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恋力_2(:純白)


View.ヴァイス



 キス。

 昔に読んだ本では物語の佳境で(ロマンティックに)王子様とお姫様がする、男女間の恋愛における幸せの象徴としてあげられる印象深い行動だ。僕がマゼンタちゃんによくされそうになる行為でもある(あくまで合意が大切というので無理にはしない)。

 ホリゾンブルーさんとアップルグリーンさんがしているのを見た事はあるのだが、彼ら――クロさんとヴァイオレットさんがしているのを見るのは初めてだ。

 そのキスはかつてその存在を知った時に衝撃を受けた舌を入れる様な深いキスではなく、それこそ物語に出て来るような優しく触れ合うだけのキスであり。ヴァイオレットさんが背伸びをしてクロさんにする姿は、まさに“したいからする”というような、好きを証明するかのようなキスであった。


「……勝ったご褒美、という事でよろしいでしょうか?」

「どうだろうな。これ以上無理をさせないという約束の指切りかもしれないぞ」

「ですが無理をするとこれが貰えると勘違いしますよ?」

「ではこれからも試してみるのだろうか?」

「……無理をしないように出来るだけ頑張ります」

「出来るだけ、なんだな」

「ヴァイオレットさんやグレイのためならいくらでも無理はすると思うので、出来るだけです」

「……そうか。ではその時は……その時に無理以上のなにかをしないとな」

「なにかとは?」

「なにかはなにかだ。その時の気持ちによって変わる」

「では、その時にご褒美をあげたくなるような無理をするようにしますね」

「……そうか」


 クロさん達はそのような会話をすると、つい隠れてしまった僕が居る場所とは逆方向へと会話をしながら歩いて行った。恐らく残りの整備がどのような状況なのかをシアンお姉ちゃんあたりに聞きに行ったのだろう。


――ビックリした。


 なんかもう、色々とビックリした。

 隠れてやっていたというのは見られたくないけどどうしてもしたかった事で、それを偶然覗いてしまった罪悪感もあるが、秘密を見てしまったというえも言えぬ高揚感がある。そして見つかってしまうのではないかという緊張感と、見つからずに済んだ安心感が押し寄せて心臓がバクバクと激しく鼓動している。

 この感覚は下手をすれば癖になりそうで困る。昔孤児院に住んでいた他の皆がイタズラをして喜んでいたのはこういう感覚があったからなのではないかと理解してしまいそうになる。


――い、いけない。この感覚は良くない。


 確かに不可思議な感情は湧いてもう一度味わいたいとも思うが、この感覚は良くない感覚だ。忘れろ僕。忘れて道具を片付けてシアンお姉ちゃんかマゼンタちゃんに報告を……報告、を……


――キス、かぁ。


 僕はファーストキスもまだであり、僕の外見からして恋愛の幸福の象徴であるキスはする事は無いんだなと思っていた。あるとすれば以前マゼンタちゃんにしようとしたような強引なキスのような相手を考えないキスだけであり、物語に出て来るようなキスなど文字通り夢の世界のお話だと思っていた。

 けれどその夢で物語のようなキスは、先程まさに僕の目の前で繰り広げられていた。

 そんな夢が現実に繰り広げられた事により、キスという物を深く意識してしまう。


――恋力……


 それと同時に、先程聞いたばかり単語を思い出す。

 トウメイさんには申し訳ないが、ハッキリ言って「なにを言っているんだろうこの御方」と思わずにはいられない単語である。

 そんな単語と先程のキスの光景が合わさって今の僕は――


――キスって、どんな感じなんだろう。クロさんがご褒美って言う位には幸せな事なんだよね……? 僕もしてみた――い、いや、駄目だ僕。修道士見習いとしてそんな淫らな事は許されないぞ! でもマゼンタちゃんもよく求めて来るし、ちょっとくらいなら……おらぁ落ち着けや僕! いっそシュネーに身体を任せてこの気持ちが枯れるまで適当に暴れて貰おうかな!


 ……今の僕は、とにかく混乱していた。

 内なるシュネーが「いやワタシをそんな事に使うな」と苦情を言っているが、それに対しても応えられないほどには混乱している。

 落ち着け僕。落ち着くんだ僕。落ち着くためにまずは道具を片付けて、礼拝堂でお祈りを捧げる事で精神の統一をするとしよう。


「あははは、どうしたのかなヴァイス先輩。顔を赤くして変な身振りをして、熱でもあるのかな?」


 ……髪と同じ色でとても綺麗な唇をした、マゼンタちゃんが僕を不思議そうにのぞき込んで来た。いつものように、とても顔が近くて――


「ちょっと次元の狭間にかけていきます!」

「ヴァイス先輩!?」


 唐突に現れたマゼンタちゃんに対し、内なるシュネーの力を借りつつ全力でこの場を去っていった。流石にマゼンタちゃんも唐突な出来事であったためか、なにか分からず全力で駆けて行く僕をポカンと見送っていった。


「――ぜぇ、はぁ……!」


 心臓が色んな意味で鼓動が激しくなる。

 運動でも精神でもダブルで負荷がかかる心臓は、今までで一番激しく動いている。


――唇。……誰かを好きになると、そのヒトのために強くなれる。


 けれどそんな状況でも巡る思考は変わらず、むしろ他の事が考えられない程に思考が固定される。


――キスって、どんな感じかな。


 ……今まで何処かで意識しないようにと務めて来た思考が僕の頭を駆け巡っている。

 ……これから僕はどうすれば良いんだろうか。


「ハッハー、どうしたんだぜヴァイス少年! なにか愛でお悩みかなんだぜ!」


 …………。これから僕はどうすれば良いんだろうか。


備考 ヴァイスのキスへの認識

ホリゾンブルー達のキスを見た事があるのに【物語に出て来るような恋のような淡いキス】は今回のクロ達が初めてであると言っているのは、ホリゾンブルー達のキスは【大人でまったく淡くない愛のキス】と認識しているためです。あと公然としているので物語性は全く無いからです。


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