影の薄い少女の受難_2(:明茶)
View.フォーン
「なんですもなにも、私が聞いたのはそんな感じだよ? ついにフォーンちゃんが己の真価を発揮し、男の子たちを手玉にとってに行こうと決心し、その手始めとしての目標を立てたのかと思ったんだけど……」
「マゼンタ様、その場合私はなにになるのです?」
「クチナシちゃんの場合は、エスな女王様として伝説を作ろうとしているのかと」
「なるほど。ですが私は基本手加減できないので、そういったプレイは出来ないのですよ」
「あ、そっか。プレイじゃなく生死をかけたバトルになるんだね」
「そういう事ですね」
そういう事、ではないです。私が聞きたいのは何故私達が旅の一座の夜のサービスで店員として働く事になっているのか、です。
生憎と私はそういった予定は今の所ないですし、目の力に関しても封じられるのなら喜んで封じるほどに厄介で要らない代物です。そんな私が何故てっぺんを取る的な話になるのです。
「うーん、多分だけど……」
……とはいえ、マゼンタ様も聞いた話という感じで言っていましたから、聞いた所で答えが返って来るとは――
「クチナシちゃんが罪を償おうとしているという姿勢が“この体で”という感じに己が身を持ってやろうとしている事と、フォーンちゃんが旅の一座の話を聞いて、フォーンちゃんはその旅の一座が“夜のサービス”をしているのを聞いている。そこでフォーンちゃんは“性衝動を抑える方法をプロから聞きたい”と思った。だから“夜のサービスの方に話を聞きに行く”。という噂が混じって、“二人が身体で夜のサービスに参加する”的な話になった感じかな」
想像以上に答えが返ってきました。私が聞きたい内容などの差異はあれど、納得できる回答です。まるでシアンさんのような鋭さ……というより、マゼンタ様はこういう御方でしたね。恐らく彼女は分からない事が分からないような女性ですから……というより。
「その感じだと、私達は下手に今夜旅の一座に近付かない方が良いかもしれませんね……」
マゼンタ様の予想が正しいのならこちらから干渉をしない方が良いでしょう。どうせ私達は明日にはシキを去りますし、そうすれば噂もあっさりと霧散するでしょう。私のやる事は明日の朝にでもやれば良い話です。
「だが良いのか? フォーン嬢は一緒に体験をするのだろう。フォーンの身体を使って、技術を学ぶという……」
「え、なにそれ。すっごく興味がある」
「いや、それはなにかの勘違いだと思いま――」
「私達には旅の一座の技術をフォーン嬢の身体を学んだ義妹達と、義弟で実践をするという約束があるのです。ちなみに私は過去の経験を義弟の身体を使って披露する段取りです」
「え、ズルい。私だってクロ君を誘っても良い返事貰えていないのに! 混ざって良い!?」
「混ざりたいんですか!?」
あ、いえ、そこではなく。いえそこも驚きですが、否定すべきはもっと別の所にあるはずでして、もっと根本的な話を否定しなければなりません。
「良いですよ。ですがそれだと女が過多ですね。男をもう一人くらい何処からか用意したいですね」
男性を物みたいに……じゃなくって、なにを普通に許可しているんですこの御方は。
「こうしちゃいられない。じゃあ私はヴァイス君を連れて来るからね! ヒュゥ、ヴァイス君も皆で幸福だゼ!」
「幸福だぜ、じゃないですよ! ああ、ちょっとマゼンタ様ー!?」
私の制止虚しく、マゼンタ様は物凄いスピードで去っていきました。……私の身体能力では、あのマゼンタ様は止められません。……ごめんなさいヴァイス君。
「というよりクチナシ様、なにをマゼンタ様を誘っているのですか!?」
「うん? ヴァイオレット達も折角なら多くの反応を技術を学びたいだろう? 一つの反応だけを見てそれを全ての答えとせず、経験者の話は多いほどいいだろうし、なにより私自身がマゼンタ様の技術に興味があるからな」
……確かにマゼンタ様はなんか凄そうですが――って、違います。興味は無いです。ええ。……本当です。
「よし、では私は一旦身体を清めて来る。ではなフォーン嬢。貴公も身綺麗にした方が良いぞ!」
「あ、ちょっとクチナシ様!?」
私の制止虚しく、クチナシ様は物凄いスピードで去っていきました。……私の身体能力では、あのクチナシ様は止められません。というか彼女の力に勝てるヒトなんてシキではクロさんくらいじゃないでしょうか。
首輪を使って無理に止めても良いのですが……はい、止めてもなにか別の問題が起きる気がしますし……とりあえず……
「……どうしようかなぁ……」
ポツンと取り残された私は、これからどうするべきかと独りで呟くのでした。
「―――――」
「―――だよね?」
と、私が独りでポツンとしていると、とある会話声が聞こえてきました。この男性の声でありながら何処となくあどけなさが残る、男の子とも言える素晴らしい声は――
「しかしブラウン、良いのかお前は?」
「いいってなにがかな、アイボリーお兄ちゃん?」
やはりと言うべきでしょうか。会話の主は、ブラウン君(とアイボリー君)でした。
ああ、癒されます。なんだか変な事ばかり起きていましたが、彼の声を聞き、姿を見ただけでも癒されます。
ここは彼に呼びかけて、このよく分からない状況の癒しとして君臨して貰いましょうか(なおこれは現実逃避とも言います)。
そう思った私は彼を呼びかけようとして。
「お前、あのフォーンを夜のサービスで指名するというのは、良いんだな?」
「うん、とっても楽しみ!」
その言葉に、身体が止まってしまったのでした。
――なにが……起こっているのです……!?




