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恋力_1(:純白)


View.ヴァイス



 僕は現在、教会の前がまるでモンスターが暴れた後かのようにボロボロになった地面を補修している。

 抉れ、隆起し、波打ち、固い岩が散乱している。

 ……これらを実際にモンスターが暴れた訳では無く、身体強化をしていない素手同士の戦いの結果の惨状だというのだから驚きという他ないだろう。その戦いを間近で見ていた僕達ですら「凄くて……うん、凄かった」という語彙力が欠ける感想しか出て来ない程である。

 あと、教会の前で戦いはしたが教会に被害はなかった。ただこれは偶然に近い物であり、戦いの運びによっては教会の壁がドラゴン襲来のように崩壊していたと思う。それほどのまでにクロさん達は強者であり、教会の代わりに周囲の地面や木々が犠牲になった訳である。……犠牲になった木々や地面達よ、安らかに。


「なに、か?」

『……ごめんなさい』


 そしてこの惨状を引き起こしたお強いお二人は、現在妻あるいは義妹の前で地面に正座をしながらシュンとなっていた。

 ……先程はあんなにも戦闘を楽しみ「怖い物なんてなにもない!」というようなお二人だったのだが、今はまるで借りた猫のようなっているのは、クロさん達には悪いけどどんなに身体能力が強くても敵わない相手は居るんだなと面白く思えてしまう。


――でも、本当に凄いなぁ、あのお二人は。


 彼らは僕のように内に特殊な血が流れている訳でも無いただの人間である。多分。

 にも関わらず彼らはあまりにも強すぎると言わざるを得ない。一体どうやったらあのように強くなれるのかを聞きたいものである。そして願わくば僕もあんな風に……


「おや、君は彼らのように強くなりたいのかな」

「え、わっ、クリ――」

「トウメイだよ、熱心な信徒であるヴァイス君?」

「は、はい。トウメイ……さん」


 僕がマゼンタちゃんがある程度補修した地面を道具(クロさんが作ったトンボとかいう道具)で整えつつクロさん達を見ていると、急にクリア神様……もといトウメイさんが突然現れて話しかけて来た。

 ……姿を消せる御方なので急に現れるのも困るけれど、それよりも姿が困る御方でもある。なにせシアンさんやマゼンタちゃんの比では無いくらい目のやり場に困るからである。

 けれどこの御方は僕が拠り所としていたクリア神様であるので、不埒な目で見る訳にもいかないのでそれも困る。いや、仮に普通の女性が相手であっても不埒な目で見る訳にはいかないが……ともかく、彼女と話すのは誉であるが、それ以上に未だにどうすれば良いか分からない御方でもある。

 そしてそんな御方が僕と同じ方向(クロさん達)を見ながら尋ねて来たのだ。恐れ多いし困る事が多いとは言え、心を強く持ちつつキチンと対応しなければいけない。頑張れ、僕。あの清純たるシュバルツ姉さんのように己を誇り高く持つんだ。美しく神々しい女性の裸に負けるな僕! あと美味しそうな血だなとか思うな僕!


「え、えっと……はい。正直言うならば憧れますね」


 彼らのようになるのは難しいとは分かっている。

 彼らはこの国……世界でもトップクラスの身体能力と、身体を使う脳が備わっているからこそあのような強さを誇っている。

 対して僕は長時間の直射日光は浴びる事は出来ないし、魔法の補助が無ければ数分ですら日のある外にいると倒れるレベルには身体が弱い。強いどころか貧弱な肉体なのである。

 シュネーの力を使えば戦える程度にどうにか出来るだろうが……“ヴァイス”自身が身体的に強くなるのは難しい話である。


「例え憧れへの道がどんなに困難であり、彼らの強さは私にとって合わない強さであろうとも、憧れに向けて精進を重ねていきたいと思います」


 けれど憧れを持つのは自由だ。目標を持ち、自分に合った形で彼らのように強さを目指すのは間違いだとは思いたくない。……今まで足元ばかり見てきたのだから、これからは憧れを持って前を向いて歩いて行きたいのである。


「ふふ、それは良い心構えだね」

「ありがとうございます」


 僕の意志を汲み取ってくれたのか、トウメイさんは慈愛の表情を浮かべつつ僕を褒めてくれた。

 ……うーん、やっぱり神々しくて恐れ多いなぁ。いくら神話よりは服を着ているとはいえ、裸マントという状況にも関わらず神々しく感じるのはやはりクリア神様なんだなと思わざるを得ない。何故だか普段から祈っている信者にしかこの神々しさは伝わらないらしいけど……


「じゃあ私がアドバイスをあげよう」

「え、神託ですか?」

「そんな大層なものでなく、強くなるための個人的なアドバイスってやつ。私の知っている限り強い人は皆これを持っているってやつがあるの」

「そ、そのようなものが!? 一体それは……!?」

「そう、それは――恋力!」


 ……まぁ普段が普段だからあまり神々しさを感じないのかもしれないね。なにせ今のトウメイさんは僕でも一切神々しさは感じず、どちらかと言うとシアンお姉ちゃんが神父様について暴走している時と同じ感じがする。


「……コイヂカラと言うと、普段からトウメイさんが仰っているやつですか」

「そう! 誰かに恋をすると、その人のために頑張りたいという気持ちが湧く! そしてその気持ちが強さへとつながるんだよ! まさに恋力!」


 ……恋力というと変な感じはするけど、言いたい事は分かる。誰かのために頑張るというのは、自分だけでは得られない力を手に入れる事が出来るだろう。それが良いか悪いかは別問題だが、強くなる道として誰かに恋をすると言うのは説得力は…………うん、まぁ、あるね。


「という訳で恋をしなさい若人。そして私に恋力を捧げるのです」

「はぁ、努力いたします」

「おいおい、テンションが低いよヴァイス君。その年齢なら恋の一つや二つあるんじゃない?」

「有りましたけど、初日に失恋しましたので」

「……なんかゴメンね」

「いえ、こちらこそ」


 クリア神様に気を使わせるという、ある意味ではクリア教の皆様に袋叩きされそうな事をされる。……実は「そういう貴女は強いですけど、貴女は恋とかしているんです?」と言い返そうとしたけど、流石に不敬すぎるのでやめておいた。


「ともかく、頑張りなさいな若人。好きっていう感情はいくつあっても良いし、視野は広く持ちなさいよ」

「はい、ありがとうございます」


 トウメイさんはそう言うと、手を振りつつ「バイバイ」と言ってふわふわと浮いて何処かへ消えて行った。……僕に話しかけるためだけに姿を現したのだろうか?


――でも恋。……恋かぁ。


 僕の初恋はシアンお姉ちゃんだ。我ながら単純な性格ではあるが、距離感が近くて優しくされて好きになった。けれどシアンお姉ちゃんは最初から神父様の事が好きで僕は恋愛対象ですらない事に気付き、すぐに失恋をした。


――いくつあっても良い、か。


 ……そして我ながら気の多いとは思うのだが、今の僕には別の気になるヒトは居る。

 向こうも好いてくれているような気配はあるのだが、それが恋なのか性欲なのかはよく分からないし、僕も自分の身体を使って彼女の気を引こうとした事もある。

 けれどこれがシアンお姉ちゃんに抱いたような恋かどうかは……分からないな。


――……今はその事よりも、後片付けを再開しようっと。


 あの感情は恋なのか、あるいは性的に襲われるという恐怖なのか、あるいは思春期によくあると聞く異性への性欲が抑えきれなくなっているだけなのかは考えないようにしよう。……もし答えを見つけて三番目の性欲だったら色々困るしね。


――そもそも恋ってなにをもって恋って言うのかな。


 恋。愛。ラブ。ライク。


――……その違いは、子供の僕にはよく分からないなぁ。


 そんな風に答えが見つからない問いを自問しながら、今の僕は片付けの再会を――あれ?


――クロさんにヴァイオレットさん……?


 僕は地面をならし終わって道具を片付けようと教会の裏手に回ろうとすると、皆からは見えない教会の影にクロさんとヴァイオレットさんの影が見えた。説教らしきものが終わったのは知っていたけれど、一体あの場所でなにをしているのだろう。

 そんな事に興味を持ちつつ、話しかけるべきか悩んでいると――


「――あ」


 二人が、キスをしているのを見た。


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