馬鹿共(:白)
View.メアリー
「まったく、先程のアッシュではないが、お前ら馬鹿をしやがって……! 少しは面倒を見る俺の立場にもなれ……!」
当事者である私達ですら、自身が出した魔法による自傷もあり得る魔法と兵器がひしめく戦闘空間の中。彼はなんの補助も無く現れた。
私もライラックも少なからず身体強化の魔法などで身体が強化されているし、トラップを仕掛けて触れた瞬間に発動する魔法や、時間差で発動する魔法などで一歩の踏み込みが致命へとつながる中。彼はただ自分の足で駆けて残骸を踏んで飛び、高速で動き回る私達を殴るという、ただそれだけをしたのだ。
「は、ははは! 良いぞヴァーミリオン・ランドルフ! まさかここでお前も来るとはな! 疑似ではない最高の王族魔法を使う勇気に溢れた少年よ!」
「相変わらず勇気だ愛だとうるさいな」
ただ問題は今も様々な魔法の猛威がこの場を支配しており、魔法の補助が無ければすぐにでも怪我どころか戦線離脱――死にすら至るような戦場だ。そこに彼が普通に出来る範囲でここに居るという事が有り得ない。もし私が彼の立場なら、私は自分の使える力を全て使って介入したであろう。
「良いぞ、お前もこの戦いに参加をすると言うのだな!」
「そうなるな」
だが彼は一切の魔法を使う事無くこの場に居る。
これではまるで――いや、それよりも!
「な、ヴァ、ヴァーミリオン君! エクルさんを見ていてくれと言ったじゃないか――ですか!」
私は彼にエクルさんを見て欲しいと言ったはずだ。治療を常に施さねば今にも■■■してしまいそうな彼/彼女を放り出すなど、なにを考えている!
それなのに何故、彼が此処に。
「エクルはあの馬鹿先祖に任せているし、生憎とそのエクルの望みだ。頼むから二人を止めてくれとな」
「え……」
「その件は、まぁ後にしよう。それにお前は今馬鹿な事をしようとしたからな。俺はそれを止めねばならんかったからな」
馬鹿な事、というのは先程の王族魔法の模倣だろう。
確かに馬鹿な事かもしれないが、それを言うのなら今の彼だってかなり馬鹿な状況だ。なにせ今も攻防は続いているのだから。
私は彼を避けるように攻撃はしているが、ライラックはそうせずにまとめて攻撃をしている。そんな中魔法も使わない彼を守ろうと意識を割けば互いにまとめてやられてしまう。
「ヴァーミリオン君、今すぐ離脱をするか、魔法を使って彼に攻撃を!」
だが、ここで二人で攻める事が出来れば、チャンスはある。
……今の私を見られたくはないし、エクルさんの言葉は気になるがすぐにでも二人で攻撃を仕掛ければ行ける。私と違って純正の王族魔法を使える彼なら、あるいは……!
「どちらもお断りだ」
しかし彼は迷いなく、私に背を向けて提案を拒絶をした。
「生憎と俺はこの戦いで魔法を使う気は無い」
「なに……?」
続く発言に疑問の声をあげたのは、私ではなくライラック。
先程まで王族魔法を使い戦いを挑んでくると思っていた中、その発言は不可思議かつ奇妙であっただろう。
「なにを言っているのか分かっているんですか! 変な事を言わずに早く――」
「分かっているし、俺は大真面目だ」
事実私も疑問しかない。なにを持ってその選択肢を選んでいるのかが皆目見当がつかない。
だってこれではまるで――
「お前は言ったな、ライラック。メアリーの愛と勇気を感じ取りたかった。ならば俺が見せても構わんな?」
「もちろんだとも、ヴァーミリオン・ランドルフ。だが魔法を使わないというのはどういう意味だ」
「どういう意味もなにも、そのままの意味だ」
「素手での戦闘を選べば、俺が素手で殴り合うと思っているという事だろうか。同じ立場になって殴り合うとでも?」
「なにを言っている。それではお前やメアリーの勇気も愛も上回れない」
「ほう?」
「お前に愛と勇気を見せるには、お前達が絶対やれない事をやらなくてはならない――なら」
これではまるで彼が――
「やってやるよ馬鹿共。ヴァーミリオン・ランドルフ第三王子の生身の特攻を舐めるなよ!!」
――彼が、大馬鹿野郎みたいではないか。
◆
ヴァーミリオン君の才覚は現殿下達の中でもトップクラスだ。
魔法・勉学・戦闘・交渉・身体能力。それぞれの分野での最高値は他の兄弟に劣る事もあるが、大きくは離されない。しかし総合で言えば彼は兄弟で最も優れていると言っても過言ではない。
私とて現在は彼より上の成績を収める事が出来ているが、いつ私が追い付けない程の高みに行ってもおかしくは無い才覚だ。
「ああ、そうだともライラック・バレンタイン! お前の言う通り負があるからこそ正が輝くのは否定せんさ! そしてお前は負の存在を容認しても、負を認めようとしない輩を嫌悪する!」
「そうとも! 安全という安寧に沈んだ輩は、安全圏から正のみ全てだと断じ、負を認めようともしない。自分が負の世界に行かない、守られているからと言って負の立場を理解しようとせずにただ批判をする! ――その醜さが俺は容認できんのだ!」
「だからと言って世界を混沌に沈めようという馬鹿が何処に居ると言うんだ!」
「此処に居るとも!」
だとしても、これはどういう事だろう。
ライラック・バレンタインは私の時と一切変わらず、武器の形成も身体能力向上による戦闘技術も惜しみなく使い。ヴァーミリオン君は魔法を使わずに戦いを繰り広げている。
「お前達が様々な経験を得て愛と勇気を得た様に、俺は試練を科す存在となりたい。俺を超えて輝きとなって欲しいんだよ!」
「本当に馬鹿だなお前は!」
「自覚はあるさ、昔からな! 馬鹿でなければバレンタイン公爵家で成長など出来るものか!」
本来なら彼の命は一瞬で塵芥として消えるだろう。私はそれを危惧し、彼を守ろうと魔法を使った。
しかし彼はそれを「余計な事だ」と宣言し、事実わざわざ私の守りを掴んだ上で放棄した。私はそれを見て血の気が引いたのだが、次の瞬間に見たのは彼がライラックの元に辿り着き攻撃を仕掛けている姿であった。
「だがな、ライラック、お前は致命的な間違いをしているんだよ!」
「ほう、それは是非ご教授願いたいものだ!」
そして繰り広げられるヴァーミリオン君とライラックの戦い。
どの行動一つをとっても奇跡としか言いようがない彼らの戦いは、私を置き去りにしていた。私では彼らに付いて行けない。
「愛も勇気も、わざわざこのような場所に連れて行かなくては見る事は出来ないと――自身が乗り越えられる存在にならなければ間近で見れないと思っているお前は間違っている」
「――ほう、ならば答えろヴァーミリオン・ランドルフ。お前の見せる愛と勇気はなんだ」
「俺もメアリーもお前が愛したいと言ったアイツらも――」
いや、正確には付いて行けるだろう。だが、今の私はこの戦いに参加出来ないのだ。
一つにこんな馬鹿みたいな戦いに混じれるほど私は馬鹿になれない事。
「誰か好きな相手を想えば自然と湧いてくるような、口にするのも恥ずかしい小っ恥ずかしい物なんだ。ようするに――わざわざヒトのプライベートを見ようとすんな、この繊細さに欠ける馬鹿野郎が!」
「だが、言葉にしなければ通じない様に、わざわざやらなければ見れない物もあるだろう?」
「ええい面倒くさい。だったらな、自分の力で好きな相手に、愛と勇気でも見せてみろ! 俺が――」
そしてもう一つは。
「俺が今、メアリーへの愛と勇気だけでお前に立ち向かっているようにな!」
「はは、良いぞヴァーミリオン・ランドルフ! 実に良い!!」
……もう一つの理由は、今の彼の姿をただ眺めたかったのです。




