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闘う理由と殴る理由


「まったくまったく、我が義弟は良き夫だな。言葉ではなく行動で示し、“言わなくても分かるだろう?”を地で行く亭主関白な男だったとはな!」

「てめぇ喧嘩売ってるのか!」

「押し売りに来たくせになにを言うか!」

「そんなつもりはねぇよ。俺はアンタを殴りたくて来ただけだ! ……喧嘩の押し売りに来てるな、俺!?」

「クロ、変な風に惑わされるな!?」

「ほほう、何故殴りたいかを聞かせて――おっと」

「くっ、外しましたか」

「ハハハハハ、メアリーは相変わらず良い動きをする! お前の輝きは間近で見ていたくなるな!」

「ええいうるさいですよ、その豪笑をやめてください!」

「なにを言う! 人間笑える時など限られる。ならば笑える時に笑えねば損というものであろう!」

「それには――ええい、同意しますが、今はやめてください腹立ちます!」

「そうか、ではもっと笑うとよう!」

「何故です!?」

「戦闘で相手が嫌がる事をするのは定石であろうハハハハハ!!」

「ええい本当に腹立ちますねこの魔王!」

「メアリー、変に惑わされるな! 怒りは大切な原動力だが、時に判断を見誤る毒にもなる!」

「そうだぞメアリー。そこの痴女神も言っているから落ち着け」

「誰が痴女だゴラァ!!」

『落ち着いてくださいトウメイさん!!』

「大体お前達、何故この世界を壊そうとする?」

「それはこの世界は夢で――」

「だが義弟よ。この世界だと妻と学園生活を送れるぞ?」

「む」

「トウメイよ。この世界だと解法の力が弱まっているから服を自由に着られるかもしれんぞ」

「むむ」

「メアリーよ。この世界だと悲しませた者を悲しませずに救う事が出来るぞ」

「むむむ」

「人生の二周目という奴だ。多くの利点があるのに、何故この世界を壊そうとする?」

「今の俺が、この世界は所詮夢だと思うから」

「今の私が、この世界を認める事はないから」

「今の私に、この世界が必要ありませんから」

「……なるほど。自分のわがままで世界を壊そうとするのか」

「貴方と同類なだけですよ。ただ答えが貴方と平行線なだけです」

「……そうだな。だからこそ戦う価値があるというものだ。しかし俺にも引き下がれんのだよ。愛する息子が笑う世界を、俺は失わないためにもな」

「その世界で奥さんは笑えるの?」

「ほう、言うではないかトウメイ。そして痛い所をつく」

「クチナシを愛しているのでしょう? それなのに、貴方は――」

「笑わせてみせるさ。息子と一緒に夢が現実となったこの世界で、こちらが良かったのだと笑わせてみせる。……絶対にな」

「ライラック……」

「元の世界で妻の笑顔を奪ったくせによく言いますね」

「ほう?」

「貴方は世界を守るとか大層な事を言いますが、貴方は一度全てがどうなっても良いかと言うように、世界が壊れる魔法をもって私達に挑んだ。私達の輝きが見たい、という自分勝手な理由で。……そんな人が言う絶対など、信じられませんよ」

「信じなくて良い」

「はい?」

「俺は俺にとって大切なヒトに信じて貰うために行動するのみだ。お前に俺の評価を低く見積もられた所で、俺の中でそれは重要な事ではないのでな――【創造魔法(ヤマタノオロチ)】」

「っ!! この状況を作っておいて、クチナシさんが笑ってくれるようになると、貴方は信じているんですか! 【瞑狩(ツムカリ)】!」

「信じる。いや、成し遂げてみせるさ。それが俺の――」

「【強化《A》】――らぁ!!」

「――【創造魔法(スヴェル)】――俺の、取りこぼした過ちに対する贖罪だ」

「この……!」

「うるせぇ」

「む?」

「うるせぇんだよゴチャゴチャと」

「そうだな、クロ。俺の意志など関係無い。お前達は余計な事を考えずに、俺を――」

「【強化四重(αβγε)】――それもうるせぇ」

「むっ?」

「俺は貴方の決断を尊重する。言葉も受け止めるし、貴方の抵抗も受け止める」

「よせ、クロ。ただの殴打ではこの楯は決して――」

「【強化六重(ζηΘικλ)】――けど、それでもなお俺は進んでやる!」

「っ!? 神器にヒビが――!?」

「ライラック義兄さんの守りたいモノが、俺の妻や息子や、娘や親友や、悪友や家族が居る――大切な居場所より大切だと邪魔をして見せろ!」

「――――」

「“余計な事”に負けるほど、俺の大切なモノは軽くねぇぞ!!」

「――ハ。言うではないかクロ・ハートフィールド。となるとメアリー・スー、お前も同じ理由か?」

「私はクロさん程重い理由はありませんよ。単に――」

「単に?」

「好きな人が居ない世界なら、滅んでしまえば良いと思っているだけです」

「…………く、クハハハハハ!! なるほどなるほど! 確かにその重苦しい気持ちは大いに分かるぞメアリー・スー。だが、それだと愛する者が居なくなった時にお前は危険人物となるな!」

「なにを言いますか。私は完全に失ったのなら抗いませんが、手段がある今は全力で抗います。そして“今の殿下”しか居ないこの世界を保とうとする貴方が敵であるだけなんですよ。危険で重い女扱いしないでください」

「自覚がない所が怖いなぁメアリー・スー。して、トウメイ」

「私に大きな気持ちはないよ。この世界が納得いかないから貴方を倒す。OK?」

「OKだ。……しかし、なるほど」

「?」

「お前達……相当な馬鹿だな?」

「お前に!」

「言われたく!」

「無い!」

「同時攻撃ご苦労。……では俺は改めて戦うとしよう。愛する者がいる世界を守るためにな。お前達も、お前達のために、俺を超えるなり殴るなりすると良い。――行くぞ!!」

『来い!!』


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