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ファミ〇キ下さい(:白)


View.メアリー



【「フゥーハッハッハ! よく来たな力を求めし者共よ! ここに来たからには力を得るために試練を受けに来たのだろう、そうなのだろう。よかろう、この我がお前達に試練を与え、乗り越えた暁には素晴らしい力を授けようではないか!」】

『…………』


 石碑が、喋っています。

 比喩などではなく、石碑が喋っているのです。

 顔がある訳でも口がある訳でもないのに、愉快な口調で石碑が喋っているのです。


――これは一体……?


 元々話す……というか、言葉を話すと言うのは知っています。

 カサスでは“脳に響くような、何処か温かくも無機質な声”という表現で語り掛ける、という説明がありました。ですがこの声は、脳に直接というよりは私達と同じように、空間の振動を通して耳から聞こえるような感じです。石碑が音叉のように震えて語り掛けて来るのです。


【「む、どうしたお前達。此処に来たという事は人の身に余るほどの力を欲しに訪れた者なのだろう? ポカンとしているのではなく、なにか反応をしたらどうだ。……ん? おお、そうか。もしや二人の女性を愛するために持久力が欲しいという願いか? ならばそれを叶える試練を科すぞ! なんならこの場を貸して我の前で愛し合っても良いぞ!」】


 …………。はい、とりあえず。


「壊しときます?」

「そうだな。速攻で壊しておこう」

【「なぬっ!?」】


 なんとなくですが、この石碑の言う事を聞くと碌な事にならないような気がするので壊しておきましょう。

 サラバ謎の石碑。喋るという事は生命体なのかもしれませんが、壊させて頂きます。そして貴方の事は忘れるまで忘れません。


「あははは、二人共落ち着いて。いきなり壊すのは良くないよ」


 ……そうですね。急な理解出来ない事に即断してしまう所でしたが、まずは落ち着くべきでしょう。

 元の世界では喋りも動きもしなかった石碑が、なんだかシキの皆さんとヴァーミリオン君狂い(ローシェンナ)を足したような感じがする愉快な性格になっているのは驚きですが、落ち着きましょう。


【「ふむ、その感じだと此処に来たのは力を追い求めて来た訳では無いんだな。……妙だな、ここに来る条件を満たさずに入る事が出来るとは」】


 それにこの明確な元の世界との違いは、夢魔法を解くキッカケになるかもしれない事象です。落ち着いて、向き合うべきでしょう。


「……ええと、石碑さん。貴方の話を聞く限り、試練を乗り越えれば力を授けてくれる、という事でよろしいのでしょうか」

【「そうだ。求める力が大きければ大きいほど、重い試練を科す」】

「それはよろしいのですが……何故そのような事を?」

【「ふむ? 我はそういう存在だから、としか言いようが無いな。そこに理由は必要か?」】

「必要ですね。仮に貴方が人を弄ぶだけ弄んで力を授けず絶望させたり、力を授けた後しばらく経ってから失わせて人が堕ちる様を見て楽しむ事が生きがい、などなら私は貴方を破壊しなくてはなりません」

【「ふむ、なるほど。絶望する顔は一興ではあるが、生憎と我は公正だ。最初に提示したルールを反故にするような存在ではない、としか言いようがない。交流を何度も行えない以上は、我はこの言葉を信じて貰うしかない。そして信じられないのなら去って貰えると助かる」】


 ……これはなんとも反論し辛い回答ですね。

 この石碑さんは自分の立場を理解した上で、私達に真摯に答えているように見えます。ですがこの石碑さんがもし私の知っている試練を科すような石碑ならば、破壊した方が安全ではあるのですが……喋るとなるとどうしても気が咎めてしまいます。


「とりあえず試練を受けてみる? なにか分かるかもしれないし」

「マゼンタ叔母さん。このような得体の知れない存在の口車に乗る必要はない。口先ではなんとでも言えるのだからな」

「それはそうだけど……ところで、この息子にお母さんと言わせるような魅了のチャームの力が欲しい、って言ったら、力を得られる試練を受けられるの?」

【「すまない、それは我の力を大きく超えている」】

「くっ、そんなにも心の壁は大きいの!?」

「アンタら楽しんでないか」


 というよりこの石碑は七つの宝玉を集めると出て来る龍かなにかですか。

 ……と、それは置いておくとしまして。殿下の言うように口車に乗る必要はありませんし、ここは大人しく引き下がった方が良いかもしれません。


「聞きたいのですが、もし私達がこのままこの場を去ると言ったらどうなりますか?」

【「どうもせん。力が欲しかったらまた来るが良い、としか言うのと……あまり外でこの場所を吹聴しないように、と忠告するくらいだ」】

「何故でしょう?」

【「私がこの場から消える条件が、壊されるか多くの者に認識されるかのどちらかだからである。ま、我を消したいならそれでも構わんぞ。色んな者にここを報告すれば、ここはただの地下の部屋に成り下がる」】

「……それは」

【「?」】

「それは、怖くはないのですか?」


 話を鵜呑みにするのも良くはありませんが、話通りならば石碑さんは自分が死ぬ条件をあっさりと教えた事になります。そんな事をして、怖くはないのでしょうか。私はどうしても気になってしまうのです。


【「こんな石碑にそう思うとは奇特な嬢ちゃんだ。まぁそれに答えると、そういった感情は無いとしか言いようがない」】

「そう……ですか」


 ……それを言われたら、私は納得するしかありませんね。


「メアリー・スー。あまり肩入れしようとするな。この石碑はそういった現象である、という程度に思っておけ」

【「なんやこっちの坊ちゃんは冷たいのぉ。そんなんやからその年齢になっても女性経験がないんやで」】

「そんなに壊されたいかお前」

【「なんや、怒るんか。怒るって事は我に感情をぶつけるってことやで。それこそ肩入れっちゅうことになるんやないかい!」】

「お前なんで俺にだけそんな口調なんだ! ええい、行くぞ、メアリー・スー、それとマゼンタ叔母さん!」

「お母さんって言わないと私は無理と分かっても試練を受けるよ」

「――マゼンタ母さん、行くぞ!」

「はーい! ありがと石碑さん、お陰でお母さんと呼んで貰えたよ!」

【「おう、良かったな嬢ちゃんー。年齢誤魔化さんときちんと成長するんだぞー。そして反抗期の息子を大切にな!」】

「はーい!」


 おお、殿下がとても苛立った表情をしています。

 ……と、私も行くとしますか。話しながらこの周辺と石碑さんを調べましたが、喋る事以外は前の世界と変わりませんし、一応夢魔法を解く手段の一つとして気に留めておく事にしましょう。

 そう思った私は石碑さんに頭を下げてからこの場を去ろうとし、


(「メアリー・スー。聞こえるか」)


 今度は空間ではなく、脳に響くような声が私に聞こえてきました。


(「返事はないが、聞こえているものとして言わせて貰う。とても重要な事だ」)


 驚きそうにはなりましたが、話してきた相手がこの石碑さんだと判断すると、出来るだけ平静を装って次の言葉を待ちました。


(「アドバイスだが――その男を逃がさないようにするためには、変な小悪魔ムーブより直球で行った方が効果的だぞ。そうすればゲットできるぞ!」)


 余計なお世話ですよコンチクショウ。


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