表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1363/1904

文字数


 黒い人型の生物。


 “ソレ”を見た第一印象は、それ以外に読み取る事が出来なかった。


――あ、ヤバい。


 そして次に感じるのは、自身の語彙力が増えたとしても同じ感想を抱くであろうと思うような、生存本能を刺激するような危険信号の感想。

 単純な、全力で対応に当たらねば死ぬ。そんな、生への渇望であった。


『■■■■■■■■■■■!!!』

「っ!」


 突然現れた黒い人型の生物は、獣のように叫び空気を振動させる。それに各々が大なり小なり怯んだ後、まるで近くに居たから狙ったと言わんばかりに俺とクリームヒルト、ヨモギへと襲い掛かって来た。


――見ろ。


 ソレは実体としての身長は俺と同じくらい(170後半)程度。だが、周囲を纏っている炎のような、あるいは泥のような奇妙な靄がソレの存在を大きく見せ、同時に人ならざる存在と周囲に知らしめている。四肢、身体、首。それらは分かるものの、その靄のせいで姿と大きさを変えるため、辛うじてそれらだと分かる程度でしかない。

 顔と思しき場所には鼻も口も見えないが、目だけは確認できる。光っているはずなのに暗い、見られているはずなのに別の物を見ているような奇妙な目。


――悪魔。


 陳腐な言い方をすれば、ソレは悪魔のようである。

 獣に近い行動をする人間の、理性を失い破壊をもたらすだけの悪魔。ソレはそう評するのが相応しいような、異質にして異様な存在であったのである。


――それだけだな。


 異様な存在である事は理解したが、だからどうしたと思わなければならない。

 悪魔のようなソレは今まであった事の無いような存在であり、恐怖を煽る姿形をしているが、それだけだ。

 モンスターが襲い掛かって来たのと同じだ。油断すれば殺される、怪我をする。それが同じならば、恐怖や不安に負ける事無く相手に応じた戦いをする。それだけだ。


「ヨモギ、舌噛むなよ!」

「は――っ!!?」


 だからまず、襲い掛かってくる攻撃に対して、俺は拘束していたのもあるが恐怖によって動けずにいたヨモギを抱えて攻撃から身を躱す事を選択した。

 クリームヒルトも同じ場所に居たが、彼女は判断も行動も早い。俺が抱えずとも――というか、抱えたらむしろ邪魔になるレベルの戦闘強者だ。


「【錬金魔法:失敗_崩壊】」


 その証拠に、クリームヒルトは避けるだけでなく錬金魔法を唱えて発動させていた。

 魔法自体は失敗なのだが、敢えて襲い掛かって来る先である地面を材料にして失敗する事で、地面を崩壊させて敵の動きを鈍らせるという離れ業を成していた。


『■■■■!!?』


 そしてクリームヒルトの目論見通り悪魔のようなソレが攻撃をした先でバランスを崩し、落とし穴のようになった地面に足を取られていた。


「スカイさん、浄化魔法とか使えますか!」


 だがすぐに立て直して襲い掛かって来るだろう。そう判断した俺は、避けるために飛んだ先に居たスカイさんに対し、ヨモギを下ろしながら素早く尋ねた。


「――、少しは、程度です。試しにやりますが、あてにはしない程度で!」

「足止めでも出来れば充分です、お願いします!」


 先程まで動きが止まっていたスカイさんは、俺の言葉にハッとして剣を構えつつ詠唱の準備をした。


「シルバ!」

「――――っ! なに!」

「悪いが遠距離攻撃を頼む、得意の闇魔法でも良い、とにかく強い魔法を目一杯放てる準備を!」

「別に良いけど、大丈夫!? 僕の得意は呪――闇魔法だけど、アイツ吸収したりしない!?」

「その時はその時だ、試さず死ぬとか嫌だろう!」

「ええい分かったよ!」


 見る限りでは闇魔法とかぶつけると吸収して力とかつけそうだが、その時はその時だ。なにが効くのか分からない以上は試せるモノを試しておかないと。


「ヴァイオレット様、貴女は――」

「他種属性の魔法を試し、なにが効果的か試す、それで良いか!」

「え、はい、お願いします!」


 ヴァイオレット嬢は俺が言うとすぐに対応――というか、既に呪文を唱えて魔法の発動準備を終えている。今は相手の動きを見ているだけで、動き次第即座に魔法を放って動きを封じるための魔法を放つ気なのだろう。流石は公爵家のお嬢様というべきか、即座に自分の出来る事の切り替えが早いようである。


「あ……え……?」


 対してなにが起きているのか理解できず、足がすくんでいる女生徒が一人。先程俺達に向かって先陣を切って攻撃をしようとしていたため、一番距離が近い――


「エボニー、危ない!」


 悪魔のようなソレの近くで動けずにいるエボニー女史だ。先程まで怯えと理解不能で放心に近い状態であったヨモギも、血相を変えて名前を叫んでいる。先程の事を考えれば次に襲い掛かるのはエボニー女史と思うのは自然な事だ。いくらヴァイオレット嬢が攻撃をけん制できるとはいえ、相手は未知数という言葉が似合うような異形の悪魔。

 普段のような様付けではない呼び方で呼ぶような間柄の相手が攻撃の範囲に居るとなれば、不安という言葉では言い表せられない恐怖を覚えるであろう。例えそれは護身符の効果があるというエリア内にあったとしても変わりはしない。


――回収する。


 この場で一番素早く動けて、一番近いのは俺だ。

 危険であり場合によっては命の危機を伴うが、それだけで目の前の相手を救える可能性があるというのならば充分だ。あんな未知の存在が現れたのだから、もう授業とか護身符の効果があるとか考えずにエボニー女史の安全を確保――


『■■■■■■■■■■■!!!』

「――は!?」


 しかし俺が動こうとした瞬間、悪魔のようなソレが攻撃を仕掛けて来たのは一番近いエボニー女史ではなく俺であった。


「「【雷中級魔法(ライトニング)】!」」

「「【炎中級魔法(ファイアボール)】!」」

「【闇上級魔法(シャドウ・ストライク)】!」


 ソレの行動に対し、周囲に居た動けるメンバー達がそれぞれ魔法を放つ。

 突然の行動であったため外れた物もあるが、いくつかはソレに命中する。


『■、■■■■■■■■■■■!!!』

「くっ、避けろ、クロ!!」


 しかしソレは一瞬だけ怯んだが、すぐに持ち直して俺への突撃を続けた。

 迫り来る手はまるで俺の首を掴んできそうな動きであり、掴んだ後はそのままへし折りそうな殺意が込められている。


「ええい、来るなら来い!」


 それに対して俺は迎え撃とうというように身構える。

 当然そのまま迎え撃つわけではない。何故かこの悪魔のような存在は俺を狙っているのだ。ならばそれを利用して周囲が強い魔法を唱えるための時間稼ぎをしてやる!


『■ロ■■■■■■■ル■!!!』


 そして時間稼ぎをしようと身構えた回避した所で、先程から叫んでいる言葉の一部が聞き取れた。

 それだけではなにを言っているのかは分からない。ただ、この悪魔のような存在は俺達にも通じる言葉を発しているという事は理解出来たのだ。


――理解するな。


 だが、何故だろう。俺はこの言葉を理解したくない。

 そんな事を言っている場合でない事は分かっている。発する言葉の意味を理解出来れば、この悪魔のような存在に関するヒントが分かるかもしれないんだ。理解をするよう努力すべきであろう。


『■()()■■■■■()■!!!』

「くっ、なにを言っているのか分かればコイツの攻略法が分かるかもしれないのに……!」


 さらにエボニー女史の班の誰かが言ったように、俺だけがこの悪魔のような存在の言葉を聞き取れているようであるのだ。ならば俺は必死に死なないように時間稼ぎをしつつ、この言葉の真意を探れば良い。

 なんだかこの言葉を理解した所で意味がない気がする、という直感は捨てろ。理解をするんだ。


『■ロ・ハ■■■■■ル■!!!』


 このバーサーカーのような、狂化された状態のこの存在の叫びを理解しろ。


『■ロ・ハート■■■ル■!!!』


 理解を……


『■ロ・ハート■■―ルド!!!』


 理解、を……


『クロ・ハート■■ールド、クロ・ハートフ■ールド、クロ・ハートフィールド!!!』


 …………。


『俺にお前の表情を愛させろ、クロ・ハートフィールド!!!』


 ええいチクショウモテモテだな、俺は!

 世の中のモテモテ男性はこんな辛い思いをしているんだな、大変だなちくしょうめ!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おまえかーい!!!!!
[一言] お前かい!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ