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勝ったっ! 三つ巴、完!(:銀)


View.シルバ



 生まれつき呪いの(とくしゅな)魔力を有するが故に、魔力をその身に宿して回せば身体能力が飛躍的に向上するだけでなく、地形を変動させるほどの力を発揮する事が出来る僕。

 生まれつきの特殊な肉体と資質により肉弾戦及び白兵戦においての突出した力を有し、一切の補助が無くとも拳そのものがそのまま殺戮技巧と化す武の極致を体現したクチナシ。

 自惚れもなにも無くハッキリ言わせて貰うなら、この二人を相手するなどそれこそメアリーさんやクリームヒルト、クロさんのような戦闘においての極致に至る事が出来るような存在だけだと言えよう。

 ましてや身体は健康的で長身であるとはいえ、日頃から白兵戦に特化している訓練を受けている訳でも無い、魔法使いに向いた精霊と契約している以外は“とても優秀な男性”という評価であるアッシュには荷が勝ちすぎている相手と言える。

 当然精霊を使った戦いであれば良い戦いはするだろう。が、当然その場合は戦いのど真ん中に入って近接戦をするなど以ての外だ。近接は僕、そして特にクチナシの領域と言えるのだから。


「ぜーはー……こ、これでお前達が化物じゃ無いという事が分かったか馬鹿共が……ぜー、はーゲホッ、ゲホッ」


 ただし、今この場の三名の中で立っているのは、唯一アッシュだけであった。

 今にも倒れそうな中、少なくは無い血を流しつつ、ぶるぶると震えながら勝ちを誇っている。


――なんか、凄い戦いだったな。


 先程言った通り、アッシュが戦うとしたら中距離から長距離の戦法が良いだろう。

 僕みたいに魔力そのものが詠唱や魔法陣代わりになっているのでノータイムで魔法を放てるわけでもなく、詠唱とかいう途中過程はしゃらくせぇ! とでも言うようなノータイムで殺しにかかって来るクチナシでも無いアッシュに重要なのは魔法の発動時間の確保だ。故に相手の適切な距離を保つのが重要のはずなんだけど……


「まさかあのアッシュ坊が私に突っ込んでくるとはな」

「ふ、ふふふ、意外ですかクチナシ様」

「意外だな。あの大人を裏で馬鹿にしているような、世間を冷めた目で見ている、暴力を嫌う思春期ボーイのアッシュ坊がなぁ」

「……その言い方はやめてください」


 カーバンクルが必死に後ろを付いて行く中、アッシュは「どいつもこいつもバカにしやがって!」という、積年の鬱憤を関係の無い僕達に晴らすかのように突っ込んで来た。完全な無謀なのだが、何故かアッシュはクチナシの攻撃に対応できていた。ほぼクチナシが優勢なのだが、クチナシの攻撃は当たりはしないし、時にはカウンターだって決めていた。


「はは、しかし私が攻撃を喰らうとはな。参考までに聞きたいのだが、私の癖などでも見抜いて対応できたのか?」

「毎回毎回死を覚悟する攻撃を放ってくる貴女に癖もなにも無いでしょうに」

「では何故対応できた?」

「愛です」

「……なんと?」

「愛しきメアリーに再び会うために、私は愛を以って戦いの中で成長したのです!」


 血で意識が朦朧としているのだろうか。


「……ははははは! なるほどな、それは負けても仕様がない事だ!」


 なるほどじゃないよ。なに納得してんだクチナシ。両手両足広げて寝転びながら、豪快に笑ってんじゃないよ。


「負けを認めましたね。認めましたね? 言質は取りましたよ、という訳で私なんかに負ける様な貴方達が化物で無いという事は分かりましたね!」

「まぁ途中からシルバ坊の意識がハッキリし出して、攻撃を私に向けたりアッシュ坊の補助していたのもあるから負けたのだろうがな。大部分の私のダメージはシルバ坊からだからな」

「良いんですよ、私がトドメをさしましたし、そのシルバに対しても私の愛の拳が届いて倒したんだから私の勝ちですよ!」


 ちなみにだが僕も疲れて倒れてはいるのだが、ダメージはほとんどクチナシから貰ったし、カーバンクルの奴が僕に相性の悪い魔力を流し続けた事により魔力がこんがらがって精神的にかなり疲れたというのもあるのだけどね。トドメは確かにアッシュの拳……というか、背中に回り込まれた後に腕でホールドされての反り投げ(※シャーマン・スープレックス)ではあったけど。


「ともかく! 私なんかに負ける貴方達は、私以下の平々凡々なヒトとして会話を以って解決策を模索するという事でよろしいですね!」

「はいはい、敗者は大人しく従うよ」

「シルバはどうだ! 情けない私に対して思う所は無いのか!」

「し、従うから。無いから!」

「なんか私の存在とか名前とかを忘れて本能に飲まれそうだったが、大丈夫なんだな! 友の顔を忘れそうだったが今私の名は言えるんだな!」

「い、言えるから落ち着いてアッシュ!」

「ようし、じゃあ私の勝ちだー! メアリー、見てましたかー!」


 やっぱり血で朦朧としていないだろうか。


「あー……でも、もう駄目です。ちょっとお二人のように休憩しますねー……」


 アッシュはそう言うと、ゆっくりと地面に座り、ゆっくりと僕達の傍に寝転がった。


「大丈夫か、アッシュ坊。そのまま意識を失って死ぬ、という事は無しで頼むぞ」

「大丈夫ですよ。というか血の大半はクチナシ様の攻撃なんですけどね。なんで小指の先っぽが掠っただけで私の肋骨が折れるですか。めっちゃ痛いんですけど」

「あー、僕も痛い。魔力でガードしていたはずなのに、なんか色々折れたような気がする」

「仕様があるまい。私は最大の力をもって相手を屠る事しか考えない女だからな。むしろそれで済んで良かったと思った方が良いぞ」

「直撃していたらどうなったんでしょうね……」

「以前は【水地竜(タラスク・ドラゴン)】の甲羅を粉砕したが」

「直撃しなくて良かった……」

「というかそれを連発できるって凄いなぁ……」

「凄くともいざという時に役に立たねばなんな意味も無いさ」

「いざという時?」

「……。そこは良い。というかそれを言ったらシルバ坊の力とて凄いと言えるだろう。私の想像より遥かに強かったぞ」

「まぁメアリーさんのお陰で効率よく使えるようになったからね」

「それで後ろに瞬時に回り込まれたり、質量を持つ残像を作られたりとか凄すぎだろう」

「それに対応してすべてに殺戮技巧を食らわせに来たヒトに言われたくないよ」

「私なんて二人が分身して十人くらい相手している気分でしたよ……」

「なるほど、つまりアッシュは僕達十人分の力を持っているんだね」

「それは凄いな。是非その調子で邁進して私達での百人力を目指してくれ」

「無茶言わないでください。……というか、聞いても良いですかクチナシ様」

「なんだ?」

「何故、シルバに殺されようとしたんですか」

「…………」

「私が横やりを入れる寸前の貴女は、殺されるように動いているように見えました。……何故、あのような事を?」

「アッシュ坊の勘違いでは無いか?」

「シルバ、お前は感じなかったか?」

「あー……感じたと思う。その時の僕めっちゃ負の感情に支配されていたからちょっと曖昧だけど……あ、それと僕も質問」

「どうした?」

「もしかしてだけどさ、僕に一撃を喰らわせた時。あの時だけ手加減していなかった?」

「…………」

「それはどういう事ですか、シルバ?」

「今思い返せば、いくら魔法で防御してもあのダメージ量は少なかった気がするんだよね。……いや、めっちゃ痛かったけどさ」

「ああ。とても減り込んで文字通りお腹と背中が――いや、なんでもないです」

「待って。僕どんな状況だったの?」

「……気にしないで良いですよ。今はキチンと離れていて、くっついてはいませんからね」

「どういう状況だったの!? ……と、ともかく。あの時の一撃はどうも思い返すと違和感があるんだよね」

「違和感と言うと?」

「なんというか、ほら、魔力ってお腹から練るとかいう方法あるじゃない?」

「あるな。……もしかして」

「うん。僕の中の魔力を呼び覚ます様な――」

「なにか理由があろうとも、私はお前達を殺そうとした」

『え?』

「仮に私が死のうとしていたとしても、仮に善行を為そうとしていても私の行いが正当化される事は無い。私は閉じ込めて快楽的に殺そうとした。それだけだ」

「……でも」

「でももなにもない。私は私だけのため。私欲を以ってシルバを殺そうと――利用しようとした。現に今は失敗して元に戻ったとはいえ、許されるという選択肢は私にはないんだよ」

「…………」

「分かったな、シルバ坊?」

「……分かったよ」

「アッシュも分かったか?」

「はい、分かりました。なので勝者として聞きます。なにをしようとしたか言って下さい」

「……分かって無いな」

「分かりはしましたけど納得はしていません。ごちゃごちゃと言わずに、理由を話しなさい。判断はそれからです」

「あー……くそ。シルバの攻撃を受けて無ければ今すぐ立ってアッシュの口を塞げるんだが……まぁ良い。話せと言うなら話す」

「はい、どうぞ。会話は大切ですからね!」

「アッシュ、お前……」

「……そういう声で私の名を呼ぶな、シルバ。では、話をどうぞ」

「はいはい。……本当に救いようのない話だぞ?」

「はい」

「簡単に言えば、私はシルバ坊を利用しようとした。シルバ坊が覚醒して、止めて貰うためにな」

「止める……なにを?」


「……私が最も愛する、最後の家族の行いを、だよ」


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