グレイの生徒会執事記_3(:灰)
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「~ふん、ふん、ふふーん♪」
私が用意した苦めの紅茶をシャル様が砂糖を淹れて飲みほした後、ヴァーミリオン様達はナデシコ様のお勤め先探しと大人になるために娼館街へ行かれた。見送った私はカップを丁寧に拭いた後、鼻歌を歌いながら生徒会室の机や窓などを拭いている。
――相変わらずこの部屋は綺麗ですねー。
生徒会室の掃除の担当は基本週替わりではあるのだが、大抵は自分で使う範囲は使ったご自身で掃除をする。それに今当番ではない私がやっているように、手が空けば自主的に掃除をやったりもする方々もおられるので、基本的に生徒会室は綺麗な状態が維持されているのである。
あとスカイ様が定期的に当番とは別に掃除道具を手にし、ヒトが変わったように強くなり、汚れを消し去るがごとく瞬時に部屋を綺麗にされるので汚れる暇が無いのも綺麗な要因の一つだったりする。
――ですが、それにかまけてサボるのはよくありません!
しかしヒトが利用する以上はどうしても汚れはするし、綺麗にする事は個人的には好きなので手が空けば掃除はする。普段であれば埃が舞うのでしないのだが、私だけの今ならいつも以上の掃除が出来るかもしれない。
ふふふ、シキに居た頃を思い出してもっと掃除を――!
「あれ、グレイ君だけ?」
「あ、クリームヒルトちゃんに……フューシャちゃん。やっほーです」
「あはは、ヤッホー!」
「や……やっほー……?」
と、残念ながら掃除を本格的な掃除を始める前にクリームヒルトちゃんとフューシャちゃんが来られた。残念だが掃除はまた別の機会にするとしよう。
「あ、紅茶飲まれますか? 先程ちょっとした理由でお湯を用意したばかりなので、すぐに淹れられますよ」
「お、それはラッキーだね! 丁度欲しかったから貰おうかな」
「じゃ……じゃあ……私も疲れたから……貰おうかな……でも……なんで……お湯を……?」
「目を覚まさせるために熱湯をかける必要があったのです」
「よく……分からない……」
最初はシャル様が飲む予定だったのだが、熱湯自体はなにかに利用は出来るのでそのまま置いたままだったのが早速役に立って良かった。
「しかし丁度欲しかったというのは、クリームヒルトちゃん達も課外学習の件でお疲れなのですか?」
私は紅茶を用意しながら、いつもの席に座りつつ何処かぐたーっとしているクリームヒルトちゃんに尋ねる。……ええと、クリームヒルトちゃんはファーストフラッシュで、フューシャちゃんがセカンドフラッシュ……っと。
「まぁ、そんな感じだねー。ほら、私の場合はエクル兄さんが今療養中でしょ。それで兄さんの代わりも色々やっているというのもあるけどねー」
「それは……お疲れ様です」
「あはは、ありがとー。まぁ私にでも出来る事ばかりだから良いけどねー」
クリームヒルトちゃんはあっさりと言っているが、多分私には出来ないようなかなり面倒な事をされていると思う。彼女は貴族の仕事や事務作業は性格的に好きでは無いと言うだけで別に出来ない訳ではないし、むしろ優秀である。なんとなく父上を彷彿とさせる仕事ぶりは、流石は魂の妹と言った所か。
そして今はフォーサイス家に迎え入れてくれたエクル様の恩返しに、エクル様の代わりに頑張っているだろうから、その優秀さを遺憾なく発揮しているのだろう。それこそエクル様が療養を続けても問題無いレベルには。
ならば私がクリームヒルトちゃんのために出来る事は、そのレベルを維持できるように、精神の安らぐ事の出来る美味しい紅茶をご用意する事だろう。ふふふ、腕がなる……!
「フューシャちゃんもお疲れというのは……やはり、ナデシコ様によって大人な女性になるための階段を登る準備をされている感じですか?」
「やはり……? 大人の階段……? え……えっと……クリームちゃん……これって……」
「うーん、他の男性陣だったらセクハラ案件な気がするけど、グレイ君だとそれはないかな」
「だよね……? でも……だとしたら……どういう意味……?」
「あはは、分からん!」
む、私の発言は上手く伝わらなかったようだ。でもどう表現すれば良いのだろうか。
「お兄様であるヴァーミリオン様が大人になりに行った」、というのは本人達に口止めされているので言わない方が良いだろうし……むぅ、困った。
「私は……クロガネさんの……件について……色々……やっていたから……それでちょっとね……」
と、悩んでいたらフューシャちゃんが説明をして下さった。良かった、大人な女性に関しては後で考えるとしよう。
「クロガネ様と言うと……確かスカイ様に愛の告白をするために強くなった後、スカイ様が鉄拳制裁をし爆発四散して現在は療養中の母上の従兄、でしたか」
「あはは、間違ってないけど羅列すると意味分からないね!」
確かクロガネ様は現在扱いが難しい状態と聞く。
禁術を成功させたので成功例として研究・経過観察するべきとか、如何なる理由があっても禁術を使ったので面会謝絶の重罪人として扱うべきだとか、彼自身はあくまでも被害者であるとか、バレンタイン本家の方が身柄引き渡しに来る可能性があるとか。とにかく扱いが難しくて慎重にしなければならないと聞いている。
そんな彼にフューシャちゃんが色々しているなど、何故なのだろう。なにか彼と因縁でもあるのだろうか?
「昔……私の運……というか……私の周囲で起きた……事故に……巻き込まれた事があるから……ちょっと……気になってね……」
聞くとフューシャちゃんが幼少期の時に起きた事故でクロガネ様が巻き込まれたことがあるとか。幸い怪我は小さくて済んだのだが、クロガネ様自身は身体が弱い御方なので体調を崩して病院でしばらく安静にしていたらしい。
それをフューシャちゃんは「自分のせいで入院する程の大怪我を負った」と勘違いしたらしく、ずっと気になっていたらしい。誤解自体はすぐに解けたのだが、自分が関わった事故が原因で体調を崩したのならば、あの時のお詫びも兼ねて少しでもクロガネ様の力になりたかったらしい。
「なるほど、そうでしたか……ですがフューシャちゃんがそれで体調を崩しては元も子もないので、お気を付けくださいね? あ、紅茶をどうぞ」
「うん……ありがとう……気を付けるよ……っん……ふぅ……相変わらず……グレイ君の淹れる紅茶は……美味しいね……」
「ありがとうございます」
「あはは、本当だよね。私は紅茶なんて、午後に飲むべき紅茶を午前に飲むみたいなノリでしか飲んでこなかったけど、グレイ君の紅茶だと昔は金と同じ量で交換されていたって分かるほどの美味しさだもんねー。……ずず……ふぃー、美味しいー」
そう言われると、まだまだ修行中の私としてもとても嬉しいものである。
最近はシキに居た頃のように働いてはいないのでちょっと物足りなかったのだが、やはり自分の手での奉仕が相手に喜んで貰う、というのは私の性にあっているのだなと思う私である。
出来ればもっとなにかをしてあげたいのだが……あ、そうだ。父上や母上にやっていたように、肩でも揉んでみようか? お疲れの御様子であるし、丁度良いかもしれない。
「クリームヒルトちゃん、フューシャちゃん。お疲れならば、私の手で気持ち良くして差し上げましょう!」
「あ、肩でも揉んでくれるのかな? ありがとー!」
「…………クリームちゃん……今ので……よく分かったね……?」
「あはは、慣れだよ。慣れ。じゃあ私はグレイ君に揉んでもらうから、私はフューシャちゃんのを揉めばいいかな、ぐへへ」
「なんだか……その笑い方だと……変な所揉まれそう……というか……私に触れるのは……あまり……」
「よし、グレイ君。二人でフューシャちゃんを揉みまくろう。それはもう全身を揉み解す勢いで!」
「なんで……!?」
「運とかは関係無い事を示すためだよ! さぁ、グレイ君。行ってみよう!」
「よく分かりませんが、了解致しました!」
「了解……しないで……!」
その後、何故か私とクリームヒルトちゃんでフューシャちゃんを追い回すという事が起きたりもしたが、数分後には観念して肩を揉み合う形になった私達であった。




