勝手に分解するなよ
闘技場の一件から一週間。ようは入学から二週間経った訳なのだが、俺は一つ問題に直面していた。
この問題と比べたら最近エボニー女史一派の方々に睨まれたり、露骨に無視されたりする事なんて木っ端な出来事と言っても過言ではない問題だ。
その問題とは――
「テスト勉強って……なんのためにあるんだろうな……」
「あはは、そりゃテストのためじゃないかな」
そう、テストである。
アゼリア学園では来週の初めから勉学、魔法、運動面のテストがある。
これは生徒会メンバーを決めるための最初の選考でもあり、同時に成績上位者には特典があるテストでもある。この特典はトレーニングルームの使用に優先があるとか、食堂の割引(一位とかだと無料)が利くとかいう代物であるため、生徒は特典や名誉のために勉強をしたり己を高めたり、全体ではなく部門で上位を取るために一種に的を絞って鍛えたり、後はいつものことながら他を妨害したりする。
ただ上位は特典はあっても、下位は補習と言ったペナルティも存在するので、俺としては苦手な勉強と魔法をどうにかして頑張っている訳であるのだが……
「なんだよこの問題。数字を分解するなよ。ありのままの数字が美しいと思わないのか……?」
「いや、そこが問題じゃないだろクロ」
「なんで点Pが勝手に動くんだよ!」
「そういうものだと諦めろよ!」
……この通り、勉強面がさっぱりである。歴史とか国語はどうにかなるのだが、数学とか魔法理論(前世で言う所の科学みたいなもの)とかよく分からない。くそ、魔法理論とかで教科書よりも便覧の本を見てるんじゃなかった……! でも便覧に書かれてる魔法陣とかテンション上がって見ていたくなるんだもの……!
「諦めない……諦めないぞ俺は。諦めなければ夢は必ず叶うと信じているんだ俺は……!」
「じゃあ目を逸らさずに、良い点を取るという夢を諦めるなよクロ」
「……そうだな、シルバ」
……うん、目を逸らさずに今までサボっていたツケを取り返すとしよう。
――しかし、シルバと仲良くなったぁ、俺。
先週の謎のラブラブうさちゃんさんの一件……闘技場の一件でシルバと知り合い、それ以降何度か会って会話をし、今はこうして一緒に勉強をしている仲にまでなった。あの貴族嫌いシルバ相手に、貴族の俺が仲良く勉強までするとは正直予想外であった。
――……まぁ、見かねたシルバが助けてくれている感じではあるんだけど。
初めは俺が自習室で勉強をしているとクリームヒルトがやってきて勉強を教えて貰う事になった。クリームヒルトも「正直テストは不安なんだけど、教えられる所は教えるよ!」とは言ってたけど、彼女は……過程をすっとばして答えを導くタイプの天才型であった。
簡単に言えば、「なにが分からないのか分からない」というようなタイプ。俺がなにでつまづいているのか分からず教えが難航していた所、偶然通りかかったシルバをクリームヒルトが捕獲したのである。
初めは話すようになったとはいえ貴族の俺に勉強を教える事に難色を示したシルバではあったのだが、俺が頼み込むと今はこうして教えて貰っているのである。ついでにクリームヒルトも過程を学ぶために一緒に勉強をしている。
「というか、お貴族様なら家庭教師とかついてたんじゃないか。なんでこんな初期の勉強でつまづくんだよ」
「うぐ。……面目ない」
確かに一応貴族なので家庭教師は付けられはしたのだが、生憎と俺は勉強はギリギリ合格点を取れるか取れないか、程度であった。
前世ではいくらまともに勉強していなかったとはいえ、今世ではそういった言い訳が通用しない家庭環境ではあったのだ。苦言を呈されてもなにも文句は言い返せない。
「あ、いや、別に良いんだけどさ。(……ったく、調子狂うなぁ……貴族の癖に普通に僕達に接するし……)」
む、なんだろうか。先程は何処か鋭い目つきだったのに、俺の反応を見るとちょっと慌てたかのような表情になったが……あ、それよりもこの問題を解かねば……!
「どうしたのシルバ君?」
「なんでもないよクリームヒルト。……あと、この問題答えはあってるけど、この計算式の過程は?」
「え、必要?」
「必要だよ、むしろなんでこれであってるのか疑問だよ。答えだけ丸暗記してんじゃないか?」
「ええ、だってこれって1+1をわざわざ書くみたいなものでしょ? ちょっと数式を2つ簡略化しただけじゃん」
「全然違うからな!?」
……なんか色々凄いなぁ、クリームヒルト。多分俺がわざわざ計算式を書いてもつまづく所を、暗算で解決しているんだものなぁ。
――というか、こんなスペックだっけ、彼女。
あの乙女ゲームの主人公である彼女は、もう少しなんと言うか……全体的に「伸びしろはある」感じだったと思うんだが。ストーリーを通じて月組に相応しい学力を身に着ける感じで、このような天才型のような感じだっただろうか。
これはどちらかというと、前世の妹のような――
「おや、珍しい組み合わせですね」
備考1 クロの授業スタイル
一応教師の話は聞くし真面目にノートは取るのだが、余計な事考えている事が多いので振り返ると「あれ、別に書かなくても分かるから良いやと思って省略したけど、省略した所ってなんだったっけ……?」となるため、実質“書いているだけ・聞いているだけ”に近い状態
よく分からない数式よりは、ハート曲線みたいなユニークなものばかり覚えるタイプ
備考2 クリームヒルトの学力
仮定を無視して答えを導くタイプ。基礎よりも発展問題を得意とするゆえに、現在は色々とつまづいている。




