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姉弟達の夕食会_2


「ところで夜の方では強気で攻めてそうな義弟よ。聞きたい事があるのだが」

「はっ倒しますよ」


 クチナシ義姉さんはブルストロード兄妹の事を理解する事を諦めたのか、なんか失礼な事を言いながら話題を変えて来た。……いや、別に失礼ではないかもしれないが、その言い方だとベッドヤクザと言われているようで自分がなんか嫌なのである。そんな評価は神父様だけで充分だ。


「で、なんです聞きたい事って?」


 まぁそれはともかくとして、俺としても話題が変わるのならありがたい。気を取り直して質問に答えるとしよう。


「クロはボランティアが嫌いなのか?」

「はい?」


 クチナシ義姉さんが質問してきた内容は、俺が予想していたモノとは少々方向が違う者であった。てっきり先程の戦い方についての話の続きとか、話題を変えずに夜の事を続けて攻めるかと思ったのだが……ボランティア?


「急にどうされました?」

「私は今日、クロに言われフォーンと一緒にシキを見て回っただろう?」

「ええ、はい」


 ちなみにフォーンさんは今頃ブラウン君と一緒に酒場で一緒に料理を食べている。一応クチナシ義姉さんの監督者なので本来は俺達と一緒に食べるべきなのだろうが、そこはアレを邪魔するのは馬に蹴られて死ねと言われそうな雰囲気だったので放っておいている。


「見て回っている最中に私は数メートルの石を興奮しながら運ぼうとしたら実は擬態したモンスターで襲われかかっていた男性が居たので、モンスターを素手で砕いて倒したのだが」

「なんかツッコミどころがいくつかありましたが、それでどうされたんです?」

「その際に小さな怪我をしてな。偶然通りかかった何故か興奮していた医者と出会ったんだ」

「アイボリーですか」

「よく分かるな」

「興奮している医者がシキに何人も居ても困るので」


 むしろ違うと言われた暁には俺の頭痛の種が増える事請け合いである。しかしアイボリーとクチナシ義姉さんは俺と一旦別れた後にでも出会ったのだろうか。そしてアイツとボランティアになんの関係が……あ、アレの事か?


「その医者と色々話をしたのだが、彼がシキに来た当初は色々と反目し合っていたという話を聞いてな。なんでも――」







「アイボリー。お前シキの領民に治療を行っては必要最低限の経費しか貰っていないらしいな」

「それがどうかしたか? 俺にとって怪我の治療は欲求を満たせる行為であるし、研究にもなる。ならば最低限で充分だし、いっそ無償でも構わん。クリア(しん)の教えでもあるように不要なお金を持つ事は――」

「クリア神の教えなど知らん。治療をしたら技術料を含めた金をキチンと取れ」

「あ? ……ハートフィールドといったか、何故お前にそんな事の指図を受けねばならん。そしてクリア神の教えを愚弄する気か」

「教えは否定せんが、俺はお前の行為を否定していると言っているんだアレクサンダー。医療行為はビジネスだ。キチンとお金を取れ」

「なんだ金か。無償の奉仕(ボランティア)をされると領主として税金(しゅうにゅう)が減るから金が欲しいと言うんだな。ならば先にそう言え。これからは納める分くらいは貰っといてやる」

「いらん。納められる税なぞお前がどれだけ儲けようとも他の領民と変わらん金額で充分だ」

「はぁ? じゃ何故そんな事を言う。無償の医者という労働力が手に入って領主としてはありがたい話だろうが」

「その無償が俺は大嫌いという話だ。クリア教の教えを医者として行うのなら、シキではない別の所でやってくれ」

「……貴様、俺に喧嘩を売ってるのか」







「――というような感じであったそうではないか」

「まぁそんな感じでしたね」


 ああ、懐かしいなそれ。その後アイボリーと激しい言い争いになり、その様子を見たグレイ(当時まだ男性が怖い時期)がアプリコットを呼んでくるまでずっと激しい論争を繰り広げてたんだっけか。

 ともかく今でもアイツは似たような事は言うし、軽めの応急手当の時や相手がお金に困っている時などはお金を取らない時もあるが、今は治療に対してはキチンとお金を取るようになっている。無論必要最低限ではなく、治療に応じた適正な値段だ。


「それを聞いて、クロはボランティアが嫌いなのかと思ってな」

「そこまで嫌いではないのですが……ボランティア精神自体は推奨していますし」


 神父様のあの人助けに自分が傷付いたりするのはどうかと思う時もあるが、精神は良いモノだとは思っている。ただ無償の“人助け”をして回る事はともかく、“労働”を率先してしようとしていた事についてはあまり好ましく思わない(今はシアンのお陰で緩和されているが)。

 ともかく、俺はこう思っているだけだ。


「単に自己犠牲に依存する援助行動……労働に対価が無いのは、好きでは無いというだけなんですよ」


 それがボランティア活動に近い行動であるから、単にボランティアが嫌いなのかと思われたのだろう。別に俺も誰でも出来る事に対して有志を募ってボランティアをするのは良いと思うが、技術と知識を必要とする事にすらボランティアで済ませるのは嫌なのである。


「無償の援助を当てにすれば、いつかは破綻しますから。それは領主として見過ごせなかった、というだけですよ。そのアイボリーの件は」


 まぁあのまま放っておけば損得なしで怪我を追い求めるだけの危ない医者になるから言っておいた、というのもあるんだけどね。……今もそう変わらないか。


「ふむ、成程な。……クロがシキで領主として上手くやれている理由が垣間見えたよ」

「本当に好きでは無いんですよ。“服飾の仕事やってるんならパパッと服とか作れるんでしょ”とか技術を甘く見ている奴……形にならないと価値を見出せない輩……!」

「おーい義弟よー?」

「他にも“お願い手伝って。お金は払えないけど、これが完成したら見てくれた人が次の仕事の宣伝になるから”とか言ってくる輩……善意を食い物にするなよ……!」

「……いかん、ヴァイオレット。これはどうすれば良いんだ?」

「キスをすれば元に戻ると思いますが、しても良いですか?」

「それはヴァイオレットがしたいだけではないか?」

「そうですが」

「……認めるんだな」


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