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影の薄い少女の受難_3(:明茶)


View.フォーン



 私、フォーン・フォーサイスは種族や能力こそエロチックな方向に傾倒はしていますが、“そういった類の男女の実体験”はありません。むしろ傾倒しているが故に避けていました。……何度か夢でそういった事を見せた事はあるので実体験は無いけれど知識は豊富にある、というような変わった経験値を有していますが、それは置いておきまして。


「フォーンお姉ちゃん、元気だと良いなー。ううん、むしろ元気が無いなら指名をして癒してあげればいいんだ!」

「そうだな、お前の身体は立派だからな。その身体を活かして癒してやるんだぞ」

「うん!」


 今現在、私は好きな男の子に夜のサービスで私を指名すると意気込んでいる会話を耳にする、という状況に陥っています。正直意味が……意味が分かりません……!


――え、指名されるの。されちゃうんです!?


 おおおおお落ち着くんです私。

 恐らくブラウン君はマゼンタ様のように私が旅の一座の夜のサービスで働くという噂を聞いているのでしょう。それは勘違いなので否定すれば良いんです。

 そもそもブラウン君は見た目は立派な大人でも幼き少年です。夜のサービス自体を理解しているかも怪しいですし、仮に理解していたとしてもサービスを受けさせるのは良くないでしょう。それに隣に居る御方は、口も態度も悪いですけど付き合いも面倒見も良いアイボリー君です。彼が夜のサービスをブラウン君が受けさせる事を進めるはずが有りません。


――そうです。つまりまたなにか勘違いなのでしょう。


 先程のヴァイオレット君達のような、なにかが互いの認識が間違っている勘違いの類です。だから私は彼らの前に出て、勘違いを正せば良いんです!


――指名かぁ。……してくれるんだぁ……


 ……貴族でありながら娼館で働こうとする令嬢。そこに現れる、初めてのお客が令嬢の好きな相手。

 実に物語でありそうなシチュエーションですし、彼が私を指名するという事は間違いなく私を好いてくれているという事で――


――この思考はいけません!


 いけない、こんな所で喜んではいけません私。流石にそれを受け入れて喜ぶには倒錯しているような気がしますし、そもそも相手は十も年下の未成年です! そんな所で喜んで据え膳に成ろうとしているような女でどうしますか!


「しかしなぁ、フォルティシモ。ブラウンが成人の頃はお前は二十五だ。今の内から手を出して責任取らせておかないと、逃げられる可能性もあるぞ?」

「ナチュラルに現れて思考を読まないでくれるかな、エメラルド君。あと私の名前はフォーンだよ」


 私が意気込んでいると、なにやら薬草が入った籠を背負うエメラルド君が私の肩に手を置いてなにか良からぬ事を促してきました。というより、私は影が薄いし目も髪で隠れているのに、こんなにあっさりと読まれるとはエメラルド君も実は鋭かったりするのでしょうか。


「いや、普通に声に出していたぞ。だから私もお前を見つけられたんだからな」

「……どのあたりからか分かるかな?」

「“よっしゃこのまま娼館で互いに初めてを捨ててやる!”という辺りからか」

「絶対に言ってないよね、それ」

「要約すればそんな感じだろう。そして年齢が駄目だと自分に言い聞かせた。違うか?」

「…………一応否定しておくね」

「そうか」


 直接的な言い方をすればその通りかもしれないですけど、それを認めるのは抵抗があります。

 あと声に出ていたんですね。気を付けなければ……


「で、どうする。今ある薬草を使えば【燃やす事で部屋中に興奮する効果をもたらす煙を出す薬】を調合できるが、必要か?」

「それ薬じゃ無くて毒じゃないかな?」

「当然毒だが?」


 何故彼女は「そんな当たり前の事をわざわざ言うんだ?」と言うような表情をするのだろうか。


「安心しろ、毒だが肉体に影響はない」

「精神に影響があるから困るんだけど……」

「で、要るのか?」

「…………。い、要らない……!」

「悩んだな」


 将来的にあっても困る物じゃ無いと思いましたけど、落ち着け私。それに手を出すのはまだ早いです。


「というか、急にそのような事を悩むなどどうしたんだ。どこぞの私を好いている物好き女のように、年下が好きすぎて抑えられなくなったか」


 どこぞの物好き……ああ、スカーレット殿下の事ですね。殿下の事をそのように言えるのはエメラルド君だけでしょうね。……そういえばスカーレット殿下も十歳近く離れた年下のエメラルドを好いているんですよね。……実はお仲間だったりするのでしょうか。……いえ、なにか違いますね。


「そうじゃなくって、ちょっとした行き違いのようなモノがあったんだ。ブラウン君には勘違いを正そうとしていた所なんだよ」

「? ブラウンは何処に居るんだ?」

「え。……私が考えている内に何処かにいったようだね……」


 私が考えている内に何処かへ行ったのか、エメラルド君と話している内に何処かへ行ったのかは分かりませんが……ともかく、正すタイミングを失ったようです。彼らが向かっていた方向は分かりますが、目的までは分かりませんし……その前にエメラルド君に簡単に説明だけをしておきますか。


「――という訳なんだよ」

「なるほどな。要は混乱していた、という事なんだなフォクスは」

「フォーン・フォックスね。名前と家名が混ざっているよ。それでエメラルド的にはどう思う?」

「ブラウンの性知識は教会で学びはしたが、グレイとそう変わらん程度には無知だ。恐らく夜のサービスを正しく理解していないんだろうな」

「やっぱりそうなるかぁ」


 どうやらエメラルド君も同意見のようです。そうなるとやはりキチンと否定しておいた方が良いですね。約束の時間までにブラウン君を見つける事が出来れば良いのですが……


「まぁ気にせず噂通りにサービスをやり、ブラウンに指名されて無知を既知にしてアイツを男にしてやれ!」

「してやれ、じゃないよエメラルド君! それは色々マズいからね! 私が未成年淫行で捕まるから!」

「別に良いだろう。互いに好き同士なら成人までの八年など誤差だ誤差」

「ブラウン君が今まで生きて来た年数を誤差で片付けるのは流石に良くないと思うよ。というか君は私をどうしたいんだい」


 無理に私達をくっつけようとしていますが、面白半分でこんな事をする少女だったでしょうか、彼女は。なんといいますかもっと他者には素っ気無い感じだったように思うのですが……


「いや、もう駆け引きなどせずに未成年淫行をして家を勘当されでもした方が、お前は心置きなくブラウンと付き合えるのではないかと思っただけだ」


 ああ、はい。これは素っ気無いから「さっさとくっ付け」と思っている感じですね。エメラルド君らしいです。


「ま、どうするかはお前次第だが、一つの選択肢としては入れておいた方が良いぞ」

「いや、それは流石に良くないと……」

「心の声が出てしまうほど悩む奴に言われてもポーズのようにしか見えんぞ」

「うぐ」

「……ま、これはサービスだ。とっておけ」

「え、なんだいこれ?」


 エメラルド君は呆れたようにしつつ、懐から紙に包まれたなにかを取りだすと渡してきます。私はそれを素直に受け取ると、エメラルド君は言いました。


「飲むと身も心も素直になって興奮する薬だ。お前かブラウンかどっちかが飲むと良い」

「私になにをさせたいのかな、君は!?」


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