来ちゃった♪
「あーはっはっははは! こっちはこのヨモギ氏をいつでも脱落させる事が出来るし、耐久値が減らないようにしつつ苦しめる事が出来る! 無事に返してほしかったら大人しく班分けの腕章を渡す事だね――おっと、動くと首が締まっちゃうよ!」
「く、卑怯な……!」
お前が悪役女子だったのか。
そんな風に思わずにはいられないほどに、ノリノリでTHE・悪役を演じているクリームヒルト。普通の平民であればこのような状況であれば、交渉をしたとしても後が怖いので下手な事は言わずに用件だけ言うであろうに、わざわざ煽るような事を言うとは、色んな意味で度胸のある子である。
そもそも普通であったら人質を取った交渉をしない? そうだね。
「あー、そちらの班の皆さん。俺達の目的はあくまで腕章の奪取です。それさえ達成できれば彼を脱落させないと誓いましょう。応じない場合は五対四でさらに戦う事になりますが」
悪役女子はともかく、とりあえずヨモギの腕章を奪った後、「このように外して欲しい」とジェスチャーで示しつつ交渉をする。一応これで「ヨモギ氏に対する俺達の目的は達した」となり、ヨモギをすぐに脱落させてもこちらは良いというアピールにもなったであろう。出来ればこれで応じて欲しいのだが、彼女らはそれでも「大人しく人質を開放するとは思えないし、交渉に応じない!」といって俺達に向かってくる可能性があるから、一応いつでも戦闘を始められるようにはしておこう。
「あはは、腕章を外した後に大人しくヨモギ氏を放す保証が何処にあるのかなクー君!」
お前が言うんかい。
「反故にはしませんよ。俺達がここで約束を反故にすれば、同じ班であるヴァイオレット様やスカイといった貴族の名を汚す事にもなりますからね」
「ヨモギンを人質にしておきながら今さらなにを……!」
……まぁそうだよな。人質作戦は普通に卑劣な作戦である。誇りある貴族であるならば正面から戦って奪うべきであろうし、今更汚す云々言われても信じられないだろう。とはいえ、人質作戦も有用な時は有用だ。常在戦場とまではいかないが、あらゆる状況を想定して被害を最小にするというのも時には必要な選択だ。今回は状況的にこの作戦が手っ取り早く有用であった、という話だ。
あとヨモギンってなんだよ。普段はあんなに厳しい口調なのに、裏ではそんな可愛いあだ名で呼んでるのかエボニー女史。
「そこは俺達を信じて貰う、しかありません。俺達が交渉を反故にしたという汚名を背負うと考えるのならば仕様がありません。今彼を封じているように、残りの貴女達も似たような形で腕章を奪っていくしかありませんね」
「…………この……!」
エボニー女史は悩んでいるようだ。
心情としては今すぐに俺達を倒してしまいたいが、このまま戦いに移行すれば数の利はこちらにあり、同時にヨモギを失った状態では勝つのは難しいと理解はしている。それにいつも一緒に居る貴族組はともかく、残りの平民組とは碌に合わせも会話もせずにこうして授業に挑んでいるような感じだ。
数でも連携でも心配がある状態で挑むのは無謀としか言いようがない。奇襲や奥の手といった余程の事が無い限り、交渉に応じた方が良いだろう。
「ここで引いては貴族の名折れ! お前達、すぐにヨモギンを取り返しますわよ!」
だがどうやら彼女は貴族の誇りとやらを優先したようだ。
平民の班員だけでなく、もう一人の貴族であるスプルースも選択に動揺が見られていた。
――仕様がない。
戦うという選択肢を取るのも立派な判断だ。
引いたり舐められたりしたら後まで尾を引くのが貴族社会。こちらの交渉には応じずに、前に進み続けなければならない選択肢をとった彼女の意志を俺は尊重する。
――悪いがヨモギには倒れて貰おう。
戦うと言う選択肢を取ったのならば、後はそれに対して俺が出来る最適だと思う行動をするだけだ。だからまずはヨモギの個人耐久値を削り、脱落させる。
先程は俺達の動きに対して控えるだけだったスカイさん達も、戦いは避けられないと判断したのか魔法詠唱や武器を構え始めている。これなら行動の意志に対してバラツキがあるエボニー女史達の班員に後れを取る事は無いだろう。
――油断をするな。
だが、なにをされるかが分からないのが戦いという物。
いつも通りの戦いのように、見て、見て、見て、判断して最適解を出す。油断をせずに、最高の選択肢を選べるように「今」という状況を見て判断を――
『■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!』
『――はい?』
――そうして、“ソレ”は現れた。
エボニー女史達の隠された秘密作戦でも無く。
漁夫の利を狙った他の班の介入でも無い。
ソレはまるで突然そこに発生したかのように現れ。
『■■■■■■■■!!!』
俺達を、殺しに来た。




