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NDK、NDK!(:杏)


View.アプリコット



 それからの戦闘は一方的であった。

 適切に行動し、初見の技も対応し、発動すれば僕の最大威力魔法と同程度の威力であっただろう大いなる魔法を未然に防ぎ、呪われた力も即時に解析し解呪をした。

 蟲である男は間違いなく強かった。

 僕やシャトルーズが男と一対一で対峙をすれば。勝てたとしても間違いなく傷を負う。二人で組んでも確実に勝てるかと問われれば、勝てると言い切る事は出来まい。

 早さも、回復速度も、力も魔力も、間違いなく男は強かったのだ。

 さらにはダメージを負い続けた男が変態を始め、頭上に黒く欠けた輪っかを浮かべつつ、蟲のような闇の魔力を全身に纏い【異形】と称するしかない姿に変貌した時には、その場に居た全員が身構えて「全力を出さねば殺される」と、手を出さないという約束を気にしていられないと言うほどの死の圧を覚えた。

 異形(アレ)はその場に居た者達が、今後【悪魔】という言葉を聞く度に真っ先に思い浮かべるほどの姿と強さであった。


 だがそれ以上にクリームヒルトさんが強かった。

 相性が良かった、というのもあるのだろう。圧を覚える異形も、悪魔のような力にも彼女は一切の恐怖を持たなかった。

 まるで予想の範囲内かと言うように行動をした彼女は、錬金魔法で作った鎖で男を抑えつけた。そしてそのまま近付いた彼女は、まるで「相手を殺すのに大きな力は不要だ」とでも言わんばかりに指サイズの杭を錬金し、心臓に向かって差し込んだ。

 差し込まれた男は苦しみだし(後から聞いたがコアを打ち砕いたらしい)、見て分かるようなほどに力を失い、元の中年の男の姿に戻ったのだった。


「へいへい、オジサンよぉ。なんか言ってましたよなぁ」

「確か幸福は常に本能と共に有る、的な事を言いましたがよぉ」

「別にそれ自体は否定は致しませんが、証明するために追い詰めるのはどうかと思いますって訳なんですよぉ」

「でも思い通りにいかなくて出てきた挙句に、やられましたお気持ちはどうですかよぉ?」

「ねぇねぇ、どんなお気持ちですかよぉ?」

「……なにもせずに見ていた君達が、私を馬鹿にする資格は無いと思うが」

『その通り。そんな奴らに言われるしかない気持ちはどうですかよぉ!』

「……君達、実に良い性格しているな」

「思春期おじさんも良い性格しているよ」

「その評し方は流石にやめてくれ」


 そしてクリームヒルトさんと蟲の男の戦闘後、相変わらず暗闇の空間の中。班の皆さんは倒して縛った蟲の男を敬語で柄悪く絡んでいた。蟲の男に同意するのは癪ではあるが、彼らは本当に良い性格をしていると思う。恐らく色々な鬱憤が溜まっていたのであろうな。


「というより結局、蟲のお前はなにをする気であったのだ?」

「蟲? ……ああ、私か。確かに私は(ムシ)だな」


 僕は戦闘で傷付いたクリームヒルトさん(大半が殴った反動)を癒しつつ、蟲の男に尋ねる。

 本能と幸福を繋げるこの男の持論に関しては「そういう面もあるが、全てではない」というクリームヒルトさんの答えで僕は納得している。だがこの男は何故僕達をこの場所に閉じ込め、その問答をしたのか。

 ただ前途ある若者が堕ちる姿を見たかった、と言われればそれまでではあるのだが……


「知らしめたかっただけだよ。お前達に堕落と本能の味をな」


 ……どうやら本当に自分と同じレベルに堕とす事を快楽とする破滅主義者か、本当の理由を話す気は無いようだ。こうなるとこれ以上は問い詰めても意味無いだろう。

 ならばこの男が単独犯なのか、男の力は単独によるものなのかを聞いた方が良いだろう。深入りは禁物だが、せめてグレイや他の者達にも危害が及んでいないかを確認をしなければ――


「あはは、私達を生贄にして、完全復活をする気だったんでしょ。セクシーなオジサン?」


 ――と、男の目的を何故かクリームヒルトさんが答えた。


「この場所は祭壇。生贄に捧げるための場所であり、貴方がさっき見せた本来の力を外で出すために生贄を啜る場所。けどより良い生贄を得るためには堕落した魂を生成する必要があった」

「…………」

「だけど貴方にとってのより良い生贄の条件である“喰う”堕落を私達はしなかった。だからこの場所なら貴方も本来の力を出せるので直接出向き、少しでも力を得ようとした。次の贄を得るための収集としてね。なにか間違いはある?」

「…………」


 淡々と言うクリームヒルトさんに対し、何処か今までとは違う表情になる蟲の男。

 周囲の班の者達は「何故分かるの?」と言った様子だが、ここまで言われると僕達……生徒会に所属する僕達は断言できる理由が分かる。

 この男はあのカサスというゲームに出て来る、あるいは似た条件のこの空間が出た、という所か。


「知っていたのだな、クリームヒルトさん」

「うん、ごめんね」

「構わぬよ。何処で聞かれているか分からぬからであったのであろう?」

「うん。……本当にごめん。それとオジサン、私は聞きたい事があるんだから」

「……なんだ?」

「貴方の封印を解いたのは誰?」


 クリームヒルトさんは蟲の男に対し、そこが核心であるかのように尋ねた。

 ……封印。生贄。つまりそれは――


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