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私が好きなのは(:白)


View.メアリー



「で、とりあえず貴女を倒せば解決します?」

「ステイステイ、メアリーちゃん。頷いた瞬間攻撃仕掛けて来そうな魔力を抑えて」


 とりあえずこの私より若い親世代のマゼンタさんを殿下から引き離し、周囲に人が居なくて迷惑のかからない訓練場に来ました。来た理由? それはもしこの状況が彼女の仕業の場合、彼女を倒さないと駄目だからです。彼女を倒すには全力であたらないと駄目ですし、そうしたら周囲に被害が及ぶ可能性がありますからね……!


「ねぇ、メアリーちゃん。もしかしてだけど、私を倒す事自体には良心の呵責もなにもなかったりする?」

「良……心……?」

「メアリーちゃんが心を失った怪物のようになっている……!」


 いえ、この場合は倒す事に何故良心を痛める必要があるのだろうか、という意味です。……冗談です。


「……ま、この状況を考えればしようがないけどね。言っておくけど、私が原因じゃないよ」

「そうですか。ごめんなさい、疑ってしまって」

「あれ、言葉だけで信じるんだね?」

「マゼンタさんの場合は、変に嘘を吐かずに素直に言うでしょうから」

「あははは、よく分かってるね!」


 よく分かっていますよ。なにせ私もそうであったように、善意で善行を為そうとしているでしょうから、聞かれたら隠さず答えるでしょう。なにせ隠すような憚れる事ではないのですから。

 とはいえ、あくまでも以前のマゼンタさんであれば、ですが。クロさんの話だとシキの教会で色々あって心情が変わったようですから、そもそも今回のような事をしないという信頼は有りますし。

 ……まぁ先程の光景を見ると少々悩みますが。ああいう事をするために世界を作った、とか普通にしそうですし。


「ま、ともかく私は巻き込まれた側だよ。気が付けば共和国だったし、夢魔法の気配を感じるし」

「あ、夢魔法なんですね、やっぱり」


 人間関係で少々メンタルにダメージを受けていたので忘れていましたが、やはり夢魔法ですか。私の場合はあくまでも候補の中で一番可能性が高い、という程度でしたが、マゼンタさんが言うのなら確定といっても良いでしょう。


「ちなみにマゼンタさんは最初から記憶が?」

「最初から、というのは何処から指すのか分からないけど、この世界で過ごしていて急に思い出した、気付いたとかじゃなくって、急に記憶が飛ばされた感じだね。二週間ほど前に」

「前日までの記憶と整合性が取れない、という感じでしょうか」

「そうそう。で、色々軽く調べた後、共和国をさっさと出て夢魔法の発信源っぽいこの学園に来たの」


 とりあえずは私と状況は同じ、といった所でしょうか。

 ですが何故私とマゼンタさんだけがこのような状況に置かれてるのでしょう。それに……


「マゼンタさんは何故その御姿なんですか?」


 マゼンタさんの姿は、最初に私達が出会った時と同じ若返った御姿。もし一年前に戻ったとしたら彼女は若返る前の御姿のはずなのですが……もしやそこになにかヒントがあるのでしょうか?


「調べるついでに若がえっておいたよ」

「……何故です?」

「実はここに来る前にヴァイス君に会いに行ったんだけど、彼に会うならこの姿になっておかないと、と思ってね。いやぁ、見た目が同じ年齢の子に揶揄われる帝国ヴァイス君は可愛くていいね!」


 いいね! じゃないですよ。通報した方が良いでしょうか。

 ともかくマゼンタさんのこの姿に解決のヒントが無い事は分かりました。というかあっさりと若返らないで欲しいです。


「……時にマゼンタさん。この夢魔法を解く手段はあるのでしょうか」

「うーん、手段は有るし、知ってはいるけど……」

「本当ですか!?」


 いつもの感じがするマゼンタさんの言葉に、あまり当てにはせずに聞いてみたのですが、まさか手段を知っているとは! ならば一刻も早く解決を――ああ、いえ。


「……知ってはいるけど、まだ解決は出来ない、ですか」

「あははは、そうなるね」


 そもそも早く解決できるのならばマゼンタさんはさっさとしているでしょう。していないという事はなにかしらの理由、または問題があるという事です。慌てずに、まずは解決手段を聞かねばなりません。


「でも良いの、メアリーちゃん?」

「なにがでしょう?」

「仮に貴女がこの夢魔法問題を解決できるとしても、すぐに解決してしまって」


 ? 質問の意図がよく分かりません。

 この世界は私にとってはあまり好ましくない状況(せかい)であり、解決できるのならすぐにでも解決したいのですが……


「ほら、メアリーちゃんうちの息子大好きでしょう?」

「はい」

「おお、即答。愛されてるね、ヴァーミリオンも。……でね、この世界にもヴァーミリオンは居るし、あの子が偽者という訳でもない。ならあの子と恋愛しないのかなーって思った訳。ほら、過去の反省を活かしてかなり惚れさせられて、甘く溺愛されるかもしれないよ!」


 成程、そういう事ですか。

 言いたい事は分かりますし、彼が偽者と言う訳ではないことは分かっています。

 この世界で初めて会った時も昔の彼を彷彿とさせましたし、彼が私とまだ出会っていない状態のヴァーミリオン・ランドルフである事も理解しています。

 ですがそれは……


「私が好きなのは、過去に私が多くの失敗をし、決して良い選択をし続けたとは言えない時間を過ごしたヴァーミリオン君なんです。……彼では、無いんです」


 ヴァーミリオン君をキャラとしてしか見ていないまま仲良くし、多くの失敗や逃げを繰り返し、「なんであんな事をしたのでしょうか!」と枕に顔を埋めたくなるような事もしました。

 ……ですが、そのやり直したいと思う記憶も含めて彼と過ごしたから、私はヴァーミリオン君が好きなのです。この記憶を、やり直したいと思う気持ちも含めて私は無かった事にはしたくないのです。


「それに、それを言うのなら貴女もじゃないですか、マゼンタさん。一年前という事は、モリアーティ一家も居るのでしょう?」

「…………そうだね。居たよ。居たから……私はこの世界を壊したいと思った」

「それは何故ですか?」


 状況だけ見れば、彼女はこの世界に留まりたいと思うはずです。

 今度こそは失いたくないと、同じ過ちを繰り返さないと願い、彼らを幸福にしたいからと、この世界を壊すような事はむしろしたくないはずです。


「メアリーちゃんと同じだよ。……私が好きなのは彼らじゃないし、彼らが好きなのは私じゃない。それだけなの」

「つまりこの世界は……」

「うん、間違っている。だから直したい」


 ですがマゼンタさんも彼らは似ているだけの別人であるという認識をしています。ただ、それだけなんです。だからマゼンタさんも解決したいと思っている。……それは、彼女の様子を見て分かっていましたから。


「まぁそれはそれとして、息子と娘、そしてヴァイス君の今の状態での反応を楽しみたかったから、色々やりはしたけどね!」


 この人はこの世界では捕まえておいた方が良いのではないでしょうか。


「……それはご自由にして良いと思いますが、それで、何故解決しないのです? 手段は分かっているのに」

「ああ、そうだったね。強いて言うなら無理矢理起こせないからかな」

「どういう意味です?」

「だって彼は――」


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