恋力_8(:純白)
View.ヴァイス
「ありがとうございます、クロさん。少し気持ちが楽になりました」
「そっか、それは良かった」
「…………」
「どうしました、クロさん。僕の顔をジッと見て?」
ストン、と引っかかっていたなにかの答えが見つけた様に気持ちが穏やかになった僕は、クロさんに感謝の言葉を言う。するとクロさんがなにやら不安そうな表情で僕を見ていた。なんというか、これから僕がする行動を不安視しているような気がする。
「いや、気持ちが楽になった途端、急に“ではマゼンタちゃんに告白して来ます!”と言いに行くのかなと思って」
「そんな突拍子もない事をするヒトなんて――いや、割りといそうですけど、しませんよ」
目の前に居るクロさんもヴァイオレットさん関連だと気持ちの切り替え一つで突拍子もない事をするし、血の繋がっているシュバルツお姉ちゃんだって、僕が甘い物苦手なのを知らずに甘い物を大量に用意して話し合いの場を設けようと変に暴走する時もある。
というかシキでは少し前の行動と今の行動が結びつかない事をするヒトが多いんだ。突拍子もない事になれたとはいえ、僕はする気は無いのでクロさんの不安は杞憂という物である。
「そうだそうだクロ君。うちの可愛い弟がそんなシキに染まって変態になってたまるものか」
「領主の前でよく言えますね」
「まぁ軽口で言える分にはマシに思っている感じだよ」
「まぁシュバルツさんもいつでもシキの領民になれますものね」
「私の前で良く言えるね」
「軽口ってやつですよ。ですがそもそもシキの領民も変態性の濃い奴は一割程度で、他はそんなに変態では無いんですがね」
「そんなに、なんだね」
「ええ、そんなに、です」
……確かにトウメイさんがシキにやって来ても、最初だけ驚いて後は「あらあら、腕白なお姉さんねぇ」で済ませる所があるのはある種の変態かもしれないね。というかシキの皆さんは害意以外には許容範囲が広すぎると思う。お陰で僕も馴染んでいるのでありがたくはあるけど。
「というかヴァイス。まさか気持ちが落ち着いてマゼンタ君を好きになった……という事なのだろうか」
シュバルツお姉ちゃんは僕を不安そうに見てきた。
マゼンタちゃんはお姉ちゃん的に好ましくはない相手だが、弟の恋は応援はしたいので「出来れば違うと言って欲しいけど、そこまで縛るのも姉としてどうだろうか」と葛藤しているように見える。……普段は清楚でクールなお姉ちゃんだけど、最近の僕に関わる時のお姉ちゃんは表情が結構隠しきれてないのでとても楽しい。
「マゼンタちゃんは好きだけど、あくまでも同じ教会の仲間としてだよ。恋愛感情に関しては、出来たら素敵だとは思うけど、僕にはまだ分からないよ」
「つまりなにをするにも今後次第で、可能性を自ら否定しない……という事か?」
「うん、そんな感じ」
「そうか……うん、それが良いだろう。ヴァイスがそう決めたのなら、姉として見守るとしよう。……そう、姉として!」
「シュバルツさん。あまりそこを強調するとシアンみたいに“姉を名乗る不審者”のように扱われますよ」
「その理屈だとシアン君は神父様の婚約者を名乗る不審者扱いなのかな」
「まぁ軽口で言われる程度ですがね」
ああ、確かにシアンお姉ちゃんはそんな風に言われてるなぁ。ここ数年シアンお姉ちゃんの恋模様を見てきたヒト達には特に言われるとシアンお姉ちゃんが珍しく愚痴を言っているのを聞いた。その後に「でも本当だから良いんだよ!」と持ち直すけどね。
けど、シアンお姉ちゃんは恋をしたけど気恥ずかしさとかからずっと告白できずにいたんだよね……もし僕が恋をしたとしたら、後悔しない範囲で早めに気持ちを伝えないとね。
「あ、ヴァイス先輩いた。さっきは急に走って去っていたから驚いたよ」
「あ、マゼンタちゃん。好きですよ」
「? うん、私も好きだよ」
という訳で早速出会ったマゼンタちゃんに気持ちを伝えておいた。
シュバルツお姉ちゃんとクロさんが「!?」という反応を示しているが、とりあえずマゼンタちゃんには返事として好きと言って貰えてよかった。
「え、なに急に。もしかして前の告白の身体の交じり合いが今からオッケーというサインなの? なら今すぐお風呂場にゴーするけど!」
「いえ、それは流石に夕食前なので止めておきましょう」
「あ、そうだね。折角やるなら長く楽しみたいしね」
「ところでマゼンタちゃん、キスってどんな感じか知ってます?」
「キス?」
「ちょっとしたキッカケがあり、キスに興味を持ったのですが、自らする訳にもいかないので経験者に聞いているのです」
「あははは、多分そのキッカケってクロ君とヴァイオレットちゃんでしょ」
「ですね」
「!?」
クロさんがなにやら「え!?」という反応を示したけれど、そこは気にせず話を勧めて行こう。
「うーん、知るなら実際にやってみるのが一番! という訳でやってみよう、ぜ!」
「ファーストキスは大事な思い出にしたいので、するならもっと雰囲気よくしたいです」
「なに言ってんの。私のファーストキスなんて初めての経験と同じで野外であっさりとやったもんだよ。思い出なんて後から大切になるってもんだから、気にせずやろう!」
「その大切な思い出のキスってどんなんでした? やっぱり甘かったりしました?」
「え? うーん、甘いというよりは痺れた、って感じかな。舌に感じる味よりは脳に来た感じ」
「ほほう、そうなんですね。では――」
「……ねぇ、クロ君」
「どうしました、シュバルツさん」
「私の可愛い弟が、女性を言葉で話を逸らしつつも知りたい情報を得ている姿を成長として見るべきなのかな」
「どうでしょうね。まぁそこも姉として間違った方に進みそうだったら正す方向で良いんじゃないですかね」
「過干渉はせずとも、見守るのをやめてはならない、という事かな?」
「あれは一種の恋力」
「そういう事だと思います。自分で判断するのを互いにやめないようにする感じですね」
「そうか――なんか今誰かの変な言葉が入らなかったかい?」
「気のせいでしょう。入ったとしてもたぶんちくわです」
「何故ちくわ……?」




