いつの間にか(:空)
View.スカイ
かつての私は、フラれたシャルを励ました。同じようにフラれた時に励まされた事もあるし、腐れ縁の幼馴染として放っておけなかったからだ。
思えば、あの時からシャルは大きく変わっていたのかもしれない。
「疾!」
「あああぁAaAAああああ!!」
そもそもシャルはメアリーにフラれに行っていた。
確かにメアリーはヴァーミリオン殿下を無自覚に異性として好いていたが、あの時告白が上手くいかなかったとは思えない。メアリーはシャルに対しては異性の友達として好いている部分が多いとは言え、少なからず男性として好いてはいた。不器用なシャルとはいえ、少なからずやりようとチャンスはあったはずだ。
「【紫電一閃】」
「GA、ガアアアアッアア!」
けれどあの時のシャルは明確にフラれるために告白をした。メアリーを傷付けず、メアリーの恋を後押しするようにフラれに行ったのである。
あの時は「そんなはずない。アイツは不器用でそんなこと気付く器用さは無い」と思ったり、「自分がスッキリするために告白をしたんだ」と思ったりもした。事実そう言った部分もあったんだと思う。
「ヒトの恋路を邪魔を、するなぁ!! 恋を邪魔するヤツは馬に蹴られて死ねと言われるのを知らないのかぁ! 邪魔なんだよぉ!」
「生憎とこの場合の馬に蹴られるのはお前だからな。ああいや、幼馴染の恋路を邪魔する暴れ馬がお前か」
「訳の分からない事を言うなぁ――ぐぁあぁ!?」
「生憎と馬の扱いにはなれているものでな。鞭は無いので刀でしか叩けんが、お前にはお似合い――いや、過ぎたるものか」
けど、今のシャルは元から勝ち目が無くて負けを認めたかがらなかった私と違って。
こんな私を好いてくれる男性に会ってもなお何処となく前を向こうという気になっているだけの私と違って。
今のシャルは心も技も成長を――
「【二重奏】!」
「!? 邪魔野郎が二人に見える!? 魔法――ではない、技術のみで分身をしているようにぃ!?」
「父上には遠く及ばない、ただの残像だがな!」
成長を――
「【次元斬】!」
「GUぁああああ!? 次元の裂け目を一瞬作り出すダトぉ!?」
「一瞬程度なら私でも斬れるようになったからな!」
成長、を……
「【同時多発二連攻撃】!」
「ぐぅ!? 今のはほぼ同時ではない――全く同時の二撃ィ!?」
「父上の同時三撃には及ばぬが、その一歩、踏み出させて貰ったぞ!」
…………
「そしてこれが私の新技――【三段突き】!」
「ぐ、ぐぁああああああああぁ!?」
「ふ、如何なる防御も役に立たぬこの技は、お前の蠅にも効くようだな!」
「おのれぇえええええぇ!!」
待て、なんだアレ。シャルがなんか見た事の無い技を連発している。
確かにシャルの父君であるクレール氏は分身したり、空間を斬って次元の狭間に入って異空間からの攻撃を仕掛けたり、ほぼ同時の三方向の斬撃を繰り出したりするような、「本当にこのヒト同じ人類なんだろうか」と思う猛者である(それと対等に戦うクリームヒルトもアレだが)。
私もシャルもいつかはあの領域に届こうと鍛錬はしているが、シャルは父にまだまだ届かない自身の腕を悩んでいたものだ。それでも共に高みを目指し、学園を卒業後も鍛錬を続けようと学園の入学前に誓い合ったものである。
だが今のシャルはクレール氏を彷彿とさせるような技を繰り出している。しかも不安定な足場で、すれ違いざまに攻撃を繰り出している。
しかも居合切りがメインのシャルが突き技を繰り出したのだが、三連続の素早い突きは突いた場所に居た蠅を殺したと言うか、消滅させるように蒸発させた。怖い。
「零に至れ――【無垢の境界】!!」
「AaaaaaAAAA!!」
さらに新技増やしてんじゃねぇですよこの幼馴染。
なんか全てを悟り、無垢である事で見えない物を斬る的な技を出してんじゃ無いですよ。
いつの間にか成長と言うか、変な領域に踏み込もうとしやがってはいませんかこの野郎。
「くっ、効いてはいるが、これはまだ“技”にすらなっていないな。私も修行不足だ。しかし……」
と、言いつつ、悪魔が怯み動けないのを見てからシャルは私の傍にシュタッと降り立つ。
「スカイ。今斬った限りでは、あのクロガネ様もどきを無力化するには私の技だけでは足りないようだ。恐らくスカイの力が必要で――」
「寄らないでください変な領域が移ります」
「スカイ!?」
一歩距離を取る私に対しシャルは「何故だ!?」と言うように私の名を呼んだ。
……本当に知らない内に、私の幼馴染は成長してしまったようである。
「いや、フラれた事で強くなっているのなら、私もこうなる可能性が……?」
「よく分からんが、気のおかない幼馴染相手だろうと喧嘩は買うからな」
「あ、良かった。いつものシャルだ」
「何処で納得している」




