夜の相談? 女性陣_1(:菫)
View.ヴァイオレット
シアンとレモンさんに用があると連れ出され、領主としての用を終わらせるとレモンさんに、
「今日大道芸を披露する度の一座が来るのですが、私達も今夜見に行きましょう、絶対に楽しいと思うのです!!」
と、可愛らしい満面の笑みで誘われた。
普段はどちらかと言うと冷静な表情を保ち、酔っ払いに囲まれても「忍法!」と言って表情を変えずに即座に相手を鎮圧させるような女性だ。しかしこういった子供が喜びそうなものや、人形やフリルのついた絵本に出て来るようなお姫様のドレスといった女の子の好みそうな物といった、自分の好きな物に対する彼女はとても可愛らしい。私より十は年上の女性なのだが、どうしても微笑ましく思えてしまう可愛らしさがレモンさんにはある。
「楽しそうだね、レモちゃん」
「そりゃもちろんですよシアンちゃん! なにせ楽しみでここ数日は寝付きにくかったんだから!」
「ふふ、それは良かった」
ある意味ではグレイに似ているだろうか? 幼少期にそういった子供らしいものに触れて来なかった分、好きな物を好きと言える今になって純粋に楽しむ事が出来ている、という感じである。
「まぁ四日くらいは寝なくても大丈夫なのですが、寝不足はパフォーマンスを低下させますし、自分で自分の意識を無理やり締めて堕として眠らせましたが」
「危ない危ない、絶対にやっちゃダメな事だからそれ!」
……まぁ彼女の場合は、幼少期からグレイとは違う意味での過酷な環境に居たらしいので、グレイとは似て非なるものかもしれない。
「だけど、来るのが今日だから芸を披露するのって早くても明日じゃ無いの? そこん所聞いてる、イオちゃん?」
「いや、営業の許可を出しているのは今日からではあるが、いつからとは聞いてはいないな。それに正式に許可を出すのも実際に会ってからではある。とはいえ、彼らなら問題無いとは思うが」
「あれ、イオちゃん知ってる感じ?」
「昔に一度だけだな」
「へぇ、意外。なんかバレンタイン家ってそういうのあまり見せない感じだと思ってたけど」
「否定はしない。だが、兄様に連れられて見に行ったよ。楽しかったのを覚えている」
確か百聞は一見に如かずというライラック兄様が「低俗ならば低俗と、直に見て判断すべきである。聞いただけで低俗と判断するなどと言うのはそれこそ低俗な輩だ」と、父と母を(無理矢理)説き伏せて私とソルフェリノ兄様を連れて行ったはずだ。……懐かしい。
私はよく分からない世界に怖くもあったが、楽しかったのを覚えている。……その後父と母の見下した発言に私も影響を受け、「アレは良くないものであった」と自分に言い聞かせてそれ以降は見下して一度も行った事は無かったが。
ともかく、その時の旅の一座が今日来る一座と同じ名前であったはずだ。あの時から時は流れているが、私達が見た時と変わらず芸の評判が良く、国民から支持を受けていると聞いている。
だが結局は聞いているだけで現状を私は見ていない。相手が信用できるかどうかは、実際に見て判断するしかないのだが。
「しかし、シアンの言う通り許可を出したとしても芸をするのは早くとも明日からではないか? それとも酒場で客寄せになにかをする感じだろうか」
「ああ、お酒の席の宴会芸、みたいな感じ?」
酒場で簡易的に芸を披露し本番のための宣伝をする、というのは充分にあり得る話ではある。その事を酒場の主でもあるレモンさんは知っており、一緒に行こうと言っているのだろうか?
「フフフ、少し違うのです。実はある情報を得たのですが……なんとその旅の一座は、着いたその日の夜から希望者に特別な景色を見せるというのです」
「特別な景色?」
「はい、彼女達の今までの経験を活かした、極上のひと時を提供するサービスの芸があるのだと言うのです!」
「彼女達……という事は、相手は女性か」
「みたいですね。一応男性も要るそうなんですが、基本は女性がそのサービス芸が出来るとか言う話です」
「……ねぇ、イオちゃんこれって……」
「……ふむ」
旅の一座の女性達が、夜に、サービスという名の極上のひと時を提供する。
つまりそれは……
「マッサージだな」
「マッサージだね」
「そうなんです?」
恐らくそうだろう。マッサージにて身体を癒して極上の睡眠を促すのであろう。
大道芸を披露する以上は身体は鍛えられているだろうから力はある。
そして様々な場所を周っている以上は知識も豊富だろう。
サービスをするのが主に女性なのは、サービスを受けるのが女性の場合、異性に身体を触れさせないようにする気遣いであろう。当然男性もサービスをするが、問題が起きた時用に男性は控えに回っている、という所か。
恐らくそんな所だろう。あまり表立っていないのは、あくまでも大道芸が主でありそちらがメインになっては困るといった理由だろう。
「むぅ、なにか凄い芸をして夢のような夜を過ごす、という感じではなさそうですね。VIP専用の貸し切り芸みたいな感じかと思ったんですが……」
「まぁあくまでも可能性だけどね」
「そうだな。だが、もしもそのようなサービスがあるのなら確認だけはとっておくか。変なトラブルが起きても困るからな」
「そうだね。あ、でも事実だったら皆でサービスを受けるか、技術を聞きに行かない?」
「技術?」
「うん、そして学んでそれぞれの愛しの相手に披露する、というのはどう?」
む、それは良いかもしれない。
クロ殿は身体的疲れをあまり見せないが、疲労が溜まらない訳では無い。精神的疲れはよく溜めているし、私がマッサージをする事で癒されるというのなら……うむ、学んでみるのも良いかもしれないな。
「良い考えだな。情報が確かであったら私達で聞きに行ってみるか」
「そうですね。私もある程度技術は学んでいますが、どちらかと言うと壊す技術が主です。癒す技術を学んで、レインボーを癒すのです! そして浮気をしそうになったら癒しから壊しへの脅しへ……ふふ」
なにやらレモンさんの不敵な笑みが気になるが、私達の行動方針は決まった。
旅の一座がシキに到着次第、確認をした後こっそりと彼女らに聞くとしよう。
「夜のサービスで私達のお相手出来るか、と聞くとするか」
「そうだね!」
「楽しみですね!」




