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反動


「……なるほど、説明が面倒だから攫おうとしたけど、なんか愛の力で記憶を取り戻したから説明も楽で、説明を聞いた彼は普通に協力してくれる、と」

「はい、愛の力凄いです」

「うん、愛の力凄いね。……まぁそれは良しとして。なんでクロ君とネロ君はあんなにも苦しんでいるのかな?」

「お互いの古傷を舐め合った。……という感じですかね」

「なるほど。……あまり触れない方が良い感じだね」


 自分に自分の黒歴史を掘り返されるという、珍しいけどしたくない経験をしつつ俺達は件の王城の地下へと訪れていた。

 来るまでにネロと言い合ってはダメージを受けるという、よく分からない言葉の殴り合いをしていたため精神的ダメージは甚大である。幸いというべきは、黒歴史の内容が前世持ちのメアリーさん(エクルは朝雲さんではないようである)以外にはあまり理解されていないという事だろうか。


「というかネロ。お前の中での黒歴史は、どういう認識なんだ」

「それはなクロ。物語の中の話のようで、でも俺の記憶なんだ」

「どういう事だ?」

「共感羞恥に近いというか……と――ブラックさんとランプさんが、今の年齢で学生服を着て弟達を作っているような感じというか……」

「おいその表現やめろ。ようするに、自分の事としての経験ではないけど、自分に近しい事のように思えてしまう……つまり、生々しさ的な感じか?」

「そんな感じだ」

「なるほどな。あと気にせず父さん母さんと呼べばいいだろ」

「……よく分かったな」

「我は汝、汝は我だかららな。分かりもするさ」

「ペル〇ナ? だが、あの二人は“今ここに居る俺”の親では……」

「それを言ったら、俺だって実は一色・黒が、クロ・ハートフィールドという男の意識を殺して乗っ取っている状態かもしれん。魂的には親と言えんかもしれんよ。……まぁ、無理にとは言わんけどな」

「……そうだな。だがクロよ」

「どうしたネロよ」

「明らかに血の繋がりを感じる外見を持つ俺があの夫婦を親呼ばわりしたら、ブラック父さんの不貞を疑われないか?」

「別に良いんじゃないか、あんな父だし」

「確かにそれもそうだな、あんな父だし」


 あと、ここに来るまで会話をして分かった事は、ネロに対しては下手に気にしない方が良いという事だ。

 自分と似た顔と似た声でちょっと複雑だが、自分とよく似た弟がいるとこんな感じかなーと思う感じである。カラスバとかとは目元以外あまり似てないし、ちょっと新鮮である。


「(凄いですねクロさんとネロさん。もう少し心の壁とか同一性のほにゃららとか起きそうなものですが)」

「(ほにゃらら? 確かに無理をしている感じもしないし、ネロの方も“細かい事だな!”レベルに吹っ切れてるな。良い意味での鳥頭という奴かもしれん)」

「(良い意味でって……)」

「(そもそもキッカケを作ったのは、メアリー。お前だろう?)」

「(それはそうですが、あそこまでなるとは思いませんよ)」

「(まぁあれがシキを纏める領主の器というやつなのだろう。変態の器だ)」

「(それ褒めてますかクチナシさん)」

「(大いに我が義弟を褒めているとも!)」


 なんだろう、とても不名誉な褒められ方をされている気がする。いや、正確には認めたくない賞賛のされ方というか……ま、良いか。どうせ忘れるし、こんな妙な悪寒は放置するとしよう。


「はーい、話はそのくらいにして、そろそろ始めたいんだけど良いかなー?」

「あ、お久しぶりです痴女トウメイさん」

「誰が痴女だ!」

「ありがとうございます、その反応を聞くと、ああ、貴女なんだなという実感がわきますよ。あと痴女呼ばわりしてごめんなさい」

「別に良いけど、変な所に私らしさを求めないでよ……」

「ごめんなさい」


 うんうん、居るのは知っていたけど、懐かしい顔を見れてちょっと安心した。

 ……まぁ以前と違って今はマントなしの完全全裸だからいつもより見るのに困るが、些末な話である。


「(ね、ねぇエクル君。プラチナ君どういう事? 髪の色は変わるし、クロって呼ばれてるし、ヴァイオレット様となんか仲良いし、殿下はそれを咎めないし、なにより……)」

「(ああ、全裸の女性を見てもあのような反応……マスク越しでも分かるほどの女性経験に乏しい男性反応をしていたプラチナとは思えない。……本当に世迷言ではないようだね……!)」


 なんだろう、とても不名誉な確認とされ方をしている気がする。

 ……よし、気にしないでおこう!


「ともかく、その刀を貸して貰うよクロ君」

「あれ、使うの俺じゃ無くて良いんですか?」


 てっきり一応とはいえ使い慣れている俺がなにかすると思ったんだけど……この【星屑の血刀】を持っていたのも俺だし、いわゆる「俺が使う事に意味がある」というような代物と思っていたんだが。


「もし私達で難しそうならお願いするかもだけど……クロ君、魔法方面からっきしでしょう? 理屈とか夢魔法構築とか分かる?」

「ぐうの音も出ねぇや」


 それを言われると反論の仕様が無い。仕方ない、いざという時のために控えるだけ控えときますか。魔法に関してはトウメイさん、メアリーさん、エクル、マゼンタさん、ノワール学園長先生と――殿下といった魔法に秀でた面々でやるみたいだし、俺は大人しく引き下がろう。


「もうちょっと反論しろよ俺のオリジナル」

「だってお前――オリジン・ネロのオリジナルだぞ?」

「ぐうの音も出ねぇな」


 よし、なんか向こうは難しい話もしている事だし、こっちはこっちのメンバーで適当に話すとしよう。

 こっちのメンバーは……俺とヴァイオレットさん、ネロとフォーンさんにクチナシさんか。


「というか、ヴァイオレットさんは向こうでも良いのでは? 魔法とか充分秀でているでしょう?」

「私より遥かに優れた面々が居るからな。そしてそんな事より私はしばらく補給できていなかったクロ殿との触れ合いの時間の方が重要だ」

「奇遇ですね、俺もです」


「……ねぇネロ君だっけ。よく分からないけど世界の危機状態の時に、君の……元の姿のプラチナ君……じゃなくって、クロ君があんな風にイチャイチャしてなにか思わないの?」

「まぁ良いんじゃないですかね。下手に気を使われるよりそっちの方が気が楽です」

「そういうもの……?」

「そういうものです」

「だがネロよ。お前も義弟と似ている過去や特徴を持つのなら、好みも同じではないのか? ヴァイオレットの事はどうとも思わんのか?」

「綺麗な人とは思いますが……俺は俺に好意を向けてくれない限りは、好意を返す気にはなれない面倒な男なんで」

「ほう? 確かにそれは面倒そうだ」

「でしょう? 恋愛に臆病なんですよ、俺もアイツもだからイチャイチャするのは別に構わな――」


「しかしクロ殿。そのマスクは外れないのか?」

「なんか外れないんですよね。この夢魔法から脱出できれば外せるかもですが」

「……そうか」

「……心配せずとも、一部は外せるんでキスくらいは出来ますよ?」

「!? い、いや、なにも言っていないぞ私は!」

「おや、そうですか。俺はしたかったんですが、ヴァイオレットさんはしたくないんですか……残念です」

「したいに決まっているだろうなにを当たり前の事を言っているんだクロ殿」

「息継ぎなしにめっちゃ早口で言いますね。ですがキスはちょっと取っておきましょう」

「!? な、何故だクロ殿!」

「まず普通に人が周囲に居ますし、なにより……その、マスクで蒸れているんで、その状態でキスはちょっと――待ってくださいヴァイオレットさん、そこで無理矢理しようとする事で俺の羞恥に拒絶する姿を堪能しようとしないでください!」

「よく私の考えている事が分かったなクロ殿! 流石は離れていたとはいえ私の愛する夫だ!」

「そ、そう言いつつ迫って来ないで!」


「訂正します。めっちゃムカつきますね」

「正直でよろしい。今まで会えなかった分の反動が今来ているようだな」

「……夫婦ってあんな感じなのかな。私も彼と……? 彼って誰だっけ……?」


備考 クロとネロの外見の違い

二人を見たら「兄弟だろうなー」と思う位の相違。見慣れない人が別のタイミングで見れば見間違えるレベル。

メアリーは心の摩耗と、「五歳若返るとこんなモノなのでしょうか」という事で気付かなかった。

ヴァイオレットは「思い出すキッカケではあったが、やはり全然違うな!」との事らしい。


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