悲しき出会い(:涅)
View.クリ
仔細は分からないけれど、彼が困っている立場なのは分かる。
本当なら此処に居るつもりはなかったのに……というような雰囲気を漂わせ、挙句には初対面の相手に弟だと名乗る不審者っぷりを自覚しているように見える、困りぶりだ。
普段であればヒトが困っていても「私が助けられる問題でないかもしれないし、変に“なんだお前”みたいな反応されると困る……」というような感じで、このような前向きなヒト助けをする事など少ない私ではある。が、それでも今回は目の前の弟のような存在を助けになりたいと思った。
その理由は単純な気まぐれか、テツグロさんとの婚約の話が順調に進んでいるので人を助ける心の余裕があるからかもしれない。
――あるいは……昔のクロ兄様に似ているからかな。
何処となく彼は、“私達兄妹が異変に気付かず、孤独にさせて助ける事が出来なかったクロ兄様”と似た雰囲気を持っているからかもしれない。
代替と言っては彼に失礼だろうが、あの時の代わりに彼を救いたいと思ったのだろうか。……もしかしたら彼に優しくしようとした理由は、そんな事かもしれない。
「――と今周ったのがアゼリア学園の主要施設だね。後は過ごしていく内に慣れると思う。なにか質問はある?」
「いえ、無いです。ありがとうございます」
と、思いつつ私はアゼリア学園の学園内を彼……ネロに案内した。
なにやら事前情報として学園内をある程度把握しているそうなのだが(実際に行った事があるような感じであったが、詳細は濁された)、実際に案内して欲しいと言う話になり案内する事になった。
別に断っても良さそうではあったけど、ハートフィールドを名乗るなら今後まったく関係が無いという話でもないし、交流も必要だ。あと今日の午前の授業は私が苦手な団体魔法授業だったのもあり、素直に案内する事にした。
「あと、敬語は不要だよ。一応家族? なんだし」
「いえ、私の立場は微妙な所ですし、家族とはいえ対外的には姉には敬語の方が良いでしょうし」
「……一々切り替えるより、いっそのこと敬語でずっと過ごしていた方が面倒ではないと言う感じ?」
「そんな感じです」
……しかし、このネロという弟は本当にクロ兄様に似ているな。多分これは家でも無い外では誰に見られるか分からないし、その時々に敬語に切り替えるのが面倒。という感じなんだろう。
ネロはクロ兄様を元にした魔法生物だから……という話ではあるが……えっと…………うん、面倒だ。そういう性格なんだという事にしておこう。なんか深く探っても良い事なさそうだし、彼は彼だしね。
「まぁ好きなようにして良いよ。そもそも私も兄様達には敬語だし」
「ありがとうございます、クリ姉さん」
しかし……ふふ、クリ姉さん。姉さん、か。
新鮮な呼び方に不思議な感じがする。出会って半日と経っていない相手ではあるが、この高揚感は不思議な感じがする。これが世の姉達が感じ取る姉感というやつなのだろう!
え、姉感とはなにか? 知らん。
「じゃあそろそろお昼だし、食堂にでも――」
「父上?」
「クロさん?」
と、私が妙な感覚に浸りながらも食堂に行こうとすると、声をかけられた……というよりは、投げかけられた。
――あ、グレイ君にアプリコットちゃんだ。
声のした方を向くと、そこに居たのは私の甥っ子と姪っ子であった。どうやら運動の授業の後だったらしく、運動着が入っているであろう袋を持ちながら教室へと向かっていたようである。
そしてネロの後姿を見て、クロ兄様だと思って疑問を投げてこちらに近付いて来た、という感じだ。
「……あ、失礼しました。私めの父と雰囲気が似ていたもので、急に話しかけてしまい……」
「……そのようだな。失礼、歓談中に話を遮ってしまったようだ」
しかし別人だと分かった二人は、私とネロに謝罪をした。まぁ私も雰囲気は似ていると感じるし、急に見たらクロ兄様だと思うのも無理はない――あれ?
「――――」
今、ネロが何処か悲しそうな表情をしたような……?
「いや、構わないよ、アプリコットにグレイ」
「?」
「む?」
しかしすぐに持ち直すと、ネロは自己紹介された訳でもない相手の名前を呼んで笑顔で取り繕った。
「失礼、我と以前何処かでお会いした事があっただろうか?」
「……いや、初対面さ」
「そうであるか……?」
……その笑顔は、昔クロ兄様が見せていたもの……感情を押し殺して相手を不安にさせない表情に瓜二つである。
その事にアプリコットちゃんも気付いているのか、どう反応して良いか迷っている様子である。グレイ君は……うん、気付かず「父上とそっくりの御方です!」と無邪気に観察している。可愛い。
「名前を知っているのは……俺が君達のお父さんと関わりがあるからだよ」
「クロさんと?」
「ああ。だから君達の事も良く知っているんだよ。……優秀で自慢の娘と息子だとね」
「……そうであるか」
嘘を言っている訳ではないが、本音を隠している。そして敵意は無く何故か悲しさを感じる。
アプリコットちゃんはそれを感じ取っているのか、警戒して良いのかどうかで困惑しているようである。
「ああ、自己紹介が遅れたね。俺はネロだ。君達と同じ学年で、火組に転入する予定だから、同じ学園生としてよろしく」
「はい、よろしくお願いしますネロさん!」
「……よろしく頼む」
三人は軽く自己紹介をしあうと、二言ほど会話した後にグレイ君達が運動着を教室に置くために別れ、遅れてやって来ていた殿下二人と合流してそのまま教室へと向かって行った。
その後ろ姿をネロは見ながら、悲しそうにしつつ、それを抑えようと小さく唇を噛んでいた。
「……なにかあった?」
「……別に、なにもありませんよ。話には聞いていた相手と出会って、戸惑っているだけですよ」
「……そう」
何処となく大切なヒトと会えたのに、その感情を何処へ向ければ良いか分からないような、恋焦がれた表情に見えたけど……まぁ、詳しくは聞かない方が良いだろう。そこに突っ込むほど、私と彼は仲良くない。
「じゃ、お昼ご飯食べに行こうか。食べれば戸惑いも晴れるかもだよ?」
「……ですね」
「美味しいおススメの卵料理あるけど、それ注文してみる?」
「ありがとうございます。卵料理が好きなので、食べてみます」
ネロは心ここにあらずといった表情で、私の提案に乗った。
……なるほど、これが手のかかる弟という奴か。姉の立場にならないと見えないものもあるのだと、末妹である私は学習したのであった。
◆
「というわけでこちら。私のおすすめ去年からの人気卵メニュー、【THE☆チャレンジ卵炒飯】だよ。卵に卵で絡めてゆで卵をそえた卵のための卵料理だよ! 総重量なんと5キロ!」
「なんで学園の食堂にそんなメニューが!?」
「ちなみに米に見える粒々は米じゃ無くて、米の形にした卵黄と卵白でつくったものだから、本当に卵のみで出来た炒飯だよ!」
「馬鹿が考えたメニューかなにかかこれは!?」
「さぁ食べようネロ、気軽にタンパク質補給!」
「絶対過剰にならねぇかなクリ姉さん!」




