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別方向からの刺客


 プラチナブロンド・フォン・アンガーミュラー。それは俺の名であった名前だ。

 しかし振り返ってみれば俺は親の顔をよく覚えていなかったし、三男坊なのに兄達の名前すら分かっていなかった。

 “そういう設定である”と、まるでそう思わされていたように、想像するしかない状況であった。

 そんな状況にも関わらず、その名を名乗っていたのは何故なのだろうか。今となっては不思議でならない。


「それにおかしいとは思ったんだ。この古代技術のマスク、手に入れた瞬間の事は思い出せないし、なんか外せないし、後なんか昔を思い出そうとすると変な音が鳴って遮って来るし……」

「むしろ気付いてくださいよ」

「だってなんか格好良かったし……そういう事もあるかな、程度にしか……」


 そしてこの口元と手を覆う古代技術の装備品。自分の物という認識はあったのだが、いつ手に入れたかを思い出せないでいるのである。一部を外した事があるのだが、思い返すと口のマスクを外した記憶がない。

 多分だけどこのマスクが俺を「クロ・ハートフィールドではなくプラチナブロンド・フォン・アンガーミュラー」という認識へと自他共に変えているのだろうというのが、メアリーさんとマゼンタさんの話である。ちなみに先程までの俺はロボ……というか、ブロンドに近い外見であったらしい。らしい、というのは今は認識が解けて、黒い髪に碧の目に戻っているからであり、今となっては前の顔を、俺が夢を見ていたかのように思い出せないからである。


「ですが、よく気付きましたよねヴァイオレットさん。俺は変わらず麗しい貴女を見て気付き、思い出しましたが……」

「クロ殿と目が合えば、例え外見が変わろうとも魂でクロ殿だと気付く。私の好きを舐めないでもらおう」

「ヴァイオレットさん……! 俺も貴女の事が大好きです!」

「おーい、戻った途端にイチャイチャしねぇでくださいー。……はぁ。シュイとインの変身を似ているとすら思わなかった二人が故の通じ合い、というやつなのですかね……」


 まぁそれもヴァイオレットさんのお陰で自分を思い出す事が出来たので、些末な事というものだ。マゼンタさん曰く「夢魔法使用経験者でもない限り、思い出すためには強化された言霊魔法レベルのキッカケが必要なんだけどねー」とは言っていたが、俺とヴァイオレットさんの前では些末、些細、木っ端な事である!


「……クロ殿、か。……実感湧かないな、やっぱり」


 ……それよりも、今重要なのはクロ・ハートフィールドについてだ。

 いや、今は彼が自分で名付けたネロを名乗っているので、ネロ・ハートフィールドというべきか。

 俺と似た髪と目と顔をした、この世界における“クロ・ハートフィールド”。

 この夢魔法はなにを血迷ったのか、俺という存在を元にした核を作りだし、元にした俺に対しては鍵の役割を担わせた。

 核が魔法を世界にばらまき。

 栓である術者が世界に留め。

 俺は鍵を持たされた道化師。


――まるでゲームをしているみたいだな。


 この夢魔法は解決する手段を見つけられるかを試すための遊戯(ゲーム)のようである。

 鍵を無くせば解決する手段は誰かが犠牲になるしかないのだが、それだけではつまらないと光明を用意させるために鍵を用意しておく。そして鍵が見つかったとしても、犠牲にならずに済んだ者達がこれからどう行動するかを見て楽しむような趣味の悪いゲーム。

 ……そんな、腹立つようなルールが敷かれたゲームのようである。


「ところでクロさん。この【星屑の血刀】はどのように使えば良いのでしょう?」


 と、メアリーさんが俺の苛立ちと彼……ネロの複雑そうな感情を読み取ったのか、気持ちを切り替えるかのように聞いて来た。


――そうだな。今はよく分からないのにとやかく言うべきではない、か。


 ネロとは何度か“クロ”として先輩後輩の対話をした事はあるが、それだけだ。

 正直俺も混乱しているし、全てを飲み込めてはいない。今は夢魔法の原点という王城の地下へ歩いている俺達であるが(エクルとフォーン……さんも一緒に居る。よく分かってはいない様子だが、とりあえずついて来ているようだ)、この夢魔法を解くために必要という【星屑の血刀】を使えるようにしておかないとな。


「やはり変形後の命を刈り取る形を考えると“刈れ”とでも言うんですか?」

「あれは刈り取るではなく、刈り奪る形ですからね……まぁよく言いますが」

「言うんですね。では、どのように?」

「ええと……まずこの血刀の柄を持ってみてくださいメアリーさん」

「? はい。……おお、おおおおお!?」

「え、なに。メアリーちゃん、なにごと?」

「頭の中に文字が浮かんで……これを叫べば真なる力を解放してくれるのですか……!?」

「その通りです。武器が語り掛けてくれるのです!」

「あははは、ねぇクロ君。これ本当に大丈夫な物なの?」

「…………さぁ」


 ……俺は普通に使っていたのだが、よく考えれば「なんか文字が浮かんでいう通りにすれば力を得られる!」って間違いなく危ういものだよな。いずれ精神を乗っ取られそうな代物である。……というか俺、もしかして乗っ取られたからあんな戦う時に血に飢えた狂戦士みたいな言動していたんだろうか。ならばあの中二病全開言動もそういう事だな。うん、そうに違いない!


「ネロさんネロさん。この刀凄いですよ。握ってみてくださいっ」

「え?」


 と、俺が先程までの中二病の言動を恥じ、その様子を察知したヴァイオレットさんに慰められているとメアリーさんがそのような事を言いだした。


「ほぅら、パス!」

「え、あ、ちょ!? 大事な武器をそんな気軽に――う、ぉおおおおおお!? 生きているのなら、神様だって殺してみせる……!」

「おお、ネロさんはそっちですか。私は“これがモノを殺すという事だ……!”という言葉が浮かんだんですが。クロさんはどうです?」

「俺は“私を殺した責任、とってもらうからね”ですね」

『そっちかー』

「そういえば知ってます? あの作品、俺らが死んだ二年後にリメイクされたらしいですよ。クリームヒルトから聞きました」

「マジですか。リメイクの噂で終わるものだと思っていましたよ」

「ぐっ、目が悪くないのに眼鏡をかけて、模造ナイフを懐に仕込ませ、眼鏡を外し構えを取るあの作品が……!?」

「おいやめろ。それ俺にもダメージが来る」

「二重〇極みに領域展〇・無〇空処に無限〇剣製!」

「やめんか!」


 もしかしなくてもコイツ、俺の役割を担っていたから俺の前世の記憶の黒歴史も知ってやがるな!? チクショウ、クリームヒルトだけでなく、別の所から心をさされる心配をする事になってしまった!


「……あの、ヴァイオレット様。彼らはなにを話しているんです?」

「よくは分からないが、まぁ楽しい思い出話という奴だろうよ、エクル」

「そうは見えませんが……」


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