悪党(:白偽)
View.メアリー
気分がとても悪い。
前世の経験から大抵の痛みには耐えられる私だが、今の私の気分は前世も含めて最悪だと言えるレベルであった。
痛みは無い、病気という訳でも無い。叫んで気道が裂ける事も、動いて肉が軋む事も無い。いたって健康であり文句無しの状態のはずなのに、私は過去最悪に体調が優れなかった。
「俺がお前を知ったのは約三年前。実際に見たのは二年半前だ。噂に聞いた“評判の悪い善なる者”をこの目で確かめようと、俺はお前の出身地に訪れた」
別に今殺そうとしている相手が強いから体調に優れない訳では無い。
ライラックは間違いなく戦闘強者。私が戦闘強者と言われてまず思い浮かぶクロさんともクリームヒルトのような巧者とも言える強さ違っていて、師匠のような面倒な強さに似ている強さだ。
「実際に見た俺は確かにこれは評判が悪くなるものだと理解したよ。ただ行うだけの善と救いなど、こうも不気味に映るものだとな」
剣、槍、楯、矢、手甲、この世界には無い形式での爆弾、この世界とは違う形式での大砲、地上で使う魚雷・機雷・爆雷、私が居た世界でも未来の物であるような火砲。■■■である■■■■・■■■■。
「何故この女はこのようになったのか。その時は分からなかったが、一月ほど前、理由の一つを見る事が出来た。夢魔法の影響だろうな」
とにかく武器の創成、形成、破壊。先程見たクチナシさんが殺戮技巧であるとすれば、こちらは殺戮兵器の乱れ打ち。前世では魔法が無い代わりに発展した科学による、人の成長や技術を一瞬で無にするような、英雄の時代を終わらせた兵器の乱れ打ちだ。今もなお油断すればこの男を殺すどころか私が殺されるような武器を造り続けて、殺そうとして来る。
「だが見ても信じられなかったよ。このような人間が居ても良いのか、とな」
これだけならまだ問題無いのだが、ライラック自身も魔法に頼らずとも純粋な身体能力が凄まじいのも戦闘強者と言える要因の一つとなっている。
だが、彼の一番強い所はそこではない。
「お前は病魔に蝕まれていた。常人であれば千分の一の痛みであろうと耐えられない痛みを常に抱えていた。それを耐えきり成人を迎えていたのも信じられんが、なにより信じられなかったのはお前の精神性だ」
彼の最も優れている力は精神力だろう
一つの武器を作るだけでも疲弊するような、精神が磨り減るため使用者がほとんど居ない【創造魔法】を連続使用してもなおコンディションを維持し続ける精神力。私達を閉じ込めた空間を維持しながら、さらに魔法を繰り出すこの異常なまでの精神力が、彼を強者たらしめている。
「お前は病魔に巣食われてもなお、世界を恨まなかった」
こちらが攻撃を喰らわせても前に進むのを辞めない。殴っても怯まない。魔法を当ててもまるで効いていないようにふるまう。
今はやや少なくなっているが、戦いの中笑顔を絶やさずに戦いをし、武器を作り続ける精神性は強者であり異常者だ。
「あったのはただ生きたいという想いと、世界を楽しもうとする当たり前の感情と、誰かのために生きたかったという無力感だ。……一切の恨みを抱かず生きるこのような人間が居る事に俺は心の底から敬意を示したよ。奇跡という言葉は、彼女のためにあるのだと思ったものだ。――そんなお前の愛と勇気を俺は感じ取りたかった」
と、この男は戦闘強者だ。それはよくはないが、まだ良い。
「しかし、そうか。今のお前を見る限り、お前はただ……」
一刻も早くこの空間を脱出しないといけない以上は強い相手というのは厄介ではあるが、そこはあまりこの体調の不備に関係はしていない。
この体調の不備の理由は――
「ただ、負の感情を理解出来るほど、心の成長が出来なかっただけなんだな」
……ああ、そうか。
私は誰かを憎むという行為が、こんなにも苦手なんだ。
「それがどうした」
だが、それがどうした。
「ほう?」
「私はしたい事をしているだけ。貴方は勝手に期待して、勝手に失望しているだけ。――それだけだ」
私の不調なんてどうでも良い。私が苦しんでエクルさんを救えるならいくらでも不調になってやる。
この空間が世界に広がるとか、世界の皆さんが危機に陥るとか、そんなものはどうでも良いんだ。今の私は単に、私的理由でこの手を汚そうとしている。
「それだけの事に一々敬意だの奇蹟だの、愛だの勇気だの、世界だと諦めないだと夢だと――一々面倒な言葉で形容しようとするな! 私達は――」
私達は単に、
「相手が邪魔だから殴るだけの、ただの馬鹿なだけだろうが!」
自分の目的のために邪魔を排除しようとする、ただの悪党なだけだ。
「――ああ、それも良いな。存分に殴り合うとするか、メアリー・スー!!」
……そう、私はもう。
この男と同じただの悪党なんだ。




