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白の目覚め(:白)


View.メアリー



 学園の寮で眠ったはずの私は、気が付けば懐かしき実家の私室天井を見ながら目を覚ましました。

 正確にはかつて家族が放棄した倉庫に、家族から見放された私が勝手に寝泊まりしていただけなのですが、それは些末な話という事です。


――何故私が此処に居るのでしょう。


 ここで重要なのは、私がこの部屋に居るという事です。

 学園に入学するにあたり、王都に行く事になって家族とご近所の方々に「二度と帰って来るな!」と見送られて以来私はこの街に戻ってきた事はありません。にも関わらず、私はこうしてこの部屋で目覚めているのです。


――少し寒い、外に見えるのは……春の花。


 私の記憶では今は初夏であり、朝や夜でも薄着にしても大丈夫だと言えるような気温のはずなのですが、今感じる気温は長袖の寝間着であるのに布団が恋しくなる様な寒さです。

 ……なにが、起きているのでしょう。


――まずは、情報収集ですね。


 私の身になにかが起きているのか、周囲に事件が起きているのか、世界がまた夢を見ているのか。いずれにしろこの状況を判断するには、まずは情報を集めるべきでしょう。


――穏便に行きましょうか。


 そう考えた私は、手早く着替えて情報収集を開始するのでした。







「お久しぶりです可愛い私の弟。御願いですからお姉ちゃんの言う事を聞いてくださいね」

「イタタタタタタタタイタイイタイタイ! なんで関節キメるんだよお前!」

「私が聞いているのに無視しただけでなく舌打ちするからです。あと“お前”呼びも減点ですよ」

「ギャー!! 分かった、分かったからなにが聞きたいんだよお――姉ちゃんは!」


 と、よく考えれば私は地元では人を助ける事に執心し過ぎて「あの子には近付くな」状態だったことを思い出したので、とりあえず碌に話さずにいた実の弟に話を聞く事にしました。

 が、弟も私の事を嫌っている……いえ、避けているのでちょっとお話をしました。姉弟らしく身体で触れ合いもすると、私の質問にもキチンと答えてくださりました。やりましたね!


――今は私が学園に入学する二週間前、ですか。


 話を纏めると私の年齢は十五歳。私が学園に通ってもいなければ、ヴァーミリオン君達とも会っていないような時期であるようです。

 これはタイムリープなのか、私が現実だと思っていたのは実は夢だったのか、未来予知で未来を見ていただけなのか、私の頭がおかしくなっただけなのか。


「ううむ、私の頭がおかしいのはよく言われますから、これかもしれませんね……」

「自覚あるのかよお前――イタタタタ、お、お姉ちゃん!」

「自覚はありますよ。なにせ私は――」


 なにせ私はこの世界をゲームの世界だと思い込んでいた女です。

 皆が幸せになるようにと行動していたくせに、幸せになる未来が無いからと、友人となる存在を切り捨てていた私です。頭がおかしいという他ありません。


「……まぁ、理由はともかく、私の頭がおかしくない事を証明するとしましょうか」


 しかし今の私は現実を見始めている女です。

 私の行動に付き合ってくれたり、慕ってくれた友人のため。そしてあの楽しかった学園生活が、頭がおかしい女が見ていた夢でなかったとするためにも、今のこの世界に起きている事を解明してみるとしましょうか。

 そしてなによりも……


「……なんだよ、お姉ちゃん。いつもは頭がおかしいと言われても、“私は皆を幸せにしたいんです!”って笑うだけだったくせに、今は否定するんだな」

「ええ、そうですね。私の頭がおかしいと、ちょっと困る事があるので」

「困る事?」

「はい、せっかく初恋をしたんですから、この感情をおかしいから得たなんて認めたくないですし」

「……はい?」


 恋をしたら頭がおかしくなる、というのはよく聞きますが、少なくとも妄想をした結果ありもしない夢を見る、という意味の頭のおかしさとは違う種類のものでしょう。

 あの私の感じていた恋心が夢ではなく現実であり。

 誰にも渡したくない、奪われたくない感情を守るためにも、私はこの世界の方がおかしいのだという事を暴きに行かねばならないのです。


「……え、好きなヒトが出来たの、お姉ちゃん?」

「はい、世界一格好良い、世界の誰よりも好きな人がいるのですよ、私は。その人に相応しい女になるように、そして魅了出来るようにお姉ちゃんは頑張っているのです」


 そして魅了した暁にはヴァイオレットやシアンと「私の夫自慢」みたいな女子会をするのが私の一つの目標です。ふふふ、楽しみです。


「……本当に?」

「ええ。好きな人には綺麗で賢くて格好良い私を見て欲しいので、頑張って小悪魔系を演じて頑張っているのですよ私は」

「なんだかよく分からないけど、お姉ちゃんが明後日の方向に努力をしているのは分かった」

「え」


 おかしいですね。事情を知らないはずの弟の言葉のはずなのに、核心をつかれたかのような鋭さを感じました。何故でしょう。


「それでお姉ちゃん。これからどうするの?」

「そうですね……まずは周辺で調べ物をした後に……」

「後に?」


 学園に行って私の知る学園とどう違うのか、他に記憶を持った人が居ないか、こういう事を平気でしそうな何処かの馬鹿師匠を探して殴った方が良いのではないか、など色々調べる手段はありそうです。

 ですがまずは……


「よし、調べたらシキという地に行ってちょっと変態を浴びて来ますので、調査ついでに外出準備ですね。善は急げで行きますよー!」

「お姉ちゃんがおかしい存在から変態になろうとしている!?」


備考 メアリーの弟

メアリーが人を救うために色々やっていたため、親にメアリーの分まで溺愛・管理されてしまった子。姉が色々やるたびに親が苦労するのを見て来ていたためメアリーはそれなりに恨んではいる。

だがそれはそれとして、姉の人を救うというあり方は尊敬しているし、現実を見始めた今のメアリーであれば仲良くもなれる根はとても良い子。


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― 新着の感想 ―
[一言] *例のBGM* メアリーは 変態に 進化した!
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