恋力_6(:純白)
View.ヴァイス
「だからね、シュバルツ姉さん。名前が出なかったのはお世話になっていないと思っていた訳じゃなくって、シキに来てからお世話になったヒト達だから出なかっただけだよ?」
「本当だね? 本当なんだねヴァイス?」
「ほ、本当だって。シュバルツ姉さんが居なければ僕はここに居る事も出来ないくらいお世話になってるんだから」
「それならば良いが……」
シュバルツお姉ちゃんが何故か陰から僕達を見ていたのに気付いた後、カーキーさんが「じゃあ後は姉弟水入らずでな! そして俺は愛を抱きに行くんだぜハッハー!」と気を使って下さり姉弟で話し合い……というか、先程の発言の説明をしていた。
事実僕はシュバルツお姉ちゃんが居なければ何処かで野垂れ死んでいたか、シュネーと分かり合えずに吸血鬼として生きて彷徨っていただろう。そんな姉に感謝をしていないなんて事は有り得ない。
「あと何故“姉さん”呼びなんだ。お姉ちゃんと呼んでくれお姉ちゃんと」
「……私は今一応はお勤め中なので」
「ああ、態度がもっと遠くなった!? 何故だヴァイスよ!」
「公私は分けるタイプの男児なのですよ、シュバルツさん」
「その呼び名はやめてくれヴァイスー!」
「わ、じょ、冗談だから抱き着くのやめてシュバルツお姉ちゃん!」
……しかし感謝はずっとしているが、感謝の言葉をキチンと言えるようになった事や、こんな風に気軽に喋れるようになったのはごく最近だ。
ちょっと前までは僕と違って清楚で綺麗な姉に嫌われているのだと思っていたけれど、今はただ不器用だけだったと知ってこうして気軽に喋れるようになった。こうする事が出来るようになったのもシキという環境のお陰であるので、そこもシキに感謝しないといけない。
「ところでシュバルツお姉ちゃん。行商人としての仕事はどうしたの。つい最近仕入れにシキを出たばかりだよね?」
「……ヴァイスに会うために超特急で終わらせてきただけだよ」
「嬉しいけど、弟離れはキチンとね?」
「……はい」
僕に会いに来るのは嬉しくはあるけれど、こう何度もシキを出てはすぐに戻るを繰り返していては姉の将来や商売の方が心配になる。
姉だって今年十八という妙齢の女性だ。結婚して所帯を持ってもおかしくはないし、弟としては心配になる。……僕が重荷とかになって無ければ良いけれど。
……と、そうだ。良い機会だしシュバルツお姉ちゃんにも恋やキスの話を聞いてみるとしよう。
「参考になれなくて申し訳ないが、生憎と私は恋もキスも未経験だよ。今後もする気は無い」
「え……」
と、聞いてみたのは良いのだが、シュバルツお姉ちゃんはそのように答えた。
まさかそれは僕が――
「言っておくが、ヴァイスが居る居ないは関係無いよ。私は私の意志で、今は他者との恋愛をする気は無いというだけだ」
シュバルツお姉ちゃんは僕の表情に気付いたのか、僕の頭を撫でながら優しく微笑みながらそう言ってくれた。
でも、何故恋愛をする気が無いのだろうか。
「色々理由はあるが、一番は私が自由に生きる私を好きと言うだけだよ。つまり私が私以上の美しさ……もとい、好きになれる相手が出来れば話は違うかもしれないけどね」
「つまりお姉ちゃんは……男運が無い?」
「ズバッと来たね。まぁ、そういう事になるかな」
男運がないというのは冗談ではあるが、自分が自分以上に好きになる相手が今は居ないから恋愛はしないし、した事もないし、する気も無い。
聞くヒトによっては自己愛の塊という感想を抱くかもしれないけれど、僕にとってはその言葉は何処か思う所がある。
「だがヴァイスが恋かぁ。そんな事を聞くとは、相手が居るということなんだろう? 一体誰だ。ほら、お姉ちゃんに教えてみなさい!」
「別に特定の相手が居るという訳では無いんだけど」
「でも気になる子くらいは居るだろう? エメラルド君とかロボ君とかフューシャ君とかだと誰が良いとかさ!」
「最初二人はただの友達だし、フューシャ様は流石に叶わぬ恋すぎるよ」
「好みの問題というだけなら別に問題無いだろう? さぁ、誰か言ってみるんだ! そうしたら好みの女の子を仕入れ先で見つけてくるぞ!」
「えぇ、そういう事ならシュバルツお姉ちゃんが好きだから、シュバルツお姉ちゃん以上の綺麗なヒトでお願い」
「なるほど、そんな存在はいないから、遠回しに私と結婚したいというアピールという事か……美しい子が生まれそうだな……!」
「本気?」
「本気じゃ無いから、ちょっと距離をとるのはやめなさい」
シュバルツお姉ちゃんはちょっと距離をとる僕に対し、逃がすまいというようにズズイと距離を詰めて来た。……こういうやりとりがいわゆる姉弟らしさなのかな、とも思いつつ、先程のシュバルツお姉ちゃんの質問の答えを改めて返そうと思う。
――好みの女性かぁ。
以前だと「そんな事を僕が考えるのはよくない」と卑下をしていたが、今だとそう言われて思い浮かぶのはやはり初恋のシアンお姉ちゃんだろうか。とはいっても、シアンお姉ちゃんの外見が好きだから好きになったという訳では無く、シアンお姉ちゃんという女性自体が好きになっただけだからなぁ、僕。もちろん外見も好きだが、今回のシュバルツお姉ちゃんの質問の答えとしてはなにか違う気がする。
あとはそうなると……
「言っておくけど、マゼンタ君だけはやめて欲しいな。付き合うとなると彼女はちょっと考える必要があるからね」
と、僕が悩んでいるとシュバルツお姉ちゃんはそう言ってきた。相変わらず仲があまりよろしくないようである。……まぁ僕の貞操を狙うのを姉として心配しているだけだとは思うけど。
「そりゃマゼンタちゃんはとても良い子だとは思うけど、マゼンタちゃんはちょっと別の問題が……」
確かにマゼンタちゃんには彼女の自棄な心を引き留めるためとは告白もした。ハッキリいって何度も性的に交わろうとしているのは僕の「何度でも告白してその度に気持ちの良い事をして貰います!(意訳)」というような告白が原因だ。とはいえ、嫌なら積極的に誘いはしないだろうし、悪くは思われてはいないんだとは思う。
けど彼女を相手……恋やキスの相手。付き合ったり結婚したりする相手として見るのは年齢という問題がある。
愛に年の差は関係無いとは思うし、今の彼女は僕と同年代まで若返ってはいるのだけど、彼女に恋をして付き合うには、経験という差が彼女と僕を対等という存在にしてくれない。……そこをどうにかしない限り、マゼンタちゃんと付き合うのは未熟な僕では――
「問題? なにか問題があるかな、ヴァイス君?」
「え?」
僕が問題について考えていると、第三者から声をかけられた。
この声はシキに来て一番最初に話しかけられたヒトで、シキで過ごすのに前向きになる事が出来た、僕を一人の少年として扱ってくれた尊敬する――
「ラブラブキスハンターさん!」
「え、な、なんの話!?」
もとい、クロさんであった。




