自己紹介とお題
「おお、本当になんか凄いなにかが、身体全体を覆ってなんかなってる感じがある……!」
「言葉にし辛いのは分かるけど、もう少し表現を頑張れよクリームヒルト」
「これが護身符エリアの効果ってやつなんだね……シルバ君、試しに効果があるか私を殴ってみて!」
「ヤダよ。お前効果があっても効果が無いようなふりをして僕を慌てさせるだろ」
「あはは、よく分かったね!」
ヴァーミリオン殿下から謎の視線は受けたが、全員が問題無く扉を潜る事が出来て俺達は所定の位置へと着いていた。今は授業開始時間になるまでの待機時間である。
そして肝心の護身符の効果に関しては、こう、なんか凄いなにかが、身体全体を覆ってなんかなってる感じがある感じである。……うん、語彙力鍛えなきゃな。
「ヴァイオレットちゃんさんもそう思うよね?」
「……そうだな。言語化が難しいが、私達に魔力の膜が覆っている感じがあるな。あとちゃんさんはやめろ。間抜けのようだ」
「あはは、了解!」
「…………」
……さて、どうしよう。
少々どうすれば良いかと俺は悩んでいる。
この所定の位置まで来るまでの移動の際には班で来て、今も班で待機中な訳である。どちらも明るく振舞ってくれているクリームヒルトのお陰で会話こそあるのだが、何処となく空気が重い。
原因はヴァイオレット嬢に対してどう接すれば良いか分からない、俺、スカイさん、シルバによるものだ。壁……とは違うが、距離のようなモノが感じられる。同じクラスとは言えスカイさん達も彼女とは会話が少ないだろうし、それも当然かもしれないが……
「えっと、班を組んで森に着た俺達だけど……とりあえず改めて自己紹介を。クロ・ハートフィールド、火組の壁役。肉体強化以外の魔法はからっきしなんで、肉弾戦で魔法のためを作る時間稼ぎとか相手の妨害は出来るかと思う」
このままだと連携不足で目も当てられない事になりそうなので、とりあえず距離を連携が出来る程度には出来るように近付けようと会話をしようと思い、改めて自己紹介をすることにした。こういった情報があるとないとでは大きく違うからな。それに入学して日も浅いし、月組の授業は今一つ分からないが、月組の方ももしかしたら互いの戦闘スタイルとか分かりあってないかもしれないしな。シルバは特に。
俺は一応新入生代表として戦っているので、全員が俺の戦い方は知っているだろうが、一応言い出しっぺとして言っておかないと。
「クリームヒルト・ネフライト! 魔法は現在勉強中! 錬金魔法で色んな物を作ったりできるけど、作る時にはちょっと時間が必要かな。それに素材が必要だからあまり当てにはしないで。爆弾なら結構作れるけど……私は殴る方が好きなのでクー君と一緒に相手を殴りに行く所存だよ!!」
本当にこの子は乙女ゲーム主人公なのだろうか。殴るのが好きとか割とバイオレンスだな。何度か手合わせしてるから知ってはいるけど。
「スカイ・シニストラ。魔法も肉弾戦もどちらでも対応は可能ですが、基本は守ったり補助をする事を得意とします。役割としては中間役が適していると……あ、身体は丈夫なので、いざとなれば前衛で楯職もいけます。私が殴られてその間に皆さんが攻撃するという戦法もありかと」
その絵面は結構酷い状況な気がする。けど彼女は護衛騎士でもあるし、それが最も彼女の誇りある戦い方だろうから言われた感じにした方が彼女のためではあるのだろうが。
「……シルバ・セイフライド。基本は魔法攻撃が主力。闇魔法が得意で、威力がある魔法を放とうとすると、どの属性でも闇魔法の補助を使う変わった使い方をするけど、あまり気にしないで。戦闘では後ろから攻撃すると思う」
闇魔法というよりは、シルバの持つちょっと特殊な魔力が闇魔法に近いから隠しているのだろうが……そこは突っ込まない方が良いか。何故知っているのかとか言われそうだし。
「……最後は私か」
そしてある意味では一番緊張の走る、ヴァイオレット嬢の紹介の番だ。何故彼女が俺達の班に入ったかは分からないが、入りに来た以上は好意的な物があると思いたいが……あの乙女ゲームの主人公であるクリームヒルトも居る事だし、拒絶される事も考えておこう。その際には言い出しっぺの責任としてキチンとフォローをしないとな。
「ヴァイオレット・バレンタイン。魔法も運動面も合格点以上を取れる自負はあるが、そちらのハートフィールドやネフライトと比べると身体能力については劣る。バランスを考えると戦闘では後衛で魔法役に徹した方が良いだろう。場合によってはシニストラの耐久性やセイフライドの高威力の魔法といった強みを活かせるようにフォローしよう」
と、思ったが素直に話してくれた。言い方がぶっきらぼうなので歩み寄る気は少ないかもしれないが、こうして話題に乗ってくれただけでも感謝しかない。
あとついでを言うのなら俺達の班に入ろうとした理由を言ってくれれば、俺達(特にシルバ)の警戒心も解かれて良い感じになるかもしれないのだけどな。本人は成績のためとか言ってはいたけど……それならもっと他の良い班があるだろうし。
闘技場の一件といい、昨日の件といい、今も俺達の優れた所を認めてくれたりとそこまで悪い人じゃなさそうだし……けど、流石にそれは高望みし過ぎか。
「ところでなんでヴァイオレットさんは私達の班に入ったの? 成績だけを見るのなら、もっと良い班あったんじゃない?」
と思ったらクリームヒルトが直球で聞いた!
だ、大丈夫だろうか。俺だけでなくスカイさんとシルバも不安そうにしているぞ。
「私が逃した交流戦新入生代表枠が三名も居る。それだけでも充分だと思うが?」
「あはは、それはそうかもだけど、ヴァーミリオン殿下とアッシュ君が組んだのにそっちは見向きもしなかったみたいだからさ。なんでかなーって。殿下の方はトップで婚約者なのにさ」
「……私は殿下と並び立とうとしている」
「うん?」
「だが今の私は殿下より劣っている。殿下に並び立つには、同じ班で補助をするよりは、別の班で殿下と並び立てる存在なのだと証明した方が良いと判断しただけだ」
「あはは、なるほど! でも大丈夫?」
「なにがだ?」
「ほら、男の子って婚約者とか付き合ってる女の子に負けるとプライドが傷付けられて嫌わないかなーって。“俺を見下しているのか! 俺より目立つな!”的な」
「殿下がそのように言うのはあまり考えられないが……そのような事を言う殿下なら、私から願い下げという話なだけだ」
「おお、これが婚約者の余裕……!」
「そういう事だ。だが、あまりそういった事を言うものではないぞ。仮の話でも、殿下を貶める不敬な発言となる可能性があるからな」
「ここに居る皆は吹聴しないし、ヴァイオレットさんも許してくれると思ってね!」
「む、それなら今後しないように許さないでおこう」
「あはは、ごめんね許して!」
おお、まさか話してくれている。これが主人公力というやつか……! 凄いコミュニケーション能力である。けど、前世の妹っぽさがあるな。距離感がつかめなくてちょっと危ういコミュニケーションの仕方のように見える。
……しかし、ヴァイオレット嬢は嘘は言っていないけど、全ての本音を言っていない、って感じもするな。なんとなくだけど。……まぁそこは追及はしまい。
「ところでさ、クロ。さっき渡された班のお題? の紙ってまだ開けたら駄目なの?」
「いや、開けても良いんだが、開けたところで時間にならないと文字が浮かび上がらないんだよ。ほら」
「あ、ホントだ。時間まであとどのくらい?」
「えっと、確か……」
「あと一分もありませんよ。そろそろ浮かび上がるはずです」
「あ、どうもですスカイ」
「いえいえ。護衛をやっていると時間の感覚が大事になるので。自然と鍛えられたんですよ」
スカイさんはそう言うが、多分本人の性格もあるのだろうな、と思う。
時間にルーズな奴はルーズだからな。前世の友人のようにコンテスト締め切りが迫っているのに、居ないと思ったら「オーストラリアでエアーズロックを登ってるぜ!」とか言っていたり……いや、あれはルーズとは違うか。ただの馬鹿だ。
「っと、本当に浮かび上がって来た」
前世の友人に呪詛をちょっと送っていると、本当に紙に文字が浮かび上がって来た。凄いな、魔法。こんな事まで出来るとは……ええと、なんて書いてあるのだろうか? ……? …………。
「なんて書いてあるの?」
「“他のチームの服を奪え”だそうだ」
『なんで?』
ハモられても聞かれても、むしろ俺が聞きたいよ。




