つい(:白)
View.メアリー
「やめろ、メアリー」
「やめてください、メアリー」
「やめるんだ、メアリー」
――そして私の左腕を触媒とした火の最上級魔法を放つ寸前に、三人の男の子に止められました。
一人は発動しかけ熱を持ち始めた左腕を、火傷しながら素手で掴んで抑え込み。
一人は火魔法の後に追加で入れるつもりであった右腕と、身体を抑え。
一人はカーマインの四肢を砕いて動きを封じ込めました。
「シルバ、クリームヒルト! 抑え込むのを手伝え!」
「え、あ、うん!」
「了解!」
彼は今の実力では身についてないはずの技量と技、そしてなによりも呼び方で周囲に指示を出し、カーマインを制圧しようとします。呼ばれた二人は戸惑いつつも、芸術とも言える正確な攻撃により生まれた明確な隙を逃がすまいと指示に従って動き始めました。
私も二人に続き、攻撃を――
「あ゛づ、ぅっ……!!」
しようとして、左腕を抑えている彼が耐えきれず声を漏らした事で、動きが止まってしまいます。
いくら不発であり、彼が防御術式を持っているとはいえ私の左腕は素手では掴めない程の熱量を有しているはずです。
「離してください。そうしないと貴方の手がさらに――」
「離しません。今離せば、私はこの傷以上の傷を心に負う事になります。だから、絶対に離しません」
この手をどかして欲しければ殺してからにしろ。言葉にせずとも伝わるほどの怯まない、迷いのない瞳。……決して退く事をしない、前だけを見る、何度も見てきた表情です。
「貴方は――貴方は、どうなんですか。退く気はないのですか」
「ない」
私は左腕に冷気と癒しの力を感じながら、私の前に立つ彼を見ます。
私が少し見上げなけらばならない彼は、何処か幼子を見るような視線で、真っ直ぐ見返します。
「……お兄さんの命が大切なのは分かりますが、止めるのなら貴方も……敵です」
「敵で良い。だが止まってくれ。……貴女がその手を汚す必要は無いんだ」
「なにを今更言うんですか。私は……」
私の手なんて、既に汚れているし穢れています。
私は今、この世界の核となった“彼”が、なにも知らずに殺されそうになったから怒ったのではありません。それはキッカケの一つだったかもしれませんが、一番の理由はそこではないのです。
私はただ……
「……動けないままなにも為せないのが、嫌なだけだったんです」
言霊魔法により動けない私が、前世の無力であった私と重なり、無力であるのが嫌であった。ただそれだけなのです。……無力な自分が嫌であったから、それらしい敵を見つけ、自分を顧みずに戦えば昔の私とは違うと、言いたかっただけなのです。
本当に私は……
「私は止められる価値なんてない――」
「うるさい」
「ふぺっ!?」
そして私は左頬に痛み(あんまり痛くはない)が走り、間抜けな声を出しました。
えっと……ビンタされました、私?
「よし、左腕をこのようにしているから効かないかもとも思ったが、効いてはいるようだな」
「な、なにをするのです?」
「ん? なに、あまりにも馬鹿な発言をするからな。つい、な」
「つ、ついで叩かないでください! 大体馬鹿な発言ってなんですか!」
「……なんだろうな?」
「なんだろうな!?」
え、どういう事です。なにが起きているんです?
今ってこうして会話している間にも、“彼”が治療を受けていたり、彼らが三人でカーマインを抑え込んでいたりしている場面ですよね?
なんだろうな。……なんでしょうね?
「気にするな、自分の行動が後で“なんであんな事をしたんだろう……”となる事はよくある事だ」
「そ、そうかもしれませんが、それだと私が叩かれ損に……」
「そうだな。申し訳ない。謝罪する。ごめんなさい」
「あ、はい、許します」
はい。
…………んん?
「よし、謝罪も済んだところで戦闘を再開するか。あのカーマインのような誰かを抑え込むとしよう」
「え、再開するんですか?」
「当たり前だろう。三人がかりとはいえ、相手がなにをするか分からんからな。数で相手を圧倒するとしよう。――という訳で行くぞ!」
「え、あの、ちょっと!?」
「どうした? ああ、左腕を抑えられているから無理なのか。離してやれ」
「え? ……あ、ああ。左腕も応急で当ては出来はしたから構わんが……」
「とりあえずお前は火傷を治せ。よし、では行くぞ!」
と、言うと彼はそのままカーマインを抑える戦闘へと参加していきました。
――ええい、なんなんですか!!
よく分かりませんが、今はカーマインを抑える事が先決です。私の左腕を抑えて火傷をした彼に火傷治療の魔法を簡単に施し、私は戦闘への参加を――
「よし、謎の靄男を抑え込んだぞ!」
なんなんですか、もう!!




