Re(:白)
View.メアリー
「えーい、【最上級浄化魔法】!」
「ぎゃああああああああああ!!」
殿下に言霊魔法が効き、苦しむ姿を見て何故か高らかに笑うという隙を見て攻撃をし、その隙を狙ってシアンが浄化魔法をかけました。
浄化魔法の仲でもトップクラスの浄化魔法を受けたローシェンナ君は苦しそうに叫び声をあげます。どうやらあの靄のようなものは悪魔由来か邪悪な代物であったようです。
「お、効いているっぽい?」
「ぐぅぅう僕の私のヴァーミリオン殿下への愛が不純なものであってまるかぁ!!」
「いやこれどっち!?」
どっちなのでしょうね。なんだかこれだと浄化魔法がローシェンナ君の気持ちに反応して効果が発揮されているみたいです。
「とりあえず捕縛しておきます。そのまま浄化魔法で足止めをお願いします」
「了解!」
真偽はどうあれ、ローシェンナ君に浄化魔法が効いて足止めできているのは事実です。ならばこの隙を狙って鎖を生成し両手両足を縛り、魔力を乱す事で言霊魔法に使う魔力を練れ無くし、口を塞いで捕縛するとしましょう。
「【錬金魔法】――」
そうと決まればすぐに身近な自然素材と、道具として持って来ていた金属を合わせて鎖とし、そこに私の魔力と魔法陣を混ぜ込み魔力阻害術式を構築。ついでに追尾機能とか巻き付く機能とか地面と結びついて縛り付ける機能とかもつけて……よし、これでいけます!
「捕縛――」
私は創り出した鎖を操り、ローシェンナ君を捕縛しようとして。
『■■■■■■■■■■■!!!』
「あああああああああああ!!!」
突然の乱入者によって、その捕縛は未遂に終わってしまったのです。
「クロ!?」
突然現れた乱入者――乱入者達の一人は、シアンが名前を叫んだクロ・ハートフィールドその人。そんなクロさんが、ローシェンナ君よりも靄のかかりが激しい、謎の男と共に現れたのです。
――血が!?
クロさんの腹部からは見るからに深い傷だと分かる傷があり、服が血で染まるほどに血を流していました。
「ああ、くそ。まきこまないように、うごいたのに、また――やはりお前をたおさないと……!」
にも関わらず、クロさんは謎の男との戦闘を続けていました。
自分の傷よりも優先すべき事があると言うように、意識が通常と違って朦朧としているような様子で、いつも通りに、あるいはいつも以上の動きで男との戦闘を続けているのです。
……これは良くない状況です。何故この護身符の効果が発揮されているエリアにて、クロさんがあのような傷を負っているかは分かりません。護身符の効果が上手く作動していなかったのか、護身符の効果を超過するダメージを負ったのか。あの靄の男は今度こそカーマインなのか。
「クロさん、一度引いてください! 私がその男を対処して――」
「だいじょうぶです。むしろいつもより調子が、いいくらいですから……!!」
「っ、この……!」
どちらにしろ分かる事は、クロさんは怪我を負い、私が知っている動き以上の動きを見せているという事です。あのクロさんを放置してしまえば、このままでは最悪の事態を招いてしまいます。
そうさせないためにもクロさんを回復したい所ですが、今のクロさんは自分の状況を理解出来ない程にハイになってしまっています。すぐに止めなければ。
「メアリー!」
「っ、ヴァイオレットに――クリームヒルト達も!」
するとクロさんを追って来たであろうヴァイオレット達が、やって来て――
「まずは引き離します! 私達の班はあの変な靄の男をやりますから、そちらはクロさんを!」
「了解した!」
すぐに役割分担を決め、行動指針を決めます。
先程までは言霊魔法の後遺症で苦しんでいた私の班の男性陣も動けるまでに回復しています。後は行動さえ指示出来れば、クロさんを止め一時治療をし、医療班の居る所へ運べるくらいは出来るはずです。
その後は私達も離脱するのも良いですし、応援を呼ぶまで時間稼ぎをするのも良いでしょう。あるいは私達であれば、いくら連携が取れていないとはいえ、捕縛する事も可能なはずです。
ともかくまずはクロさんを引き離さなければなりません。そのために私はクロさん達の戦いに乱入しようとします。
「【動くな】」
だからこそ私は、初歩的なミスをやらかしてしまったのでしょう。
「【動いてはいけない。魔力を練ってはいけない。魔法を唱える事が出来ない。お前達に今出来る事は、見ている事だけだ】」
それはただの言葉。言われた所で無視をすれば良いだけの、ただの言葉にすぎません。
――動け、動け、動け――動きなさい!
ですが私達の身体は、先程まで戦っていたクロさんも含め、まるで言われた事を行動に移す事を忘れたかのように、動く事が出来ずにいるのです。
先程まで苦しんでいたローシェンナ君がゆっくりと立つ事を見る事しか。
動けなくなって痛みを思い出すのではなく、力が抜けたように立っているクロさんを見る事だけしか。
クロさんに近付いて行く、言霊魔法の効果から逃れている謎の男を見る事しか出来な――
――ふざけないでください、これではまるで以前の私と変わりません。
前世の思うだけで決して行動が出来ず、夢を見る事しか出来ず、なんのために生まれてきた分からないまま死んだ病床に付す私となんの変わりもありません。
『■■……ああ、これでようやく。この世界から目覚める事が出来る』
動いて、動いて、動いて――お願いだから、動いて私の身体。
早くしないと間に合わ――
『さようなら。クロ・ハートフィールドの名を植え付けられた、愚かな役者よ』
――そうして男の手は、もう一度するかのように、“彼”の腹部へと刺さったのです。




