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安全面には考慮した代物です(:灰)


View.グレイ



「あはははは! 吹っ飛ぶがいいよ!」


 女性の間で高笑いが流行っているのだろうか。

 そう思いつつ相変わらず威力のある爆弾を投げるクリームヒルトちゃんは一回戦を勝ち進んだ。威力を知っている他の参加者が逃げ惑い、それを追い駆け爆弾を投げる姿を見ながらヴァイオレット様が「捕まらなければ良いが」というようなことを呟いていた。

 他にも勝ち進んだ方として見た事があるのは、相変わらずの太刀捌きのシャトルーズ様、数日前にクロ様に対してよく分からない呪詛を唱えていた銀髪のお方……シルバ様や、メアリー様を呼びに来ていて二年の部優勝のエクル様などが勝ち抜いていた。

 学年別と同じようなメンバーが勝ち抜いているようにも思えるが、他の方々、つまり外部参加者も勝ち抜いている試合もある。そのため参加者が多いのと、軍の騎士団関係者が直々に参加するなど、外部の実力者も参加しているので派手かつ盛り上がる試合になっている。


「……今から飛び入りって、できたっけ」

「おやめなさいミズ・シアン。飛び入りはあくまでも開始前までなので、今からでは出来ませんよ」

「成程、まだ始まっていない試合なら今から飛び入りできると」

「そういう意味ではありません」

「……優勝者に個別で挑戦を」

「おやめなさい」


 そしてシアン様は試合の様子を見て、拳を鳴らし、参加する強者達と拳を交えたいかと言うように今からでも参加をしたいかのようにそわそわとしだしていた。

 シアン様は身体能力だけではなく、魔法も優れている。教会関係者により参加が認められない事が無く参加していれば、恐らく上位陣に食い込む事は可能であっただろう。


「そういえば、ハートフィールド男爵は何故参加することになったのですか?」


 アッシュ様はどうやら別の話題をする事で宥めようとしているようだ。

 しかし疑問顔ではあるので純粋に聞いてみたい内容ではあるようだが。


「どっかの第二王子がクロの名前で申し込みさせたみたい」

「カーマイン殿下が、ですか?」

「うん」

「ですが、何故? 彼とカーマイン殿下にはなにか関係が……?」

「あれ、アッシュ君第三王子の近侍だけど聞いたことないんだ。……そういえば広めないように命令されてたんだっけ。ま、第二王子がクロを嫌っているから嫌がらせをしていると思っておけばいいよ。クロも嫌っているけど」

「……そうですか」


 私は昨日知ったのだが、今回クロ様が試合に出ることになったのはカーマインという名の第二王子の嫌がらせによるものだ。

 クロ様が学生時代に同級生であったカーマインと学園祭で問題が起き、それ以降クロ様はカーマインに目の敵にされている。

 しかし嫌っているからと言って、クロ様を退学させたり無理矢理領主にさせたり、無駄な仕事を押し付けたり学園祭の行事に参加させたりと、直接会ったことは無いが器の小さいと思える男である。その器の小ささのお陰でクロ様に出会えたことは感謝はするけれど。


「――おや、ご覧になってくださいお嬢様。噂をすればクロ様の出番です」


 私達がクロ様について話をしていると、丁度クロ様が出場する番になっていた。

 バーント様が指し示す場所を一斉に見ると、そこには腕を伸ばし柔軟をしているクロ様が居た。


「大丈夫だろうかクロ殿。いくら護身符があるとは言え、怪我をしないとも限らないからな……」


 そしてクロ様の姿を確認し、ヴァイオレット様は 居ても立っても居られないかのようで、今すぐ立ってもっと近くで見たいかのように不安そうにそわそわとしだした。


「心配なのは分かりますが、私達はただ応援致しましょう。勝ちたいようなことをクロ様は仰られていましたし、名前を呼べば喜ばれるかと」

「しかしグレイ。私は他の観客に埋もれない程の大声を出すのは慣れていないのだが……」

「それならば……あ、ロボ様から頂いたこのクラッカーらしきものを使いますか?」


 私はロボ様が確か応援に行けないからと「コレデ、派手ニカマシテクダサイ」事前に頂いていたクラッカーをカバンから取り出した。

 応援に丁度いいものと説明を受けていたので、今が使い時だろう。


「なんでもマキシマム(極限)クラスター(粉砕)キャノン(衝撃砲)の簡易版花火が出るとか。“盛リ上ゲルニハ丁度イイデス”との事です」

「グレイ君、やめなさい。明らかにそれは使ってはならないモノです」


 クラッカーの説明をすると、何故かアンバー様に取り上げられそうになった。別に観客席では応援で道具を使っているので、クラッカー程度は別に良いのではないだろうか?


「いや、せっかくだ、使ってみよう」

『お嬢様!? お気を確かに!』

「気は確かだ。応援に丁度良いのならば良いではないか。もしもクロ殿が喜んでもらえるのならば嬉しい。大声でアピールできないのならば、別のやり方でアピールしなくては」

「流石です、ヴァイオレット様――いえ、母上。では一緒に応援いたしましょう! 紐を引けば良いそうなので、一緒に引きましょう」

「良いぞ、グレイ。確かこういう時はせーの、で引くと良いのであったな」

「ええ、行きましょう!」

『やめてください!』


 一緒に引こうとするタイミングで、バーント様とアンバー様に止められた。

 仕方ないので大きく手を振りこちらに気付くか確かめると、クロ様はこちらに気付いて手を振り返してくれた。

 その様子を見て、ヴァイオレット様は嬉しそうに微笑んでいた。


「……ああしていれば、私達も敵対しなかったでしょうに」

「アッシュ君、それは無理。過去を経験して、クロが相手だからああいう風になっているだけで、ヴァーミリオン殿下相手じゃならないよ。それにイオちゃんにも失礼」

「……そうかもしれませんね。失礼しました」


 小さな声でシアン様達が会話をしていたが、歓声で上手く聞き取れなかった。


ロボが渡したクラッカー

・安全安心クラッカー。音が鳴る際に軽く光る程度で普通のクラッカーである。

 ただ何故か相手の事を想いながら引くと、対象にされたものはその音に気付く仕様。

 原理はロボ自身も把握していない。

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