思っていたより……?
「という訳でねー。私の知りたい事のために彼らは協力してくれただけなんだよ。だから彼らの事は不問にしてあげてね! しないと私は姿を現した状態で貴女にウザ絡みするよヴァイオレット!」
「この女、自分を脅しに……!?」
よく分からないが、トウメイさんは彼女を知っていて、彼女はトウメイさんを知らないようであった。その反応はアプリコットやグレイの時と同じであるし、何処となく俺とは似て非なるものであった。
「へいへいへーい。目つきの鋭さがあるワルワルなヴァイオレットも良い感じだねへいへいへーい!」
「よ、寄るな私はそちらの趣味は無い……!」
ただ明確に違うのはトウメイさんが好意……? を示している所だろうか。向けられている方は凄く迷惑そうな反応をしているので、ちょっと彼女には同情する。
それと……
――そういえば、そんな名前だったか。
悪役令嬢……彼女の名前はヴァイオレット。そう、ヴァイオレットだ。先程トウメイさんが名を呼んだのでようやく思い出したが、何故今まで忘れていたのかが分からない程、その名前は耳に馴染んでいた。……本当になんで今まで、知らなかった/忘れていた、のだろうか。
「というよりも、そのような隠された物が学園にある訳ないだろう、妄想も大概にするんだな!」
「へい、ムーブザスタチュア!」
「クレナイ様の像が動いたぁ!!」
おお、良い反応するなヴァイオレットさん。厳しめの雰囲気であまり動揺を表に出さないと思っていたのだが、先程までと違って反応がとても愉快である。まぁアプリコットやグレイも驚いてはいるんだけど、こちらは目を輝かせる的な驚きだからなぁ。
あと創立者の名前はクレナイか。こちらは聞いても耳には馴染んでいないな。すまないクレナイ様。
「おおー、これが秘密の部屋へと続く、ギミックを解放した事による【無毀なる縛鎖の解放】というやつなのですねアプリコットさん」
「それもあるが、【己が栄光は過重湖光】と呼ばれる精霊の試練かもしれぬな。グレイは我の後ろに控えておれ!」
「分かりました、背中はお任せください!」
「従者二人が分かった様な口振りを……ハートフィールド、貴殿はなにを企んでいる!」
「えっと、二人の発言は俺もよく分かりません」
本当は俺が教えたものもあるから分かるのだけど、分かると言うとなんか色々言われそうなので今は嘘も方便という事にしておこう。あとなんで俺の呼び方が“貴殿”になっているのだろう。……まぁそこは今は良いか。それよりもこの像を調べないとな。
「とりあえず中に入りましょうか」
「いや、このような場所を生徒だけで調べるのは良くない。まずは教員に報告を、」
「その場合私が一緒に報告に行ってあげるよ」
「よし、安全を確保して調べて行こう。私が先行する」
おお、トウメイさんが見事に脅している(?)。ヴァイオレット嬢も己が評判の大切さを選びはしたが……先に行く選択肢を迷わず選ぶ辺り、上に立つ者として弱き者(俺以外)を危険に合わせる事を良しとしない気高さはあるようだ。
「大丈夫大丈夫。あらゆる力を無効化出来る私が先行するから、ヴァイオレットは後ろに控えていて!」
トウメイさんがヴァイオレット嬢に危険を合わせないために……というよりは、危険な場面で前に立つ事が当たり前のように振舞っているように見える。……なんとなくだけど、トウメイさんは先導者のような、ヴァイオレット嬢とは違った意味の“上に立つ者”としての振る舞いがある様に思えるな。
「先行するお前の裸を見ながら私達が集中できると思うか」
……うん、そうだね。
「ええー、でもなにを受けても私は平気なんだからさ。私が適任で――」
「こういう場面で前に立てずしてなにが公爵家――」
…………よし。
「あの、早くしないと置いて行きますよ。先に行かせて貰いますからねー」
「あ、おい、ハートフィールド、勝手に行くな!」
そう言われても、いくら認識阻害されているとはいえ違和感に気付く人は気付くし、早めに調査しておきたいのに、調査前から言い合って時間を使いたくない。先に有無を言わさずに行く事で、この争いをさっさと終わらせる事にした。
というかこういう場面に前に出るべきなのは、身体だけは丈夫な俺が適任だろう。元々こうする予定だったし、予定通りに行っていると言うだけだ。
「トウメイさんは一番後ろで俺達全員を見渡せる形でお願いします。アプリコット、グレイ。ヴァイオレット様に危害が及ばないように前後で守っていてくれ」
『かしこまりました』
「はいはーい」
「…………」
ヴァイオレット嬢は俺が仕切っている事に不満顔であったが、すでに中に入ってしまっている以上は、下手に乱した方が危険だと判断したのか黙って現状で最適解を行動しようという事で従ってくれたようだ。
――思っていたよりも素直に従ってくれたな。
あの乙女ゲームのイメージだと、てっきり色々騒いで調査の邪魔をすると思った。というか先程の不機嫌さを考えればそうなったとしてもおかしくないので、如何にして目的を果たし、場合によっては黙らせるかも考えていたのだが、杞憂で済んだようだ。
……先程俺と目が合ってから、ちょっとおかしいような気がするな。
――まぁそれは良いとして、この部屋は確か……
俺の記憶が正しければ、この像の下の部屋は本来、選ばれた者が前に立たないと動かない仕組みなのだが、そこはトウメイさんがどうにかしてくれた。
そしてこの部屋には過去の学園の秘密や力を与える石碑がある。確か「秘密を受け入れたら力を得る事が出来る」というものだ。
――あれ、罠だよな。
本来なら「受け入れがたい秘密を受け入れる事で得た秘密の力で、問題を解決しハッピーエンド!」というのが王道のシチュエーションだろう。
だがあの乙女ゲームは凄く捻くれており、
『秘密は分かったけど過去の栄光とか借り物の力とか居るかぁ! え、受け入れたからには力を与える? いらん、私は私の力を信じる!』
……という、「秘密を受け入れた上で力はいらねぇと石碑をぶっ壊す」がトゥルーに続くシナリオなのである。……多分シナリオライターは力こそパワーである的な思考をしているのだと思う。
まぁ今回は壊す気はないのだが、秘密とか得られる力とかを調査したいと思った次第である。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
出来ればどちらも出ないで欲しいなと思いつつ、地下へと続く階段を下っていき、少し開いた空間に出る。
「っ、灯が急に!?」
そして俺達が部屋に近付いた瞬間に、一斉に明かりがつきだす。
その瞬間に全員が警戒態勢になりつつ、部屋の中に踏み入れると――




