影の薄い少女の受難_4(:明茶)
View.フォーン
「……貰っちゃった」
結局エメラルドに押し切られ、毒のようなお薬を貰ってしまいました。
貰った以上は捨てる訳にもいきませんし、かといって使う訳にもいきませんし……どうしましょう。
「という訳で、どっちか要らないかな、クロさんにヴァイオレット君」
「ええと……要らないですよね、ヴァイオレットさん?」
「不要だな」
と、いう訳で旅の一座が建てた、簡易テントの前にて約束通り集合したクロさんとヴァイオレット君に必要かどうか聞いてみましたが不要だと断られました。まぁそうですよね。この夫婦はラブラブですし、このような物に頼らずとも良いですよね。
「ところで何故夫婦で来たのかな?」
そんなラブラブ夫婦ですが、二人は何故か一緒にこの旅の一座の簡易テント(本来は宿泊用テントらしいですが、クロさんが空き屋敷を提供したので今回は倉庫や控室、夜のサービスように使うようです)に来たので、私は疑問だった事を聞いてみました。
テントの前で、薬を受け取ってしまったり、マゼンタ様達を捕まえられないまま時間が近付いたりしてなにも出来ずにいて落ち込んでいる私を声をかけて来たのですが、そもそも何故夫婦で来たのでしょう。約束をしたのはヴァイオレット君だけだったのですが……
「……まさかクロさんを被験者として技術を……」
ヴァイオレット君は夜のサービスをなにかを勘違いしているようですし、もしかしてクロさんを誘ったのでは? という疑問が湧いたので聞いてみますが……
「いや、クロ殿は友に誘われてきたようだ」
……どっちの意味で誘われて来たのかによって、クロさんに対しどういう態度を取れば良いか悩みますね。
「それとな、フォーン。……この一座のサービスについてだが」
と、私がクロさんに対し「妻にバレないように息抜きしようとしたら妻に勘違いされたまま捕まったという生き地獄の真っただ中」ならばどうすれば良いかと思っていますと、ヴァイオレット君は言い辛そうにしながら自身の勘違いについて説明をしました。
どうやら色々あって勘違いは正されたらしく、今は早めに来て他の皆さんに自身の勘違いと今回の約束は無かった事にする事を説明する予定のようです。
「そうなると、やっぱりクチナシ様を連れてきた方が良かったね……ごめんね」
「いや、フォーンが謝る事ではない。……なんで私はあんな事を言ったのだろうなぁ……」
「ふふふ、私なんて何故かここで働く事になってるよ……」
「こちらは“妻公認の夫の不貞を目の前で”という事になっているぞ……」
「そちらの方も大変だね……」
「互いに大変だな……」
「おーい、大変なのは分かりますが戻って来て下さーい」
おっといけない。確かにクロさんの言う通りで今はしっかりしないと駄目ですね。
ここは三人で協力して勘違いの被害を受けた皆さんに対する説明をし、誤解を解いて行かねばなりませんから、そのための話し合いをした方が建設的ですからね。
では早速……と、その前に気になる事が。
「クロさんは……ええと、友人とのお付き合いを頑張ってね?」
「言っておきますが、俺はサービスを受ける訳じゃ無いですからね!?」
あれ、違うのですね。てっきりヴァイオレット君が「友との付き合いならば仕様が無い。だが、浮かれすぎないようにな」的な感じでクロさんと一緒に来たと思ったのですが、違うようです。
「俺もよく分からないまま誘われているんですよ。来たのは良いですが、生憎とサービスを受ける予定は有りません」
「そうなんだね。まぁそういう事にしておいて、とりあえずこれからどうしようか」
「なんだか気になる言い回しですが、とりあえずは――」
と、これからどうするかを話し合おうとした所で。
「あ、フォーンお姉ちゃんだー!」
「!?」
という、声変わりもまだまだ先のような、可愛らしくも格好良い声が私達の会話を遮りました。
……どうしましょう。まだ心の準備もなにもしてませんし、先程貰った薬の件もあってなんか思考が良からぬ方向に行っている最中の私です。こんな私が今彼に会ったらどうするべきかがさっぱり分からなく――
「あ、クロお兄ちゃんにヴァイオレットお姉ちゃんもやっほー。クロお兄ちゃんは約束通り来てくれたんだね!」
「え、約、束……?」
「ええと……先程約束した相手というのが、ここに居るブラウンと、後ろの怪我好き医者なんです」
「誰が怪我好きだ。俺は興奮はするが、怪我は好きじゃない」
「やかましい」
約束を、ブラウン君と。
……ここに来る約束を、彼らがした。
「…………なるほど、もしかしなくてもこれはシキの領主が私を店員として働かせるために仕組んだ巧妙な罠……!」
「そんな噂もこの状況も全て俺が仕組んだみたいにしないでください」
「だがクロ殿。この状況は疑われても仕様が無いと思うぞ」
「俺にそんな計画力あると思います?」
「クロ殿は行き当たりばったりが多いが、割とやりそうだぞ」
「どういう意味です!?」
クロさんはなんと言いますか、普段の雰囲気でなにかをしようとすると大抵思うようにいかなかったりする感じですが、仕事状態だと割としそうな雰囲気があるんですよね。結構用意周到でイヤらしい部分がありますし。
と、それはともかくブラウン君と会話をしなくては。会話をして、彼が何処まで勘違いをしているのかを正さないと――
「どうしたの、フォーンお姉ちゃん。つらそうだけど、どこか悪い所でもあるのかな」
ああああああ、可愛いです格好良いです。
子供故の近い距離間でこちらを覗き込むようにする仕草がとても良いです。それに彼は私の眼を間近で見ても何故か能力が強制発動しませんから、どんなに近くても問題が有りません。
――ようするに私は間近で見返す経験があまり無いのです!
つまり今の私は、異性の顔を間近で見る経験が無いために異性に近付かれてドギマギして会話をしようとしていた事を全て吹っ飛んだ恋愛経験雑魚なモテない女状態なのです!
……自分で考えていてなんだか悲しくなってきました。ですが事実そうなのでなにも言えないのが悲しいです。くぅ。
「だ、大丈夫だよブラウン君。だからね、うん。ちょっと離れて貰えるかな」
「えぇ、でも心配だなぁ……」
「大丈夫。大丈夫だから。この薬でも飲めばすぐに元気になるさ」
『えっ』
そう、確か私は薬を持っていたはずだ。確か効果は身も心も素直になるとか元気になるとかそんな感じだったはず。だからこれを飲めば今のドギマギも大丈夫になるだろうし、ブラウン君も安心してくれるはずです。
なんだか薬を取りだした瞬間にクロさん達がなにか奇妙な反応を示した気がしますが、気のせいでしょう。一気にグイッと行きますよ!
「よし、これで大丈夫!」
「本当に大丈夫、フォーンお姉ちゃん?」
「ええ、大丈夫だよ、大好きなブラウン君」
「うん?」
……あれ、今変な事言いませんでしたか、私?




