夜の相談? 男性陣_1
学園の課外学習で起きた問題。
義理の兄であるライラックさんの所業。
封印されていた存在の開放。
何処となくそれらはあの乙女ゲームと関係するものであった気もするが、直接は関与していないとも言える内容であった。
しかし起きた事はどうしよもないし、フォーンさんがくれたクリームヒルトとメアリーさんの手紙で俺が注意すべき事を書いてくれたので、それを注意する以外に今の俺達に出来る事は無かった。
フォーンさん達は明日シキを出て学園に戻ると言うので、それまでにクリームヒルト達に手紙を書いて渡さなくちゃと思いつつ、俺達は今日の仕事をこなす事にした。
ヴァイオレットさんは心配だが昼間の間はなにやら用があるというシアンとレモンさんに任せる事にし、それでも不安定なようであったら俺が夜に話を聞こうという形になった。
「よし、クロ、神父様、アイボリー、カーキー。お前ら、重要で内密な話がある」
「なんでしょうか、レインボーさん」
そんな中、友人達にショクで学園生に起きた事を詳細は伏せつつ教会の前で説明をしていると、宿屋兼酒場兼ギルドの主人であるレインボーさんが俺達に深刻な面持ちで話しかけてきた。
普段は気前が良くて、酒場で客と一緒に飲んでは妻であるレモンさんに怒られつつも豪快に笑ったり、ややスケベなのでそこをレモンさんに咎められ拘束を受けても、数分後には復活して明るく振舞う彼がこのように話しかけて来るとは珍しい事もあるものだ。
「もしやなにかトラブルでも?」
「あるいは良くない情報でも聞いたのか。俺でよければ協力するぞ」
「怪我か。怪我なのか!」
「ハッハー、俺に出来る事ならなんでもやるぜ。勿論抱きしめて一晩過ごす事もな!」
先程レモンさんがヴァイオレットさんを連れて行ったこともあるので、なにかしらマズい情報でもあったのかと俺達は真剣になる。
なにせ宿屋も酒場もギルドもあらゆる情報を仕入れられる情報の社交場だ。そこでなにかマズい情報を得て俺達に協力を願いに来たのかもしれない。なにやら一部変な事を言っていたヤツも居たが、俺達は覚悟を決めて続く言葉を待った。
「実はな。……今日旅の一座がシキに来るだろう?」
「ああ、確か大道芸をやる一団……だっけか、クロ」
「そうだな、それなりに有名らしいけど」
レインボーさんの言うのは今日の午後くらいに到着予定の旅をしながら行く先々で大道芸……サーカスのような事をする一団の事である。一週間ほど前に隣の街の領主から滞在と商売の許可を仲介する手紙が来て、レインボーさん達に話を通した後に許可を返した。すると再び手紙で今日の午後くらいに来ると言う話になっていたはずだ。
今は昼前だから、多分そろそろ来る頃だと――あ、その事をフォーンさん達に伝えるの忘れていたな。間に合うかは分からないが、後で伝えておくとしよう。
「それで、その一座がなにか? ……まさかなにか良く無い噂が?」
伝えるのも重要だが、今はレインボーさんの話だ。
一応手紙では特に怪しい情報は無く、滞在中も問題は無かった旨などが書かれてはいたが……なにせ団体が団体だ。
子供を攫うような団体であったり、なにか違法な物を運ぶ隠れ蓑として使っていたり、機密情報を収集する情報機関である可能性は大いにある。一応その点に関しては注意しておくようにこの場に居る皆を始めとした友人達には伝えてはあるが……もしやなにか情報を仕入れたのだろうか。
「良くないかと言われれば悩みどころだ。クロや神父様、俺にとっては良くもあり悪くもある話なんだ」
「話が見えんな。クロやスノーにとってそれならば、俺やカーキーはどうなんだ」
「お前達にとっては間違いなく良い話だ。……だが、俺はお前達全員にとって良い話として話に来たんだ」
? よく分からないな。
話し方からして俺が心配した怪しげな団体……という訳ではなさそうだが。
「実はだな、その旅の一座は……」
よく分からないが、判断は話を聞いてみないと分からない。そう思いつつレインボーさんの神妙な表情を見つつ言葉を待ち。
「……芸をする女の子たちが、夜にお相手もしてくれるそうなんだ」
『よし、解散!』
俺達は解散する事にした。
「ま、待て! 話も聞かずに解散はねぇだろ心の友達よ!」
「ハッハー、そうだぜ、話は最後まで聞いてやろうぜお前達!」
しかし解散する前にレインボーさんとカーキーに呼び止められた。
仕方が無いので俺達は止まり、レインボーさんの方を向き会話を再開する。
「あのな、俺は愛する妻が居るし、アンタも居るだろうが」
「俺は婚姻前であるし、クリア教の神父を誘うなよレインボー」
「女の裸に興味ない」
「ハッハー、つまり男が良いって事かアイボリー!」
「違う」
「お前らそれでも健全な二十代男か! もっとがっつけよ!」
「レインボーは嫁さんをもっと大事にしろよ」
ちなみにだがレインボーさんは俺の今世で言うと二倍近く生きている。そんな彼もレモンさんという若くて綺麗な四肢が絡繰りの忍者嫁さんが居るし、何度も似たような事をしてはレモンさんに縛られていると言うのに何故懲りないんだろう。
「大事にはしても欲への憧れは止められないんだよ」
やかましい。
……けどこんな感じでもなんだかんだ夫婦仲は良いんだよな。ある意味これも夫婦の愛の形だったりするのだろうか。
「ほ、ほら、クロ坊も領主として調査が必要だろう?」
「いや、まぁ確かにその情報が確かなら調査は居るだろうけど……」
あくまでもシキの風紀を乱さないかの調査であって、実際に体験するとかではない。
「レインボーさん、俺は止めはしませんが、変な情報を言わないでくださいね?」
「わ、分かってる!」
……それに“そういった事”をするなら、やはり情報機関として疑った方が良いかもしれないな。“そういった事”をして情報を取るなんて、前世や今世問わずに昔からよくある事だしな。
……うん、ヴァイオレットさんに報告だけして変な事をしないように調査だけしておこう。
「というか、クロは領主として止めれば良いんじゃないか? 風紀を乱さぬよう、そういった事はしないように、って」
「風紀を乱さないのは大前提だけど、それが食い扶持なら全てを禁止にはしないさ。犯罪行為でない限り俺は許可は出すよ」
「そうか。……まぁお前はそういうヤツだからな」
レインボーさんやカーキーみたいな男性も要る訳だし、変に否定もしない。ただ累を及ぼすというのならこちらも自衛に出る、というだけだからな。
「と言うかカーキーはそういった事は受け入れるんだな。こう、“愛は金では買えないぜ、だから俺はそういった事はしないぜはっはー”と言うと思ったが」
「愛は金で買えるぜ。なにせ高位貴族や富豪など富に引き寄せられるのも一つの愛。俺はその買える愛を否定する気は無いんだぜ!」
「お、おお。そうか」
……コイツ、偶に格好良いようなそうでもないような事を言うんだよな。馬鹿だけど自分を持っているから、俺の苦手なはずの性の奔放さなのにコイツの事は嫌いになれないんだよな。
「ともかく、俺達は生憎とその誘いには乗れないよ」
「レインボーさんもレモンさんを泣かせないようにな?」
「夫婦喧嘩で傷が出来たら俺の所に来い。お前らの夫婦喧嘩の怪我は他と違って治し甲斐があるからな!」
と、そんな事を言いつつ今度こそこの場を去ろうとしたが。
「そうか……レモンやお前達の妻も女の子に夜の相手をして貰おうとしているという話もあったんだがな……」
その言葉で俺達は再び話を聞く事になった。




