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ヤケクソ大技(:灰)


View.グレイ



「ゼー、ハー……ようやく、逃げ切れた……」

「大丈夫でしょうか、シアン様」


 日も短くなり、これから少々暗く、そして寒くなり始めようかという時に、いつものような切り込みが入った格好ではないシスター服で頭巾を外したシアン様が珍しく息を切らしながら私達の所に駆け付けた。

 シアン様の体力や運動能力はクロ様と遜色ないほどに高いため、ここまで息を切らすのは珍しい光景と言える。そんなシアン様にバーント様が何気ない仕草で飲み物を差し出した。


「シアン様、こちらをどうぞ」

「ああ、うん、ありが、とう。バーン、君……ふぅ、生き返るー……」


 相変わらずブルストロード様兄妹の俊敏さは憧れる。ブレも無く、タイミングを外すことなく差し出す様は私の将来の憧れの一つと言えるだろう。


「ところで何故息を切らしているのですか?」

「んー……? ああ、アッシュ君。ちょっと抜け出してきた時に問題があって」


 シアン様が落ち着いてから、途中から私達と見ていて一年の部の試合に参加された方で、唯一外部も含める特別(エクストラ)試合(トーナメント)に参加していないアッシュ……様が尋ねた。ちなみにクラスの出し物に関しては一度抜け出して役割は果たしたとのことだ。


「もしやなにか問題が起きたのですか?」

「ううん、大司教と殴り合う寸前までの舌戦を繰り広げて、最終的に煽ってから逃げて来た」

「大問題じゃないですか」

「別に良いの。というか、問題と言えば殿下が倒れたって聞いたけど、大丈夫なの?」

「別に良い、で済ませて良い気はしませんが……ええ、大丈夫ですよ。殿下もメアリーもこの試合(トーナメント)には参加出来るほどには回復しています」


 殿下が倒れたというのは、一年の部決勝での事だろう。

 最終的に殿下が勝たれたが、勝者宣言の後には殿下も倒れられて少し場内が騒ついた。すぐに只の精神的過労で問題は無いと判断されはしたが。

 すぐに分かったとは言え、倒れた時はシャトルーズ様、アッシュ様は観客席からは被害が及ばない用の魔法障壁が張られているため遠回りをし、殿下達の医務室へと駆けつけた。

 ヴァイオレット様は複雑な表情であったが「私が行けばさらなる負担をかける。……すまないが、任せる」とだけ、医務室に向かう前のクリームヒルトちゃんに伝えていた。


「…………」


 そしてそれ以降ヴァイオレット様の言葉数が少ない気がする。それはどうも殿下やメアリー様の体調を心配しての口数の少なさではない気がする。今もこうしてシアン様を心配されてはいるが、どことなく上の空な様子が見受けられる。

 あの試合は悔しいけれど素晴らしい試合であった。魔法の応酬や互いの身体捌きは思わず手に汗握るほどであった。

 そしてヴァイオレット様は吹っ切れてはいるけれど、殿下、もしくはメアリー様の今までには無いほどの様子と魔法を見て思う所があったのだろうか。


「レイちゃん」

「はい、どうかされましたか――っとと?」


 私がヴァイオレット様にどう話して良いか悩んでいると、シアン様が私の首に腕を回し少々無理矢理に近い形で顔を近付けられる。


「イオちゃん、なにかあった?」


 そして耳の傍で小さな声で尋ねられる。

 やはりシアン様もなにか思う所があるようだ。私は決勝戦以降にあの様子だと伝えて、詳細は分からないと答えると、


「そっか、ありがと。……まぁ殿下に恋の未練がある、という訳じゃなさそうだし、いっか」


 と言い、私は腕で近付けられた状態のままヴァイオレット様の隣まで行き「それじゃ、座って見てようか」とヴァイオレット様に告げ私とシアン様で挟む形で座った。

 シアン様の右隣には改めて右腕で捕まえたアッシュ様を掴んで座らせ、私の左隣にはバーント様とアンバー様が座る。


「そろそろ始まりますね」


 シアン様とアッシュ様が教会関係の出し物(イベント)に問題ないのかなど会話をしていると、闘技場の中央に審判が登場し、始まりの挨拶、そして軽いルール説明が行われた。

 説明によると、学園生以外の者も参加する上、学園生の全学年も参加するので、学年別の試合よりも多くの参加者で混合戦を行うらしい。

 一通りの説明が終わると、試合を行うにあたって決闘の誓いの言葉を言い、第一試合の参加者が所定の位置につく。誰か知っている方が居られないかと見ていると。


「グレイ君、あそこにアプリコットちゃんが居ますよ」


 アンバー様が手の平で一定の方向を示し、その先を見ると確かにアプリコット様が居た。

 どうやら第一試合からアプリコット様の活躍を見ることが出来るようである。

 あと、何故かアプリコット様の周囲の観客席方々が「お嬢ちゃん、頑張れよー」といった感じの言葉を掛けているように見えるのは気のせいか。


「アプリコット様、勝てるでしょうか……」

「あれ、不安なの? アプリコットちゃん(師匠)なら絶対に勝てる! みたいに言わないのですね」

「勝負に絶対などこの世には無い。というのが教えですので。それにアプリコット様の体力は私めより低いですし。混戦で勝てても体力で倒れて負けないかが心配です」

「グレイ君、割と辛辣だね」


 事実なのでそこは仕方ない。

 アプリコット様は身体は健康的だが、身体能力は補助が無ければ人族の女性平均より低い程度である。それを補う程の魔力はあるのだけれども。


「グレイ君、質問良いですか?」

「はい、どうなされましたかアッシュ様」

「キミはミズ・アプリコットを師匠や先生と呼ぶのではなく、名前で呼んでいますが、なにか理由が?」


 そろそろ始まろうかとする最中、アッシュ様が少し遠くの席から私に尋ねて来た。

 声色からして、重要な質問ではなく軽い質問のようである。ふと気になったと言う所か。

 私がアプリコット様を名前で呼ぶ理由……初めはそう呼んだ方が良いとは思っていたのだけれども。


「名前で呼んで欲しい、と言われたからですね」

「ほう、意外ですね。彼女は師匠と呼ばれたがる性格に思えましたが」

「そうですね。私めも初めはそう呼ぼうとしたのですが……名前で呼ばれた方が嬉しい、のような事を仰られてました。アプリコット様自身も何故かは分からないようでしたが」


 アプリコット様の魔法が素晴らしく、師事した際に色々呼んだけれども、最終的に名前呼びに落ち着いた。

 私は呼ばれ方に関しては、初めに弟子と呼ばれた時に特別感があったので、弟子と呼ばれることに直ぐ決定したが。


「…………ふむ、もしや彼女は……」

「どうしたの、アッシュ君」

「いえ、なんでもありませんよミズ・シアン」


 ……そう言えば、アプリコット様が私の名前を呼んだのはいつが最後だっただろうか。

 ずっと弟子呼ばわりで、グレイと呼ばれた事が無いような気がする。

 今度呼んでもらうように言ってみようか。いや、立派な魔法使いと認められたらその時に呼んでもらおう。今はアプリコット様の活躍を視界に納めないと。


「――【黒炎・邪竜(インフェルノ)】!!」


 そう、試合が始まってまるで敵ではないから後に回そうという扱いを受けたかのようなアプリコット様が、火の魔法で闘技場内部の参加者を一斉に攻撃している様を記憶に納めねば。


「アーッハッハッハッハ! 我をお嬢ちゃんと侮り油断したな参加者共! 我が闇と()の上級魔法の前に平伏すが良いわ!」


 さすがはアプリコット様だ。あまりもの魔法の威力に観客席が騒めいている。弟子として注目されるのが誇らしい限りだ。

 観客の多数が「なにかインチキアイテムか!?」的な反応しているのはきっと気のせいだ。アプリコット様は見るからに素晴らしい魔法使いなのだから、「あんな変な格好の子供が!?」みたいな反応をされるはずが無い。


「フハハハハハ! ついでに炎魔法【不浄と浄化(プルガトリオ)】と闇魔法の【ようこそ天獄へ(パライソ)】も喰らえ! 我が曲はこれで完成だ!」

「上級魔法の複数同時使用!? 流石です、アプリコット様!」

『うわー……』


 アプリコット様はさらに闇魔法を同時併用し、他の参加者を圧倒的な魔法でねじ伏せようとする。

 なんだか馬鹿にされないように、ヤケクソかのように大技を使っているように見えるのは気のせいだろう。

 ヴァイオレット様は何故か頭に手を置き、頭を痛めているかのような仕草を取っていた。

 そしてバーント様とアンバー様は何故か合掌をしていたが、崇めているのだろうか。


「…………やはり、勘違いかもしれませんね」

「アッシュ君、コットちゃんに対してなにを仮定しているかは分かるけど、その反応は失礼だと思うよ。あの様子を見ると分からないでもないけど」

「失礼。高笑いしながら相手を屠る女性に少々警戒していまして」


 シアン様とアッシュ様がなにか気になることを言っていた気がするが、ともかくアプリコット様は一回戦を勝ち抜いた。


黒炎・邪竜(インフェルノ)

・闇魔法を混ぜた火の竜を召喚する凄い闇と火の混合魔法。なお竜の形をして意味はカッコいいからなだけ。


不浄と浄化(プルガトリオ)

・地面を炎で覆い尽くす凄い火の魔法。特に浄化機能は無い。


ようこそ天獄へ(パライソ)

・よく分からないが凄い闇魔法

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