心の栄養を摂りに行く一日_5(:透明)
View.クリア
――良い恋力を補給出来た~♪
純情少年と無邪気な少女の恋。少年は恋を知ろうと大人の階段を自ら登り始めていて、愛を知っていても恋に無自覚な少女が恋を知ろうとしている。なんと甘酸っぱく甘美な恋力である事か。今までにない体験に、私はクロ君に「恋力の邪魔にならないように何処かで落ち着いて来て下さい」と冷たく言われる程に興奮した。そして今は恋力の堪能を邪魔されないように教会の屋根で一人ウキウキ気分でいる私である。
いやぁ、実に素晴らしい恋力であったね。少年少女があのように恋力を発揮する世界の平和さは実に素晴らしいね! ……まぁ片方は子と称する程若くは無いのだけど、そこはおいておくとしよう。彼女の方もクロ君の似たような感じで子供の感性のまま大人になった感じだし。
――それにどちらも、私の居た世界では考えられない子達だ。
少年は内に秘める吸血鬼と話し合いを済ませて過ごし。
少女は夢魔族の力を完全にコントロールした上で使わずに自己を保っている。
……どちらも、私が居た世界では考えすらつかなかった光景である。
多くの種族と共に戦った私ではあるが、吸血鬼も夢魔族も話し合いが通じない……特に吸血鬼は共存が不可能としか思えなかった存在だ。そんな存在の末裔がああやって恋をしている姿を見ると……過去の世界でも同じように分かり合えた存在が居たのではないかと思えてしまう。
――嬉しくはあるけど、複雑だなぁ……
恋という感情はあらゆる種族でも関係無く素晴らしいと言える事に喜びを見出すべきなのか。あるいは今まで私達人間達とは相容れない存在と否定してきた相手にも、恋があったのだと後悔すべきなのか。彼らの恋を見ると、複雑な感情が生まれるのである。
――気にしても仕様が無いんだけどさ。
……いや、分かっている。後悔した所で過去は変えられないし、私が戦った吸血鬼も夢魔族も己が欲望のために人を喰らう事しかしてこなかった連中だ。厄しか起こさなかった連中を気にして気持ちを沈めるなど馬鹿らしい。
彼らはあんな厄でしかない種族関係無く、今を生きる少年少女として恋をしているのだ。それで充分であるし、彼らの恋力を堪能し心の潤いとすべきではないか。
「……ほんと、こんなのが神様とか呆れる」
……けれど、数々の伝説を残す【清廉潔白たるクリア神様】とやらが、こんな昔の行動を思って気持ちを沈めるなど本当に呆れる。
……信仰してくれている皆には悪いけど、やっぱり私は神様なんて崇め奉られる器じゃ無いと思う――
――あー、やめやめ。
昔だって私は戦いの先駆者として信仰っぽい事はされていたし、こんな態度や思考をするとか全く良くないって。
私は好きなように生きた結果が、信仰の神様として崇められる結果になったとかどうでも良いんだって。そんな事を気にせず今を生きる存在として心を潤わせる恋力を堪能すれば良いんだよ。うん、そうしようイエイ!
――さて、そろそろ夕食時だし、クロ君の屋敷に戻って夕食を……って、今日は外で食べるんだった。
こんな時は美味しい物を食べて忘れようと思っていると、夕食はいらないと言っていたのを思い出した。それならば気持ちを切り替えようと狩りでもしようかなと思っていると……
「あれー、ヴァイオレット?」
「む? ああ、トウメイか」
ふと、平和な皆を見る事で気持ちを切り替えようと教会の屋根からシキを見下ろしていると、住んでいる屋敷の主の一人であるヴァイオレットを見つけた。丁度教会から出て来た所だったので姿を現した後屋根から浮きながら飛び降り、話しかけてみた。
「先程は夫と義姉様が迷惑をかけてすまなかったな。トウメイが止めてくれたお陰で助かったよ、ありがとう」
「はは、どういたしまして。けどヴァイオレットはあの後二人を怯えさせていたし、私が居なくてもどうにでもなったんじゃない?」
「流石に私にはあの二人に割って入る身体能力は持っていないよ。それに怯えていたというが、あれは後ろめたかったからああなっただけだよ」
後ろめたくても、相手が怖くなかったらあんな風にシュンとはならないんだろうけど……まぁそこは深く突っ込まなくて良いか。
「それで教会から出て来たけど、なにか用事……というかあの後も働いてたの?」
「領主としてあの戦いの後も働いていたのは確かだが、教会から出て来たのは祈っていたからだな」
「祈ってた? あれ、わざわざ祈るほど信心深かったっけ」
私の記憶では屋敷で祈りをする事はあっても、シアン達のようにそういう場まで来て熱心に祈るほどではなかったと思うのだけど。
「教会の近くに来て、時間があれば祈る程度には信心はある方だぞ、私は。これでも元公爵家の令嬢だからな」
「国教たるクリア教を信仰する者としての昔からの教えが活きている、という感じ?」
「そういう事だ」
「なるほどねー」
これがシアン達であれば昔からの教えを受けての信心深い在り方……と取れるだろうが、ヴァイオレットの場合は少し違うだろう。過去の国の重鎮たる公爵家の一員、王子の婚約者としての「こうあるべきだ」とバレンタイン家の教育を受けて来た慣習が抜けきれていない、という感じに思える。
「ところで、トウメイはなにをしているのだろうか。夕食は狩りで賄うと聞いているが……まさか教会にたかりに来たという訳でもあるまい?」
「いや、ちょっと新鮮な恋力を得て興奮したから冷ましていた感じ。狩りはこの後行く予定」
「ほう、新鮮な恋力」
「うん、新鮮な恋力」
「…………。あまり周囲に迷惑をかけない範囲でその力を得てくれよ?」
「約束はするけど保証はしかねる!」
「堂々と言うな!」
「だって恋力だよ恋力。あまりにも大きくて突発的な恋力を得てしまったら私は興奮のあまりこのマントすら弾けて全裸のまま宙を舞う感じになるかもだよ!」
「頼むからやめてくれ。せめて子供達の目に届かぬ所でやってくれ……」
「でもさ、ヴァイオレットだってクロ君とグレイ君が両側から抱きしめて来たら自分を抑えられる?」
「うむ?」
「しかも“大好き!”といって間近から笑顔を見せられたら幸せの過剰摂取になるでしょう? その場では取り繕っても幸せのあまり冷静を保てる自信は無いでしょう?」
「そうだな」
「つまり、そういう事だよ」
「なるほど、そういう事か」




