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姉弟達の夕食会_1


 自分は人の好き嫌いはハッキリしている方だが、基本自分にとって害にならない限り相手を嫌う事は無い。自分に害にもならずに嫌う相手など、それこそ害意を示さずに俺に対して道具を扱うような接し方をする、俺に無関心の前世の母くらいだ。多分アレはそういった生き物(せいしつ)なのでもうどうしようもない。

 他に嫌いな相手だと、何処かの第二王子とかシキに害意を示す商人とか第三王子狂い男とか……そういった“自分の好きな物を否定する”相手を俺は嫌うが、それ以外だとわざわざ嫌いになる事は少ない。


 だが好き嫌いはともかく、俺は苦手な人は結構多い。

 前世の会社の社長兼友人だって最初は苦手で好きになる事は無いと思っていたし、会社に入って来る個性の強い新入社員は大抵苦手だった。

 会ったばかりのヴァーミリオン殿下は苦手だったし、スカーレット殿下だって最初はどうも苦手だった。

 シキの領主になってからだって神父様なんて最初はまったく相容れなかったし、個性が強くない神父様派閥のシキの領民だって露骨に無視とかされていたので苦手だった。

 そんな個性が強い存在を前にすると、俺は苦手意識が先行してしまうのである。


――けど今では彼らと仲良くやれている辺り、最初の頃は苦手でも上手くやれて行けるようになるのが俺の性格というものかもしれないな。


 さて、俺の人付き合いの在り方についてはともかく、何故今このような事を考えているかというと。


「舐められたら終わりの戦いにおいて弱点を探して奇襲など邪道だ。正面から堂々と、強弱など考えずその時その時の全力でぶっ飛ばす! これが戦いの最適解だ!」

「確かに力は一定を超えると常人を一切寄せ付けませんが、全て全力は不必要な損害を被ります。時と場合に応じた最適解を見て判断すべきです!」

「だが、全力を出し切れず負けるなど言い訳にもならんだろう。そういう細かい事を言うから私に負けるんだ!」

「あぁん!? その常に全力が全力を出せない足枷にもなりうるんですよ。もっと柔軟に出来ないから俺に負けたんでしょうが!」

「あぁん!? あれで私に勝てたなど柔らかすぎて脳が回って無いんじゃないか!」

「脳が全部筋肉で出来ている貴女に言われたくねぇんだよ!」

「脳は筋肉だろうが!」

「そういう事じゃねぇ!」


 ……と、なんか苦手と言うかなんか相性が悪い義理の姉であるクチナシさんと口喧嘩しているからである。

 夕食を供にする事になり、最初の方はぎこちなさはあったものの段々と話せるようになって来た。そこまでは良かったのだが、気が付けばご覧の有様である。

 ……別に彼女の事は嫌いではない。嫌いでは無いのだが……なんでか気が付けば喧嘩腰になってしまう。なんだろう、彼女は魔法とか使わず殴ってくるから前世の不良時代の感覚が蘇るのだろうか。


「クロ殿、クチナシ義姉様。――座れ」

『……はい』


 ……まぁある程度ヒートアップするとクチナシ義姉さんに敬語を使う事すらやめたヴァイオレットさんが冷静に静めてはくれる。けど、気が付けば先程のようになるあたり、クチナシ義姉さんは今までにない苦手な女性かもしれない。


「……ふぅ、しかしクロ殿が敬語を使わずに喧嘩腰とは珍しい。義姉様と仲良い証拠かもしれないが、控えるようにな」

「はい、すみません……」

「いや、基本誰にでも壁を作るクロ殿が素に近い形で接する事が出来るのは良い事だとは思っている。口喧嘩も多少は良いが、本当に手を出す喧嘩になると止めざるを得ない、というだけだ」


 ヴァイオレットさんは優雅に食事を摂りつつ俺に言う。

 全てを否定はせずに認める所は認めている辺り、ヴァイオレットさんに凄く大人な対応をされている感じがして自分達が酷く子供に思えて恥ずかしくなってくる。……事実俺も口喧嘩の内容はともかく、態度が子供じみていると思ってはいるのだが。


「そういえばクロはヴァイオレットに敬語で接しているな。普段からそうなのか?」


 と、俺が子供じみた行動に自制を促していると、何所となく反省をしているような表情のクチナシ義姉さんが肉を切りながら質問し、言い終わった後にがぶりと食べた。……なんか凄い肉を食べる姿が似合っているな。まさに肉食獣と言った感じだ。


「そうですね、最初の頃に相手が公爵家の御令嬢という事で敬語を使っていて……そのまま今ままで敬語で話していますね」

「シアン嬢と話している時のような感じでは話さんのか?」

「話す時もありますよ。ただ基本は敬語のままだという感じですね」

「ほう、なるほどな。ヴァイオレットとしてはそれで良いのか?」

「はい。こちらが私としてはもう慣れ親しんでいますので」

「普段から敬語を外して話して欲しい、とは思わないのか?」

「クロ殿が私に敬語を外して話す時は……ふふ、特別感がしてとても良いんですよ」

「ほほう、それは興味深い話だが、その件は二人だけの秘密にしておいた方が良さそうな話のようだ」

「ええ、その通りです。――そうですよね、()()

「ごふっ!」


 ヴァイオレットさんに唐突に敬語で、呼び捨てで呼ばれた事に対して俺は食べていた肉を喉に詰まらせるところであった。

 ……危ない、不意を喰らってしまった。ヴァイオレットさんに敬語で話しかけられ、呼び捨てされる時って“あの時”くらいしかないからつい動揺した。これではクチナシ義姉さんとかに変に勘繰られてしまう。


「アンバー、一つ問いたいのだが、良いか」

「クチナシ様。皆まで言わなくて結構ですよ。つまり……そういう事です」

「なるほど、そういう事か。はは、良き哉良き哉」


 おいコラそこの香り好きの変態従者め。主人を置いてなにをお客様と分かり合ってんだ。


「あの時の御令室様の香は……とても素晴らしいと思いませんか、クチナシ様」

「君はなにを言っている」

「つまりあの時の御令室様の声は……他には無い素晴らしい音だと妹は言いたいのですよ、クチナシ様」

「君もなにを言っているんだ」

『?』

「何故そこで二人そろって疑問顔になる……?」


 ……いや、分かり合ってないな、あれ。分かり合っても困るけど。


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