「アッサムです。……では、話しましょうか」
紅茶は美味しいけど、美味しいという以外よく分かっていない私とネロはともかく、メアリーちゃんはネロ……というよりは、ここ一ヶ月に起きていた魔法について説明をし始めた。
夢魔法、術者学園長先生、作られたクロという立場のネロ、なんか愛の力で記憶を取り戻していた黒兄達、記憶は夢の世界で記憶を取り戻した人しか引き継げない。
そんな話を、メアリーちゃんは私の頭でも理解できるように説明をしてくれた。
「なるほど、そりゃネロ……ネロ君は黒兄に似ている訳だ」
話している内にすっかり冷めてしまった紅茶を飲み、私は説明の感想を言う。
「信じるんだな、クリーム……ネフライト」
「あはは、まぁね。メアリーちゃんがこんな嘘を吐くとは思えないし、確かめようもないしね」
夢魔法の世界について私が記憶が無い以上は、真偽について問うつもりはない。生憎と私には夢を見ていたような違和感は無いし、話を聞いても今一つピンと来ない。
私も黒兄のようにあの世界でバーガンティー君と会っていたら少しは違ったかもしれないが……いや、やめよう。アレは黒兄達がおかしいだけであろう。なにせ黒兄達だし。
「あと、クリームヒルトで良いよ。それに今の私はフォーサイスだからね」
「フォーサイス……あ、そう言えばそんな話があった気がする」
「うん、色々あってエクル兄さんの妹になったんだ」
「そうなのか。……なるほど」
そのなるほどの意味はどういう意味なのだろう、と問いたいが、今は問わずにおこう。
「それでクリームヒルト……先輩。俺について思う事は無いのか?」
「思う事って……黒兄が年下になった事により今までの妹力を姉力に変えられるのかとかそういう事?」
「違う。クロ・ハートフィールドの偽者のような俺に、なにか思う事は無いのかという話だ」
「思う事、ね」
思う事、思う事。
…………この場合はなにを言えば良いのだろう。分からん。
多分私が黒兄の妹である事は聞いているっぽいから、兄の偽者について思う事は無いかという問いである事は理解しているけど、なにを言えば良いかは分からないな。とりあえず……
「ネロって黒兄と同じ身体なんだよね?」
「? 多分な。差異はあると思うが」
「そっか。じゃあ思いっきり戦いたいから、戦おう、肉弾戦で!」
「アイツの妹は戦う事に飢えるのが宿命かなにかなのか」




