グレイの生徒会執事記_5(:灰)
View.グレイ
「ふぅ、相変わらずグレイの淹れる紅茶は美味しいですね。クリームヒルトさん」
「あはは、そうだねティー君」
「ええ、とても美味しい……美味しいです」
「うん、とっても美味しい……美味しいね」
「…………」
「…………」
放課後の生徒会室は何処か、緊張感が走っていた。
いるだけでピリピリとするような緊張感ではなく、相手の様子を伺うような、言葉にする事が難しくてもどかしいような、奇妙な雰囲気。
「…………。何処まで見えたのかな?」
「!? ……白の柔肌に麻の黒い下着は、シンプルだからこそ本人の魅力を引き立てるのだと理解しました」
「あははー。結構がっつりと見てたんだねー。ティー君のえっちー」
「……申し訳、ございません。必要ならば処罰を受けます」
「受けなくて良いから。お願いだから雷神剣を渡して“好きなように切ってください”みたいな仕草やめて」
その理由は、先程起きた一連の出来事。上半身が下着姿のクリームヒルトちゃんとティー君の会合である。
クリームヒルトちゃんは私に見せる分には気にしないのだが、どうやらティー君に見られるのは恥ずかしかったようである。そしてティー君も事故とはいえ見てしまった申し訳なさからなのかずっと調子がおかしい。
そして現在、先程の一連の出来事についてクリームヒルトちゃん(上はティー君の運動着)とティー君が話し合っている訳なのである。
「これがいわゆる、恋の駆け引きというやつなのですね……!」
「そういう……ものなのかな……?」
そして私とフューシャちゃんはちょっと距離を開けた場所で二人の様子を紅茶を飲みながら眺めていた。
フューシャちゃんは先程まで起きた出来事――マッサージをしていたらカップが弾け飛んで、庇おうとしたクリームヒルトちゃんの背後から椅子の霧散による破片の攻撃を服に受けた事による制服とシャツの破壊――を自分のせいだと思い込んで落ち込んでいたのだが、先程から起きているこの恋の駆け引きのお陰で今は落ち込まずに、私と共に行く末をハラハラしながら見ている。
「まぁ見られても減るもんじゃないし、気にしなくて良いってティー君。というかむしろひんそーな身体を見せちゃってごめんね!」
「いえ、そのような事はございません。私にとっての最上級のうら若き乙女の柔肌を見てしまったのです。気にしますし、申し訳なさで一杯なのです……!」
「あはは、ならうら若き乙女の肌を見たとして責任取っちゃうー? なんて――」
「え、責任を取っても良いのですか?」
おや、ティー君の目の色が変わった気がする。
先程まで申し訳なさと羞恥があったのだが、今は好機を得たような好戦的な目である。
「あはは……え。取る気なの?」
「もちろんいつでも取る覚悟はありますので、取っても良いと言うのなら今すぐにでも――」
「ノー! あ、いや、ノーじゃないけどまだ私達には早すぎるから今はノー!」
「む、残念です。ですがまだ早いと言う事はいずれ……その時のために私は自分を高め、責任を取って貰う覚悟をさせるような男になりますね。絶対に誰にも渡さないために……!」
「あはは、グイグイとくるね。ティー君ってそんな私を手に入れたいほどのエゴイストだっけ?」
「それはもちろんです。私にとっての一番大切な女性のためになら積極的に取りに行きますよ? もちろん相互理解を得た上で、ですが」
「あ、あはは、そっかー。思ったよりも肉食系なんだねー」
おお、クリームヒルトちゃんが押されている。これは珍しい――というより、この光景を何処かで見た事がある気がする。
何処だったか……あ、そうか。
「なんだか父上達を見ている気がします」
「クロさん達……?」
「はい、出会って一ヶ月後あたりはクリームヒルトちゃん達のように気軽に話せている方だったのですが、しばらく経つと今のように……」
最初の頃はお互いの様子を見て、しばらく経つと明るく話せはしたけれど夫婦らしくは無かった父上達。当時は私も夫婦らしくなって欲しいと色々模索したものだ。
そしてさらにしばらく経つと、丁度今のクリームヒルトちゃんのような感じになっていた。特に二人きりの時。
「最初は……友達のように……親しき間柄だったから……普通に話せたけど……自分の恋に……気付いたら……気になって話せなくなった感じ……?」
「恐らくですが、そんな感じです」
私はまだ恋を勉強中なので断言はできないが、多分そんな感じだと思う。
今までとは違った方向に意識してしまった故に、今まで気にしなかった事を気にするようになったような……普段は明るくグイグイ行って揶揄う事も多いのだが、ふとした瞬間は今までよりも“弱い”。とにかく今のクリームヒルトちゃんはそんな感じである。
「ううむ、やはり父上の魂の妹なのですね……似ています」
「関係……あるのかな……?」
もちろん関係あるとも。なにせ血のつながりなど関係無くとも似ていると思わせる行動をクリームヒルトちゃんはとっているのだ。これを魂の繋がりと言わずしてなんと言う!
「あと、何処かアプリコット様を彷彿とさせるような……いえ、気のせいですね」
なんとなくクリームヒルトちゃんの行動が、ここ数ヵ月のアプリコット様の私に対する態度と似ている気がするが……いや、恐らく気のせいだろう。
「…………」
「おや、どうかされましたかフューシャちゃん。私めの顔になにか?」
「ううん……グレイ君は……クロさんの息子なんだなー……って……思っただけ……」
「はい、私めはクロ様の息子ですが……?」
「そういう事じゃ無くて……血は繋がって無くても……魂の繋がりが……あって……似ているんだな……ってね……」
「はぁ、そうですか……?」
よく分からないが、似ているというのならば褒められているのだろう。素直にその言葉は受け取っておくとしよう。
……それにしても似ている、か。似ていると言う事について気になる事があるので、ちょっとフューシャちゃんに聞いてみよう。
「フューシャちゃん。一つ気になる事があるですが、先程のクリームヒルトちゃんの見られた時の反応なのですが」
「下着姿を……見られた時の事……?」
「はい。その時の反応が最近のアプリコット様の私めに対する時と同じな気がしたのです」
「……同じ……?」
「以前のアプリコット様は一緒に温泉に入っても気にせず自身の身体を誇っていたのですが……何故でしょう? それが分かれば今までと同じようにアプリコット様と触れ合えるのですが……」
「グレイ君……わざと……言ってない……?」
「? いえ、そんな事はありませんが」
「そっか。……それは……自分で見つけるべき……答えだから……私からは言えないかな……」
「? そうですか」




