YAH YAH YAH(:白)
View.メアリー
「という訳で私はカーマインを殴――ぶん殴って来ますので、これにて失礼します」
「待て、そんな事を言って行かせるとでも――おい待てメアリー・スー!」
と、いう訳で私はカーマイン・ランドルフ第二王子を止めに行く事にしました。他の皆さんには迷惑をおかけしますが、それどころの話ではありません。早くしないと彼が愛という名の狂気に飲み込まれて殺されてしまいます。
「ま、待てメアリー・スー! なんのためにカーマイン兄さんを殴りに行くんだ!」
と、私が全力ダッシュで森のフィールドを駆け、カーマインを探しに行くと、殿下が私を必死に追いかけて来ました。流石は殿下、あらゆる事をすぐにこなせる器用さを持っていますね。他の皆さんは……ちょっと遅れてついて来てますね。流石です。
「詳細は省きますが、先日の石碑さんの力を手に入れたであろう謎の男が、とある人物を殺そうとしています」
「っ! あの巫山戯た石碑か……だが、何故それがカーマイン兄さんだと分かるんだ」
「クロさんへの愛を叫んだからです」
「は?」
「クロさんへの愛を叫んだからです」
「聞こえなかった訳ではない。どういう意味だという反応だ」
ええ、それを分かった上で二回言いました。なにせそれが一番の説明という他ないからです。
確かにクロさんへの愛を叫びそうな人は他にもいるでしょう。ヴァイオレットとかスカイとか、後はグレイ君も元気よく叫びそうですね。
ですが……
「クロさんへの狂気を伴う愛を叫ぶのはカーマインしかいないのです……!」
「何故……!?」
あの、王族の立場とか家族とか未来とか関係無しに、「今! クロ・ハートフィールドの苦しむ表情を見る事が出来れば、他になにも要らない!(意訳)」という狂気の愛を叫ぶのは彼しかいません。というか他に居ても困ります。
なにせクロさんに色んな事をして自分の影をチラつかせる事で「俺を恨めば奴は俺を忘れないで居てくれる!」と、自分を忘れないようにしているような変態です。個性的なシキの皆さんとは違う変態なのです。
例えばクロさんに自分の事を忘れて貰わないように常に嫌がらせの仕事を増やしたり、伴侶を与える事で守る対象を増やしたり、校外研修でアッシュ君達をシキに送ったり、学園に学園祭の招待状を送ったりという、地道な嫌がらせを――
――……なんか彼が居なければクロさん、今の幸せを手に入れられなかったような気がしますね。
……いけません、なんか彼がヴァイオレットの嫁ぎ先を無理矢理変えた事により、クロさんがラブラブな家庭を築いたキューピットみたいな思考が過りましたが、気のせいです。あんな邪悪なキューピットは居りません。消え去るのです邪念。
「とりあえずカーマインを見つけ次第殴ります。サーチ&デストロイです」
「殺すな。……カーマイン兄さんがそのような事をするとは思えないが、あの石碑の力を得た者がいる、とあの全裸女が言ったのだな?」
「はい」
「……ならば、そのような者を探すとしよう」
ひとまず殿下は、謎の存在が周辺に居る可能性が高いとは判断してくれたようです。
ともかく、協力してくれるというのならば手分けして探すべきか、ある程度固まって動くべきか、どうするべきでしょうか――、っ!
「皆さん、止まってください!」
私の合図に、やや後ろにいた他の皆さんも私達の場所に近付いてから止まります。
何故止めたのか、急に走った理由はなんだったのか、とアッシュ君達は問いたそうでしたが、私の視線の先に居る存在を視認すると、すぐに戦闘態勢になりました。
『■■■■■■■■■!!!』
私達の視線の先に居るのは、黒い靄で覆われ、なにかを叫ぶ存在。
見れば敵と思うような、警鐘を鳴らす暗闇のような存在。
そのトウメイさんが言っていた特徴と合致する謎の存在は、私達が戦闘態勢になるのに充分な異彩を放っているのです。
「……あれか。確かにあのような存在を放置は出来ないな」
殿下は半信半疑であったであろう表情から、最初に会った時と同じような、油断を一切しない戦闘態勢で闇の存在と対峙します。
「あれがカーマイン兄さんだというのか、メアリー・スー」
「情報が正しければ、ですが。あの叫びがクロさんへの愛の叫びならカーマインその人です」
「……クロ、前世で悪い事でもしてたのかな」
私達の会話にシアンが此処には居ないクロさんを心配しつつ、浄化魔法の準備を始めていました。
『■■ー■■■■■■!!!』
……しかし、あれがカーマインなのでしょうか。
確かに叫び声は男性であると分かるのですが、何処となく違うような気がします。
『■■ー■■■■■■!!!』
いえ、ですがあの叫びからは狂気の愛を感じます。ならば相手をカーマインと想定し、カーマイン対策の戦闘をして――
『■■ー■■オ■■下!!!』
……おや? 謎の靄の存在が、私達を見て……いえ、殿下の方をジッと見て……?
『ヴ■ー■リオ■■下!!!』
えっと……
『ヴ■ー■リオン■下、ヴァー■リオン■下、ヴァーミリオン殿下!!!』
…………。
「ヴァーミリオン殿下! 私の言葉を受け取って孤高なる存在へと至ってください、愛しています殿下ぁ!!!」
「はぁ!?」
……狂気の愛をぶつける二号が現れました!!




