邪悪な○○○○○○(:白)
View.メアリー
「友のために、恋をために、愛を守るために、愛を超えたが故に。強大な相手に対しても恐怖を超えて挑み、成長する。実に良い景色だとは思えないか」
二つの戦いを見た/見せられた私達に対し、ライラックさんは展開していた画面を全て砂嵐のようにすると、何処か恍惚じみた笑顔を浮かべながら語りかけて来ました。
笑顔ではあるのですが、彼から放たれる雰囲気は凄まじく、意識をキチンと保たねばすぐに気圧されてしまうような凄まじいモノです。
そして仮に私達が彼の威圧に負けた場合は私達に興味をなくすでしょう。そして無くした後はただ単純作業を行うような仕草で私達を楽しまずに殺してしまう。そういった印象も見受けられます。
その在り方は正に――
――魔王。
安直な名づけではありますが、そのように称するがしっくりくるような存在感です。
恋愛系の異世界ファンタジー物に出て来る魔王や、女性物で溺愛される系に出て来る魔王とは違う、王道RPGに出て来るような世界を苦しめ悪として君臨し、勇者に滅されるタイプの魔王。
「お前はこれで良いというのか、ライラック公爵子息。愛したいという者達を、お前の妻と共に苦しめるこの行為そのものが」
「良いと断言出来るとも。まさに人々が成長する様を見る事が出来たのだ。これを良い、素晴しいと言わずしてなんと言う」
「負があったからこそ、正が輝いた、と」
「然り。これは戦いを以って成長した輝かしい姿だ。
数多の苦境、苦難がお前達の意志を美しく練磨した。
困難と言える試練に立ち向かい、前に進もうと必死に足掻く意志がお前達を強くした。
これは安寧と安定の中では決して磨かれる事の無い物だ。
安全をただ享受して居る者が腐らさせていく物。
モンスターが居ない日常において不要と切り捨てられる愛と勇気。
ああ、実に素晴らしき姿だ――この輝きを俺は永遠に見ていたい」
……彼とは相容れる事は無く、そして相容れた場合にも殺してくるタイプの魔王です。
「故に地獄に誘おうとした、という事か」
「然り。お前達に困難を味わってもらい、成長する姿を見るためにな」
「あっははー。これが地獄とか本気で言ってる? 地獄を名乗るんだったらもっと灼熱と極寒と暗闇を用意しなさいよ」
「無論お前が居た本物の地獄とは比べるべくもない物であろうよ、原種よ。アレを味合うにはこの者達にはいささか早すぎる」
「……へぇ」
リリス、と呼ばれた夢魔族のお姉さんは、ライラックさんの発言に警戒心を示します。初めはどうやらこの夢魔法の時と同じような雰囲気が漂う、ただ閉じ込めるだけの場所……つまり、実際に試練を課すのは人間に過ぎない“閉じ込めて場所を提供するだけの空間”を地獄と呼ぶのに呆れていたようですが、ライラックさんのまるで地獄を直接見たかのような発言を、馬鹿にするのではなく警戒するべきだと判断したのでしょう。
「それに環境の過酷さを科しても意味は無い。確かに人間は困難な自然の前では立ち向かうかもしれんが、最終的には適応をするか、適応するべき場所を探しに去るという結論になりやすい。俺がしたいのはあくまでも敵に相対し、乗り越えた時の輝きだ。俺はその輝きを放つ人々を見たいのだよ」
「なるほど、ライラック。お前は性悪説を信じたいのだな」
ヴァーミリオン君はライラック公爵子息、という呼び方から呼び捨てに替え、先程の友人達の苦しむ姿を見てから変わらず抱いている敵意を隠さずに立ち向かいつつ言います。
「試練を科さねば、叩かなければ人々は奮起しない。ああ、確かにそういう部分もあるだろう」
ライラックさんの言いたいことは私も理解できる部分は有ります。
例えば私が使う高威力の魔法。このようなものは前世で使えた所で、モンスターも居ない前世では不要な物であり、使える人は脅威でしかないでしょう。
しかしこの世界ではモンスターという脅威があるから魔法も容認されています。強いモンスターに対応するために強くなる事も素晴らしいとされています。
……それに私だって、人々を助けたいと思い生きて来ましたが、それは助けるための不幸を望んでいる、という面もあるのですから。
「だがお前の望む人々が居る世界は戦火に覆われた戦いしかない世界だ。そのような世界、俺は容認する訳にはいかない」
「王子として、か」
「個人として、だ」
ですがそれが全ては無いという事も事実です。私はライラックさんの望みをかなえる訳にはいきませんし、立ち向かいましょう。例えそれが彼の望む強大な相手に立ち向かう姿だとしても。
「そうだろうとも。お前達は俺と相容れる事は無い」
「俺達の答えを分かっていたような口ぶりだな」
「無論、そうだとも。迷う事も誤る事も構わない。
それもまた成長の過程だ。折れた後に立ち上がる姿も俺は愛しているからな。
だが己を信じられず、他者の意志に押されて従うのは興覚めだ。
他者の言葉に従うのは楽だからな。そのような者達は俺が最も嫌う輩だよ」
……この発言からしてやはり、相容れた所で私達を殺しに来たでしょうね。
「ではお前はこれからも永遠に孤独だな。それともお前の妻のように、己が意志で賛同しついて来る者達を仲間に引き入れて戦うとでも? ――まぁ、俺達がこの場からお前を逃がすつもりはないが」
「孤独で構わんさ。俺はただ世界の敵として君臨したいだけだからな。ああ、それと一つ感謝を言っておこう、ヴァーミリオン・ランドルフ。貴公の母君には感謝しているぞ。実に俺好みの地獄をこれから作り出せる、とな」
「なに……? 待て、それは……!」
そしてライラックさんは変わらず笑顔を浮かべながら、私達に言葉を続けます。
「先程見たであろう我が従兄弟の外法。暴食の君による悪感情の糧への変化。そこな女の本能を表に出す魔術。どれもこの空間では再現できる。そしてマゼンタ・モリアーティの夢魔法と合わせれば」
この状況と夢魔法。その二つが意味するのはつまり――
「この空間に世界の者達を堕とす事が出来る。病弱な者であろうと、等しく力を振るう事の出来るこの空間にな。
――そうすれば、人々が輝く世界となるだろう」
……ああ、まったく。これは酷い。
マゼンタさんの時は否定できない思いがあった。人々を幸せにしたいという想いも、事実夢で幸せな物を見せていたのですから。
ですが、彼の発言の一部は認められても、そこから来る行動と行きつく未来を私は一切認める事が出来ません。
この人は間違いなく。
――私の敵です。
そう、思うのでした。
「それと今の俺は孤独では無いぞ」
「クチナシ様の事か」
「いや、違う。――俺には常に、愛と勇気が友として居てくれるからな」
……何処の邪悪なアンパ〇マンですか!?
備考 前話アッシュ「ようし、じゃあ私の勝ちだー! メアリー、見てましたかー!」
※見てました




