リクエスト話:スカイルートif_出会い
※この話は活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。
※本編との主な差異は「・ヴァイオレットとクロが成人以降に出会ってない」です。
リクエスト内容「スカイルートif_出会い」
現在のシキに、第四王子、バーガンティー殿下と、第三王女、フューシャ殿下が訪れていた。
なんでもランドルフ家は学園入学前に「最小の護衛か単独でなにか依頼をこなすかB級以上のモンスターを討伐をする」事が習わしらしく、その滞在場所としてシキが選ばれたらしい。
選ばれた、と言ってもあくまでも殿下ではなく【冒険者のバーガンティーとフューシャ】という体で来ているので、屋敷でもてなす訳でも無ければこちらからなにかしないといけない訳でも無い。精々領主として挨拶をしないといけない程度ではある。……とはいえ、そうもいかないというのは互いに分かっているので、領主である俺としては何事もなく彼らの依頼が終わる事を願う位である。
――しかし、あの二人ってあんな感じなんだなぁ。
バーガンティー・ランドルフとフューシャ・ランドルフ。どちらもあの乙女ゲームでは設定のみで出ていたキャラクターだ。……ああいや、バーガンティー殿下の方は出て来ていたんだっけかな?
フューシャ殿下の方は「攻略対象であるヴァーミリオン殿下に妹が居てその名前がフューシャである」程度ではあるが、バーガンティー殿下の方は素直過ぎる性格から周囲が彼を利用するために王にしようと画策し、ヴァーミリオン殿下を王位継承から外すために周囲の者達が【暗殺者シュバルツ】と呼ばれる露出の少ない麗しき暗殺者を雇い主人公達に差し向ける、という展開があったはずだ。あくまでもルートの一つだが……ともかく、そういった陰謀に巻き込まれる際に出て来る名前としてはフューシャ殿下よりはよくあがっていた名前ではある。
また、それとは別にバーガンティー殿下は別の所でも名前が出て来る。
――スカイ・シニストラ、か。
それは彼らの護衛……ではなく、今回一緒に来ている冒険者仲間のスカイさんが関係している。
彼は攻略対象の内の一人であり、以前もシキに来たシャトルーズ・カルヴィンの幼馴染キャラであり、バーガンティー殿下の護衛でもあるのである。
あの乙女ゲームでは没落寸前の子爵家、シニストラ家の長女として登場し、主人公にとっては悪役令嬢……というよりはライバル令嬢として登場する。初めこそ真面目な性格から奔放な主人公とは相容れない部分もあるが、徐々に仲良くなり、良きライバル関係となったり選択肢によっては彼女と【異国の地にて商売をする】なんてルートもあるような少女である。選択肢によっては彼女とも相容れずに彼女が死んでしまったり、主人公を庇って死ぬ事もあるのだが……まぁ、悪役令嬢のあの子と比べると幾分か扱いの良いキャラクターである。
――なんか、イメージ通りの性格だったな。
彼女の事をハッキリと思い出したのは、彼女の姿を見た時である。
「うわー、あの立ち絵が見事に現実に居る!」などと言う、シャトルーズの時にも思った事を思いつつ、「彼女がまだ護衛で居るって事は、ルートとしては良い感じに進んでいるんだなぁ」なんて思いもした。
そんな彼女は凛とした立ち居振る舞いで、所作が洗練されておりまさに【女騎士】というイメージそのものであった(決して「くっ、殺せ!」とは言わないタイプ)。いわゆる可愛いというよりは美人タイプの女性である。
あの乙女ゲームでもそんな説明描写があったなーとか何処か他人事のように思いつつ、俺は遠巻きながら彼女の「殿下の近衛騎士になる」という夢が叶う事を願っていた。
「クロ男爵。私と婚姻を結びませんか」
「……はい?」
そして願おうと思っていた矢先、俺はスカイさんに求婚されていた。
「あの、どういう意味でしょうか、スカイ卿?」
正直意味が分からない。
バーガンティー殿下達の依頼に対し、案内役として神父様をつけようと思っていたら神父様が急用が入り代役を誰にしようと思っていた夜に来客があり、出迎えるとスカイさんで、客間に通すとこの求婚である。
……本当に意味が分からない。だから俺はそんな間の抜けた聞き方をしてしまう。
「コホン、失礼しました。事を急いてしまいましたね。……まず、クロ男爵は未婚の男性です」
「まぁ、はい」
いつの間にか変態変質者なんて不名誉なあだ名がつくような貴族に嫁ぎたがる、あるいは貰いたがる女性なんてまずいないしな。そもそも相手に迷惑をかけるから、結婚願望自体俺は無いし……
「そして私も未婚の女です」
「はい」
「ならば問題は有りません。クロ男爵、私は貴方が好きなので、貴方と婚姻をしたいのです」
「ちょっとお待ちを」
イカン、どういう事だ。
生憎と俺の顔は悪くは無いと思うが、良いと自信を持つほどに良くも無い。
そしてスカイさんはシャトルーズというイケメンの幼馴染であり、同じくイケメンであるヴァーミリオン殿下やアッシュとも交流があるような少女。しかも爽やかイケメンなバーガンティー殿下の近衛騎士に近いポジションに既にいるような少女だ。
そんな彼女が出会ったばかりの俺を好く? これが会ってしばらく経っての事であったら中身を好いてくれたとかならまだ分かるのだが……うん、考えられんな。
イケメンに囲まれたせいで俺のような丁度良い感じの外見が好くようになったとかなら可能性はあるが……だとしても俺のような噂を持つ男と、会ったその日に求婚するなんておかしいが過ぎる。まず美人局かなにかを疑う所である。
――いや、ある意味合っているのか?
……スカイ・シニストラの実家は没落寸前の貴族という設定だ。
シャトルーズルートに入ると何故か他のルートでは大丈夫なはずのシニストラ家が没落の危機に陥ったりするような子爵家であったはずだ。ようするに、俺とは違った理由で「嫁として欲しくない」と言われるような立場の少女なのである。
――なんでもいいから、つながりが欲しいのか。
俺はアレではあるが、ハートフィールド家自体はそれなりの地位に居る。
なにせ俺の父は“取り入る”と言う点に関しては物凄い才覚を持つ男であり、俺がこうして辺境に追いやられても弟のカラスバや妹のクリを子爵家と婚姻を結ぶ事に成功させるような男なのである。
そんな一族の、他に婚姻話が出来ないであろう男である俺。……彼女からしてみたら、藁をもすがる気持ちで望むような「都合の良い男」という事か。
まぁ俺としては別にそれでも構わないのだが、彼女の場合は……
「クロ男爵、実は私は貴方と――」
「シニストラ卿、申し訳ございませんが私はその婚姻を受ける事は出来ません」
「――え……」
「ご心配なさらずとも、私のような男に媚を売らずとも、貴女には良い話がいずれあるはずですから」
別に俺に頼らずとも、彼女がこの時点でバーガンティー殿下の護衛をやれているのなら、シニストラ家が没落する事は無いはずだ。
正確には彼女自身が功績をたてて没落を回避し、卒業後は立派に護衛騎士としてやっていく、というような未来があるはず。
その際には俺に媚を売る必要などない。なにせ彼女は美人であるし、今は実家の影響があるから寄り付かないと言うだけで本来なら引く手数多の女性なのだから。
「いいえ、私は貴方が良いんです! 貴方以上の良い話なんてありません!」
と、イカン。断り方が良くなかったか。
彼女からしたらまだ没落を回避しきれていない状態なので意地でも繋がりを求めたい、という状態であろうし、他に希望があると言っても信じられる話ではない。
もう少しゆっくり話を――
「本気にして頂けないのなら――この身体を以って証明いたします」
「へ?」
え、スカイさんは今なにを……?
「わ、私だって女の身一つで独身男性のほとんど一人暮らしの屋敷に行く覚悟はあるのです。――貴方を好きで無ければ、このような事をわざわざしません!」
いや、確かにそれを言われるとそうかもだし、なんで護衛任務のはずなのに屋敷に来たのかとは思ったけど――わ、わぁー!? 脱ぎ始めようとしている!?
「し、シニストラ卿、落ち着かれてください! ここでそのような事をすれば、事実は無くとも貴族の間で様々な噂が――」
「構わないです、噂でなく事実にすれば問題無いですから!」
「問題しかないですよシニストラ卿!」
「スカイって呼んでくださいよクロお――クロさん!」
クロオクロさんってなんだ。
そんな疑問を余所に、スカイさんはドンドンと迫り始める。俺はそんな彼女が――
「わ、私を……貰ってくれませんか、クロ、さん……!」
恥ずかしそうにしつつ、自分の身体を使って俺を誘惑しようとする彼女の姿、が……
「スカイ・シニストラ卿」
今の彼女の姿に、俺はある姿を見た。
「本当に……やめてください」
……前世の大嫌いな、母を思い出したのである。
リクエスト話ですが、一話で収まらなかったので分けます。




