意気込みだけはしておく(:白)
View.メアリー
「術者の名前はノワール・アルベールだよ」
そうして私達があれやこれや、誰や彼やと黒幕の正体について議論をしていると、最初は私達の様子に呆れつつも合流したトウメイさんがあっさりと言いました。
どうやら彼女は私達に先程注意をした後、マゼンタさん達に知らせた後に、再び私達の所に空から向かったとの事です。しかし戻った時には既に靄の男関連については終わっており、下手に彼女らが現れたりしない方が良いと判断。再び空からマゼンタさんの所へと向かって状況を説明した所、マゼンタさんが、
『気になる“ヒト”と“事”があるから調べて欲しいのだけど』
と、気になる事……このフィールドに感じた力の歪みの場所と、この状況からして術者の可能性がある人物達の名をトウメイさんとクチナシさんに伝えたそうです。
そこで場所の方(今この場所)をマゼンタさんが。人物の方をトウメイさんが知らべ、クチナシさんが私達を連れて来る事にしたそうです。
そこでトウメイさんが気になる人の事を調べると、
「あれは間違いなく術者だね。なんだいあの子、今まで気付かなかったのが不思議なほどの“基点”だよ」
と、“視て”分かるほどの術者が、ノワール学園長先生だったとの事です。
ちなみに基点というのは、“彼”が効果を撒き散らす魔力の塊だとしたら、ノワール学園長はそこに魔力を補充する役割を担っているとか。あくまでも役割は補充だけなのでノワール学園長が効果を周囲に及ぼすのではなく、ノワール学園長がタンクで、“彼”がそこから魔力を放水しているようなものだ、というのはトウメイさんの話です。
――いわゆるお風呂において“彼”が入浴剤で、ノワール学園長先生が水を逃がさないようにする栓みたいなものでしょうか。
マゼンタさんが夢魔法の説明をティーバッグに例えたせいか、私はそのような生活に関わるイメージをしてしまいます。
基点であるノワール学園長先生(貯水タンク)を上手く扱えば、中の魔力が無くなって“彼”が周囲に影響を及ぼす事は無く、世界は自浄される――という説明もされたので、お風呂の栓を抜けば水が無くなって入浴剤も効果は発揮しない、みたいなイメージをしてしまうのでしょうが。
「とにかく、行こうか」
私のイメージはともかく、この改竄世界の術者がノワール学園長先生だというのなら話は早いです。
事情を知らないのなら説明をして説得し。
事情を知った上でやっているのか、説得が通じないのなら申し訳ないですが力付くでも。
そう決心し、私達は行こうとするのですが……
「あの……少々よろしいでしょうか」
と、意気込んでいく前に“彼”に止められました。
なんでしょう、トウメイさんが“彼”に気を配り、「別に君が死なずともどうにかなるのだよ」と言ってくれたのですが、まだなにかあるというのでしょうか。
「どしたのクロ君。美人な異性に囲まれた上にトウメイさ……ん、の登場に我慢出来なくなったというのなら、あと十分くらい出発を遅らせるけど?」
「その言葉の意図は分からないという事にしておきますねマゼンタさん。……ともかく、あのノワール学園長先生がこの世界を作り、俺を作りだした存在、という事なのですよねトウメイさん?」
「そうなるね。……はっ、まさか君にとってノワールはお父さんになるから、気が引けるというのか……!?」
「あの変態を父呼ばわりはしたくないですね。ではなく、気が引けるのは確かと言いますか……このメンバーでノワール学園長先生を説得しに行くんですか?」
「そうだね」
「……相手からしたらめっちゃ怖くないですか、このメンバー」
王族二人、公爵家が二人、準男爵家一人、平民一人、あと神様が一柱。
肉体的にかなり優れていたり、全体的に優秀であったり、王族魔法を使いこなしたり、見捨てられていないので王族並みの影響力を持つ公爵家の大事な一人娘がいたり、全裸の神様がいたり……
「よし、行きましょう!」
『了解!』
はい、なんの問題もありませんね! トウメイさんの方は余程信仰深くなければ気付かないですし、クチナシさんが「抵抗するなら全力で行く」とでも言いたげなオーラを放っていますが、ええ、大丈夫ですとも!
「え、あの、皆さん!? 本当に行くんですか、え、あの!?」
「ハートフィールド……私達の役割は、彼女らを抑える事だ」
「常に冷静で居なければ、大局を見失うし、狂戦士も使いようだ」
「ヴァーミリオン殿下とヴァイオレット様が止める事自体は諦めている……! というか彼女らを俺達で抑えられると思います?」
『…………』
「黙らないでくださいよ、気持ちは分かりますけど」
さぁ、行きましょう、学園長先生の元へと!
「あと行きながら彼の名前を決めましょうか」
「黒い太陽……ヴェヴェルスブルク君」
「星夜の黒翼……スターナイトヴァルキリー」
「終焉の黒戯曲……アインソフアーテルフィナーレ君」
「零眼……ブラック・アウト君」
「あんたら俺で遊んでないか?」
『本気だが(よ)(ですよ)』
「そっちはそっちで困るんだけど!」
「…………」
「どうかされましたか、ヴァーミリオン殿下?」
「……いや、俺の名前が父上達に決めて貰って良かった、とかは思ってないぞヴァイオレット」
「……そうですか」
◆
「さて、ノワール学園長先生の居る学園長室前に着きましたねネロ君!」
「はい、私はネロです」
何故か英語の教科書のような受け答えをする“彼”……もといネロさん。ネロさんの名前はノワール学園長先生の所へと行きながら決めたのですが、最終的に本人の希望でネロという名前になりました。意味的には王国語を共和国語に言い換えたようなものです。
「ハートフィールド、それで良かったのか?」
「彼女らがつけた名前も異名的には格好良いと思うんですが、やはり名前はシンプルが良いですから」
「そうか。……え、格好良い?」
「え?」
「……いや、なんでもない。良い名前だと思うぞ、ハート――ネロ」
「どうもです」
む、やっぱり良い名前だとは思っていたようですね。しかしシンプルな方が良いというのも確かですね。そこを考慮すれば良かったです。
「ともかく、行きましょう皆さん。ついに対峙の時です」
「あははは、ついにだね。話を聞かせて貰おう!」
「魔法系の防御は任せて。解法で全部キャンセルしてあげるから」
「肉弾戦はまかせろ。如何なる力にも私は負けん」
「全体的なフォローから解析まで任せてね。大抵は出来るから!」
「私もマゼンタさんと同じくです。油断せずに行きましょう!」
『オー!』
「……抑えられますかね?」
「……頑張ろう」
「……そうですね」




