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姉弟達の夕食会_6


 嫌いな相手。

 苦手な相手。

 やり辛い相手

 相性の悪い相手。

 どう評すれば良いかは分からなかったけど、ともかく俺とクチナシ・バレンタインは歩み寄れていなかった。

 会って日も経っていない相手なので仲良くなれないのは当然と言えば当然なのかもしれないが、時間の長短関係無しに俺の彼女に対する感情を理解しなければ歩み寄る事は出来ないと何処かで感じ取っていた。

 別に彼女がグレイ達を危険な目に合わせた事に対して謝罪を要求している訳ではない。

 犯罪者だからと言って避けている訳でもない。

 けど、何故彼女と口喧嘩をしたりするほど俺は荒っぽくなるのか。その理由は彼女が魔法を使わない前世の喧嘩を思い出させてくれるのもあるが、なによりも――


「だいたい、俺は貴女がなんか気に入らないんですよ」


 ……なんか気に入らないという。どうしようもない理由であった。

 そんな事をハッキリと言えるのはお酒を飲んだ影響か、あるいは俺が自分の感情に気付いたのが理由なのか。どちらにせよこの酒の席という無礼講の点がこのような軽口を叩けている要因なのかもしれない。


「気に入らないとは失礼だなお前は。まぁ私も気に入らないが、何故お前は私を気に入らない」


 俺の言葉に対し、渋々ではあるがお酒を飲み始めたクチナシ義姉さんも何処か声色が軽くなっているように問い返してきた。俺に対して売り言葉に買い言葉のように気に入らないという辺り、彼女も酒が入って本音が出ているのかもしれない。


「自分が幸福になる事を否定しているその精神性が気に入らない」

「ほう、ではお前は罪人は幸福になって良いというのか。被害者に対して“相手も人間なのだから幸福を手に入れる権利がある”と言って我慢を強いるというのか。……そんなもの許されるはずがない」

「強いはしないし、被害者に我慢をさせろとは言わん。罪は償うべきだし、罰は受けるべきだ。……けど、貴女がやろうとしている事は、貴女が救われる事は無いだろう」


 彼女は過去の行いのために罪を背負い、罰を受け続ける。自分がやった事は永遠に許される事は無いのだと、不幸を招いたと自罰し幸福という正の感情を殺していく。

 ……罪人とはそういう扱いを受けるべきかもしれないし、それが罪という大きさの代償なのかもしれない。俺だって連続殺人犯とかが罰を受けているのにも関わらず、楽しそうにしていたら腹立たしいし、そんな権利はお前には無いというかもしれない。


「だから私は救われるべきではないと言っているだろう。そのような価値は無いと言うんだ。お前だってカーマイン殿下が幸福になったら許せないだろう? それと同じだ」

「うっせえ、それは関係無い」


 しかしそれは仮の話だし、俺はカーマインの野郎が幸せにしていたら巫山戯るなって殴りたくなる。けどそれはそれとして、俺の主観では架空の犯罪者やカーマインと違って彼女は……目の前に居る義理の姉である彼女は違う。


「何処かに居る俺の嫌いな奴とかどうでも良い奴の話は関係無い。今はクチナシ義姉さんの事を話している。俺としては目の前に居る知っているアンタが幸せを放棄しようとしているのが気に入らん」

「……つまりそれは、私を贔屓していると?」

「そうだよ」

「そうだよ、ってお前……それが許されると思っているのか?」

「俺が思うからそうなんですよ。俺の中ではね」

「自分勝手だな」


 ……まぁ、ようは対等に戦い、「こういう出会いでなければ喧嘩仲間になれてたかもな」とか思う相手が、自ら不幸になろうとしているのが気に入らない。そんな自分勝手な話なのである。


「ヴァイオレット。お前もこの酒に酔った夫になにか言ってやってくれ」


 と、俺では話が通じないと感じ取ったのか、クチナシ義姉さんはヴァイオレットさん(あまりお酒は飲んでいない)に話の対象を切り替えた。酔っ払いに理屈は通じないと思ったのかもしれない。


「私も概ねクロ殿と同じ意見ですよ。私にとって貴女の在り方は強き女性として目標でしたので、そのような貴女が不幸になるなど許せません」

「許せませんって、お前らなぁ……」


 けど話をふったヴァイオレットさんも俺に同調したために、クチナシ義姉さんは額に手をやって困惑の表情になっていた。


「それに私もクロ殿も罪人です」

「む?」

「クロ殿は第二王子の殺害未遂ですし、私は殿下や学園を巻き込んで恋敵に決闘という名の暴力を振るおうとした。力で捻じ伏せ、奪い取ろうとしたのです。……私達は本来罪人として処されるべき人間なのですよ? けどこうして自分勝手に幸福を得ています」

「だが私は多くのヒトの未来を……」

「はい、確かに多くの未来を奪おうとし、混乱を招きましたね。ですが今のクチナシ義姉様は“許されるべきではない自分は幸福になる事は許されない”という罰を受けたがっているだけで、なにに対して許されるべきかを定めていないのではないですか?」

「つまり私は……相手を見て行動しようとしていない。“自らの罪がなにをすれば許されるか”を知ろうとしていない……?」

「はい。……クロ殿はクチナシ義姉様のそういった意味での“救われない人間”が気に入らない、と言っているのだと思います」

「……そうか、クロはそう言いたかったのか」


 え、そうなの?

 ……そうなのかな、多分。ヴァイオレットさんの意見は概ね俺の意見だし、そうなのだと思う。


「まぁそれはそれとして、やはりこうして話せる義姉様を私の前で沈んでいると励ましたくなるので、細かい事を抜きにして早く幸福になってください」

「私の幸福をインスタントにしないでくれ。酔っているのかヴァイオレット?」

「そうですよねヴァイオレットさん。俺達の見えない所ではともかく、俺達の前で沈んでいたら俺達も暗くなるんでさっさと幸福になって欲しいですよね」

「お前もかクロ」

「そうだなクロ殿。お陰でお酒に頼る羽目になるとは……クチナシ義姉様にも困ったものだ!」

「ですよねヴァイオレットさん。クチナシ義姉様にも困ったものです!」

「え、私が悪いのか?」

「はい、悪いのでもっと楽しく行きましょう。楽しんで俺達の前だけでも明るく幸福を見据えて貰いますよ!」

「よし、お酒のつまみを用意しているバーントとアンバーも呼ぶぞ! 皆でクチナシ義姉様が明るくなるまで飲もうじゃないか!」

「お、お前ら。ちょ、ちょっと落ち着――待て、分かったから、分かったからその状態で近付いて来るな! それ以上近付くと私の全力を以って脱走――くっ、首輪が作動!? お前ら今まで使わなかったくせに、こういう時に使うとは――ま、待て分かったから、や、やめ――」


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